23-4 洪水
ミスターと《5》が《2》と対峙していた頃、久吾と天使達は南極宮殿にいた。
「ななさん! コッチだよ!」
「ええ、分かっています!」
翼を広げて飛行するミカエル達の後を、久吾は走ってついて行く。
「…何だか懐かしいな、こういうの」
思わずラファエルがそう呟いた。聞いてウリエルは、少し不服そうに、
「そうかしら。ノアとの旅は、もっとのんびりしてた気がするわ」
するとガブリエルが、
「そもそも私達、確かこの方舟を目指していたのよね、あの頃って…」
ラファエルとウリエルが頷く。聞きながら久吾が、ほう、と感心していた。
「あ! あった! オリハルコン!」
ミカエルが指をさす。
―――オリハルコンの前に到着する。オリハルコンは静かに輝き、佇んでいた。
久吾が、そっとオリハルコンに触れてみる。
久吾の中に存在したはずの『核』は、どうやら反応しないようだ。
「…セルリナ様やミスターの言ったとおり、私は吸収されないようですね。問題は…」
久吾が言うと、ラファエルが、
「ああ。コイツをどうやって運ぶか、だな」
ウリエルとガブリエルは、うーん、と考えるが、ミカエルが、
「とりあえず、ななさんのボールに皆包んじゃえば良いんじゃない?」
「やってみましょう」
久吾は大きな透明の球体を作り、自分と天使達、そしてオリハルコンを包み込む。
「…このまま宮殿の外に移動してみましょうか」
そのまま球体ごと瞬間移動をする。
久吾達とオリハルコンは、無事宮殿を包む氷の上空に姿を現した。天使達が、おお、と感嘆の声を上げる。
「よし、じゃあこのままミスター達のところへ…」
そうラファエルが言った矢先だった。
目下に見える氷から、ズズズ…、と地鳴りが響く。
「「!?」」
全員が驚いていると、氷の大地が少しずつ砕け始めた。
「まさか…」
氷の大地がだんだんと削れていき、海の中に沈んでいく。どのような仕掛けなのかは分からないが、氷は崩れながら熱を帯びていく。
…氷が融けていく。波が逆巻き、少しずつ水量を増やし始める。
「マズイ! ミスター、間に合わなかったのか!?」
ラファエルが叫ぶ。
久吾はすぐさま、ホワイトハウス跡地へと瞬間移動した。
◇ ◇ ◇
―――その少し前。
「―――君が久吾に敵うことはない!」
「!? …どういうことだ!?」
人間達が混沌とするホワイトハウス跡地で、《2》と対峙する《1》と《5》だったが、ふと、複製達に似ているとして集められた者達が、
「………なあ、今なら逃げられるんじゃないか?」
「…そうだな。この混乱に乗じて………」
数人がそう言って立ち上がり、後方へと走り出した。
すると、その様子を見て他の者達も、
「な…!」
「ああっ! 俺達も…」
次々と後に続こうと立ち上がる。走り出す人間達に、思わずダスが、
「! ま、待て! 今動いては…」
そう言った瞬間、《2》は逃げ惑う人間達に向かって、巨大な雷を見舞った。
「「!」」
バリバリ! …と空気を裂く音と共に、目が眩むほどの光が人間達を貫く。
…一瞬で地面に、真っ黒な筋が出来た。処々に赤黒い跡が残る。人間達の悲鳴が、あちこちで響いている。
「………、何という、ことを…」
《1》が呟く。《5》が息を呑む気配がした。
すると、《2》が叫んだ。
「…もういい、面倒だ! 《1》…、《5》…、貴様らも、この場にいない《最後の番号》も、複製も、人間達も、全て消し去ってくれる! 人間達によって汚された世界は、浄化されるべきなのだ!」
そう叫ぶと同時に、《2》の身体が一瞬光る。
「!? 《2》! 何を…」
《1》の問いに答えず、《2》はそのまま身体を浮かび上がらせ、上空へと上昇を開始する。
「待て!」
《2》を追いかけようとする《1》に、
「待って! 《1》! 様子がおかしいわ…、………まさか」
《1》が踏みとどまると、遠くの方で地鳴りの気配がする。
「………! これは…、《2》!」
《1》は上を見上げ、《2》の姿を確認しようとするが、既に《2》の気配は遥か上空へと掻き消えた。
《1》は急ぎ、《5》とダスを自分の側に寄せ、バリアボールを施し、
「…致し方ない、このまま上空の《2》を追うぞ!」
3人でボールごと上昇していく。下を見ながらダスが、
「あ…、ああ! 人間達が…」
下では、上昇する3人を見ている者達もいるが、やはり必死に逃げ惑う者達で溢れかえっていた。
…遠くの方に水平線が見えてきた。だが、その水平線が盛り上がり、波打っている。
「ああ…、《2》…、とうとう最悪の状況を引き起こしてしまったのね…」
《5》が波打つ水平線を見ながら呟く。
その間、《1》は精神感応で誰かと連絡を取っている。
((………聞こえるか、ハイド…、シーク…))
《1》は海底にいるはずの精霊達に問いかける。ハイドとシークは、ずっと《1》達と共にいたこともあり、ある程度精神が繋がりやすくなっている。
((………ター、…ミスター! 聞こえたぞ!))
((やべぇじゃん! 洪水、起こっちゃったぞ!))
《1》は精神感応が通じたことに安堵しながら、更に二体に問いかける。
((済まぬな。君達精霊の能力で、再び氷山や大陸を凍らせることは可能か?))
しかし二体の返事は、
((ムリ! ムリだよ! 俺達の数、メチャクチャ減ってんだぞ!))
((女神だって手は出せねーぞ! てか、キューゴは何やってんだよ!))
《1》が、むう、と唸ったその時、《1》達の目の前に《2》が現れた。
「「!?」」