23-1 人間と、複製と
洞窟の外へと転移させられた久吾は、そのまま海底から上昇していく。
途中、異形の神達や、パリカカと合流したハイド・シーク達とすれ違う。
((キューゴ! ガンバレよ!))
((うーちゃん達にヨロシクな!))
久吾はテディを抱えながら笑顔で挨拶し、見送られながら更に上昇をする。
―――ブルーホールの底の部分に到着する。
久吾の霊球は深淵部をするりと抜け、現実世界に戻った。
久吾は驚く。
現実世界に戻った途端、久吾には、世界の感覚、とでも言おうか、世界中で大きく動く気配が感じ取れたのだ。
(これは…)
雑多な感情を全て受け入れる訳にはいかない。
久吾は一旦、自分の心を閉じておく。これは、《3》や《4》などの思念伝達者が普段から行っていたことだ。
稀に、人間の中に精神感応能力を持って生まれる者がいる。
こうした者達は能力のコントロールが出来ず、様々な相手から漏れ出る感情をまともに受け、精神に異常をきたす場合が多い。
一瞬、久吾も自分に流れてくる様々な感情に混乱する。
…が、今の久吾は『神』とほぼ同格だ。過去の『ノア』に近い。
感覚を調整し、上昇しながら同胞だった者達の気配を探る。
久吾は、ミスターの気配を捕えた。
((ミスター!))
◇ ◇ ◇
((! ―――久吾か!?))
飛空船の中で、《2》の攻撃に備えていたミスターは、突然の精神感応に驚いたが、同時に安堵した。
((無事に謁見が済んだのだな。すぐに戻れるか?))
ミスターの問いに、久吾は、
((…少しだけ、待って頂けますか? このまま海上に出るまで、今の身体に慣らしていこうと思います))
((今の、とは…、何か、変化があったのだな?))
((その話は後で…、それよりも《2》さんです。そろそろ行動を開始するかと…))
ミスターが驚いていると、飛空船に《5》達が戻ってきた。
「《1》、天使達を解放したわよ。………? もしかして、《最後の番号》と連絡が…?」
ミスターは《5》を見ながら頷く。
すると、《5》は、何やら能力を発動する。
『情報共有―――』
そして、ミスターと繋がっていた久吾に、
((…《最後の番号》、今、この船の中にいる複製達全員と、精神感応の回線を繋いだわ。皆に説明しなさい))
しかし、そこにミカエルが介入した。
((ななさん!))
久吾は驚きと共に、喜びの表情を浮かべ、
((ミカエル! 良かった…、皆さん無事ですか?))
四人の天使達が頷く。《5》の情報共有は、天使達にも接続された。
((…ボク達は無事だけど、めぇさんと、もっちーが…))
ミカエル達がそう言って、うなだれているのが分かる。するとスミスも介入し、
((久吾さん、ハチさんが…。それから、もつこさんも…))
皆、それぞれの役割を果たし、逝ってしまった。情報共有によって全てを察した久吾が、ハチやぬいぐるみ達の冥福を祈りながら、
((ハチさん…。…そうですか。めぇさんともっちーさん、もつこさんも…。…しかし、今は時間がありません。《2》さん達は、最終的に南極と北極の氷を全て融かし、世界を水没させようとしています))
(( !? ))
全員が驚く。それを聞いた《5》が、
((…不味いわね。私達、計画を進行させていた《9》を倒したのよ。彼女がいなくなった、ということは…))
ミスターが蒼白の表情を浮かべ、
((そうだな。計画など《2》にとってはどうでもいい話だ。なれば、いつ氷が融かされてもおかしくは…))
すると、No.56がすぐに動いた。自分の組織の者達に向かって、
「…おい、お前ら! 世界中のメンバーに出来うる限りの『船』を用意させろ! 避難だ! この際、俺達の言葉を信じる奴らだけでいい! 急げ! 洪水に備えろ!」
K・Iのメンバーがすぐに動いた。各々のスマホやPC等を駆使し、何処かへと連絡を入れる。
すると、これを聞いていた大弥や蔵人達も、何処かに連絡を入れ始めた。
手短に事を済ませ、
「…ひとまず、蓼科家の皆には避難を呼びかけた。あとは…」
蔵人がそう言うと、大弥も、
「一応、宝来家にいる斗真…、名執さんに連絡しておいたよ。彼なら楠本さんや貴彦さんを通じて、何かしら手を打ってくれるはずだ」
兄の名を聞いた彩葉が、オロオロとしている。
「お兄ちゃん…、兄は大丈夫かも知れないけど、どうしよう…、お母さん達…」
涙目の彩葉に、羽亜人が声をかける。
「なるべく標高の高いところへ避難してもらおうよ。あきらめないで、出来ることをしよう」
そう言って、彩葉の肩を軽く叩いた。彩葉は頷き、電話をかける。
船内にいる他の者達も、各々の親しい関係者に連絡を取り、避難を呼びかけていた。
―――《5》の情報共有により船内の状況を感じ取れた久吾は、人間達の様子を頼もしく思いながら上昇を続ける。
…海上に出る。
久吾は球体を解除し、千里眼で飛空船の位置を確認すると、即座に瞬間移動していった。