23-3 混沌
「《2》………」
ミスター…、《1》は静かに《2》を見据えながら、
「…私は、君を止めるために来た」
すると、《2》の身体が僅かに震えた。どうやら、笑っているようだ。
「…クク、…ハ、ハハハ! …誰が誰を止める、と!? 貴様に出来るものか! …丁度いい、貴様を吸収させてもらう! こちらとしては好都合だ!」
《2》は立ち上がり、《1》に思念波を向ける。
…が、《1》は無傷。《1》の前に強固な防御壁が出来ている。
ふいに《1》の後ろから声がした。
「………《2》。話をしましょう。人間達を滅ぼすのは、その後でも良いでしょう?」
《5》だ。
いつの間にか現れた《5》に、《2》が僅かに驚きの表情を見せるが、
「…《5》、裏切り者が…」
そう呟きながら、再び憮然とした表情で、
「話、だと? 今更だな。私に話すことなど無い。《9》も消えた。もう奴の遊びに付き合う必要もない。今すぐ人間達を滅ぼしても構わぬのだ」
そう言って《2》は、今度はダスに向かい、
「…No.733、だったな。貴様、このような目に遭っても未だ人間共を信じるのか?」
《1》や《5》の登場に驚いていたダスだったが、《2》に問われ、思わず呻き、
「…わ、私は…、私は寺院の仲間達を、今でも信じている。…確かに、疑心暗鬼に囚われ、私を槍玉に上げた人間達もいた。私は彼等のことも、信じたかった…」
そして、《2》に向き直り、《2》をしっかりと見据えながら、
「…ただ、これだけははっきりと言える! 人間全てが悪いのではない! 信頼出来る人間も、大勢いるのだ!」
そう話していると、突然後方から横槍が入った。
「おい! お前達! 私を無視するな!」
次期大統領だった。
…ノアの複製達が、思わず声の方を振り返る。次期大統領は僅かにたじろぎながら、
「…あー、いや、君達! その…、君らは皆、仲間なのだな? 良し! それなら私がまとめて面倒を…」
「うるさい」
一瞬だった。
《2》の手から閃光がほとばしり、同時に次期大統領の、首から上が消滅した。
―――人々はその瞬間、何が起こったのか分からなかった。…が、次期大統領の身体がそのまま後方に、ばたり、と倒れた。
すると、側近一人が、
「………う、うわああぁぁああ!」
思わず叫び、後方へと一目散に走り出した。
それを皮切りに、他の人間達も同じように叫びだし、同様に複製達から離れようと我先に走り出す。
…地獄のような光景だった。
一部の米軍兵士が、複製達に向かって銃を撃つ。が、複製達の周辺には《5》の張ったバリアがある。銃弾は彼等には当たらず、逃げ惑う人々に誤って当たっていた。
撃った兵士が驚き、銃を捨てて逃げる。
振り向きざま態勢を崩し、地面に伏した途端、逃げ惑う人々に踏みつけられる。
逆に無事だったのは、複製達に似ているとして集められた人間達だった。
自分達を取り囲んでいた兵士達の混乱ぶりを、呆気にとられて見ていた。
「………《2》、何ということを…」
思わず《1》が呟く。
その瞬間、《2》が《1》の背後に回った。
「《1》!」
《5》が《1》にバリアを張る。《5》の咄嗟の判断で窮地を切り抜けた《1》だったが、次の瞬間、
「キャアッ!」
《2》の放った雷撃が、《5》をバリアごと貫いた。《5》は全身を火傷し、深手を負ったものの、バリアがなければ恐らく塵も残らなかったろう。
《4》の治癒の能力を使い、《5》はすぐさま自己修復を施す。
「…《5》、大丈夫か?」
《1》に訊かれ、《5》は何とか立ち上がり、
「ええ、それにしても、もう話は出来ないのね。…《2》」
《2》は二人を見ながら、
「だから言ったろう、もう話すことは無いと! 《1》! 大人しく私に吸収されろ! …それから、《最後の番号》はどうした!? 何故この場に現れないのだ!?」
訊かれ《1》は、むう、と唸り、
「久吾は現在、南極の宮殿にいる」
「…南極? 今更宮殿に、何の用だ」
訝しむ《2》に、今度は《5》が含みを帯びた笑みを浮かべ、
「《最後の番号》はもう、私達とは違う存在になったのよ。だから彼には、私達があなたを説得出来なかった場合の『最終手段』を用意してもらっているの」
《2》の表情が歪む。
「………どういうことだ?」
すると《1》も不敵な笑みを浮かべ、
「今は彼が…、彼こそが現在の『ノア』となったのだよ、《2》。…もう、君が彼を吸収することも叶わぬ。例え私を吸収しても、君が久吾に敵うことはない!」
「!? …どういうことだ!?」
《1》の言葉は、《2》には理解出来なかった。