幕間 倉橋のコソコソ話
「………そう、血流を…、………に集中…、………して…」
「…へぇぇ、……で…、ほおぉ、そんなことが…」
―――ここは飛空船の中のロビーの、隅の方の一角。
《2》の攻撃がいつ来るかも分からないのに、何故か今ロビーの隅っこで、倉橋とピエールがコソコソと小声で何かを話している。
「…なるほどなぁ。アンタら人間と違うっていうから、どーすんだろって思ったが…、そういうことも自在に出来んのか。スゲェなぁ」
倉橋が、何やらしきりに感心している。ピエールはにっこりと笑いながら、
「僕達は皆、ある程度念動力を持ってるからね。自分の身体ならそうやって操ることも、今話したみたいに出来るんだよ」
倉橋が、ほぉ、と再び感心する。が、ピエールは少し考え、
「…ただ、人間の男と違って、射精は出来ないよ。でもね、女性を悦ばせるだけなら…」
「…何の話をしてるのかしら?」
リュシーだ。
倉橋とピエールが、ギクリ、と驚く。
「リュ、リュシー!?」
ピエールが慌てているのを感じながら、リュシーが笑顔で圧をかける。
リュシーのそばには、何故かシェリルがいた。倉橋とピエールが冷や汗をかいているのを見て、呆れたような顔をしている。
「い、いや! だって、その、このクラハシが…」
倉橋を指差すピエールに、リュシーは、ふーん、と言いながら、笑顔でピエールの胸ぐらを掴み、
「少しお部屋でお話しましょ♡ どこだったかしら? ちゃんと案内してちょうだい♡」
♡が怖い。
そう思いながらピエールは、リュシーに部屋へと強制送還されていった。
…シェリルと倉橋は、その場で二人を見送ったが、ふいにシェリルが倉橋に、
「…あなた、一体何を訊いていたのかしら?」
そう言われ、倉橋はバツが悪そうに頭を掻きながら、
「いや、だって、久吾さんが、その…」
シェリルは呆れたように、
「…まぁ、訊かれて素直に答える彼もどうかと思うけど…、あなたも随分と怖い物知らずね」
「だ! だってよぉ…、気になるじゃねぇか」
倉橋がそう言うと、シェリルは更に呆れながら、
「………全くもう。…じゃあ、納得出来たんなら、部屋に戻って休んだら?」
「……………」
シェリルに促されたが、倉橋はシェリルを見ながら、何やら言いたげだ。シェリルは、
「…何よ」
訊くと、倉橋がまたヒソヒソと、
「………なぁ、アンタら女性はどうなんだ?」
「!?」
シェリルは驚きながら、先程のピエール同様隅の方に移動して、こちらもヒソヒソと、
「…な、何てコト訊くのよ! 《5》にでも聞かれたら、あなた殺されちゃうわよ!」
倉橋は一瞬、ビクッと縮み上がるが、それでも好奇心は抑えられないらしく、
「で、でもよぉ、お前さんなら何だか教えてくれそーな気が…」
シェリルは呆れ果て、ため息をつきながら、
「………ホントにもう、変な人。悪いけど、女性型は男性型より大変よ。そもそも私達、そういう事が出来るように造られてないんだもの。シュイジン…、美奈なんか人間の男に求められて、そりゃあ苦労したんだから」
倉橋は、ほぅ、と身を乗り出し、
「アレか、久吾さんが姉さんって言ってた…」
「日本ではそうだったわね。まぁここにいる女性型は全員《最後の番号》の姉で間違いないけど………、って! そうじゃないでしょ!」
シェリルが思い出したように怒りだした。
「私はもう話さないからね! いい加減部屋に戻りなさいよ! いいわね!?」
シェリルはぷんすか怒りながら、厨房の方に戻って行った。
倉橋は懲りた様子もなく、むう、と唸りながら、
(………あと、教えてくれそーなのは…)
キョロキョロ、と辺りを見回し、マルグリットを発見する。
「お♪」
倉橋はマルグリットに近づき、コソコソと話をする―――
◇ ◇ ◇
「―――全く、今ここがどういう状況か分かっているのかね?」
ベッドに寝かされた倉橋を前に、ミスターが言う。
石塚はミスターの後ろで済まなそうに、
「面目ありません…。倉橋さん、少しお酒も入ってたみたいで…」
隣ではマルグリットがご立腹だ。
「ほんとにもう…、人間であれば完全にセクハラですよ!」
―――マルグリットは倉橋に、先程シェリルが訊かれたと同様のことを尋ねられ、慌ててミスターに言いつけたのだ。
ミスターの魔法で気を失った倉橋は、とりあえず寝かされている。
「…これに懲りたら、船内での飲酒は控えた方が良いな。誰が飲ませたのかね?」
ミスターに訊かれ、石塚は、
「いや、確かあの、あなた達の仲間でイタリアンシェフの方が…」
美味しいワインがある、とのことで、石塚とダリオは意気投合したらしい。
―――ダリオはその後ミスターに叱られ、厨房から外に出ることを禁じられてしょげていた。
「…日本人、アルコールに弱すぎだよぉ」
それは、人による。
ひでぇ(´Д⊂ヽ …きっと酒祭りの影響です。