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番外編 初めての起床形態

最初の起床形態、ろくでもなかったんです。

 ―――それは、もっちーが名奈家の一員になって間もない頃。


 「…だぁかぁらあぁ! ここはオレ達が使うんだって!」


 ふーちゃんがめぇを、みー君がもっちーを抱えながら、とある土手縁を散歩していると、そんな声が聞こえてきた。


 「? 何だろ…」


 みー君が河川敷を見下ろすと、小学生の集団が男女に分かれて揉めている。男子達の圧にも負けず、女子の一人が、


 「先に来てたのは私達でしょ!? 後から来て何言ってんのよ!」


 すると男子の一人が、


 「うるせぇよ! マジでコイツ、ナマイキだな!」


 ドン! と文句を言った女子を突き押した。


 「キャアッ!」


 女子は尻もちをつく。他の女子達が慌てて、尻もちをついた女子に、「大丈夫!?」と言いながら寄っていく。


 「ほら、どーせお前らじゃオレらに敵わないんだから、早くアッチ行けよ!」


 「…っ!」


 悔しそうに男子達を睨みつける女子達。

 ―――そこへ、


 「待ちなさいよ!」


 なんと、ふーちゃんが、ドーン! と腕を組んで、河川敷に降り立った。抱えていためぇをみー君に預けている。

 みー君はめぇともっちーを抱え、よたよたとふーちゃんを追ってきた。


 「ちょ…、ちょっと、ふーちゃん…」


 みー君が声をかけるが、ふーちゃんは聞く耳を持たない。ふーちゃんは男子達に向かって、ビシッ! と指を差し、


 「勝負よ! 男子と女子、どっちがココを使うか!」


 すると男子が、ゲラゲラと笑いながら、


 「何だよお前! 関係ないヤツはすっ込んでろよ!」


 「どーせコイツらがオレらに敵うわけねーんだよ!」


 そう言うと、ふーちゃんは、ニヤリ、と笑って、


 「…フフン、それって、ホントに勝負しちゃったら女子に勝てないから言ってるんじゃないの?」


 その言葉に、カチン、ときたのか、男子達は、


 「ムッ! おぉ、いーぜ! そこまで言うなら、やってやんよ!」


 ふーちゃんは、フッ、と笑って女子達の方を向き、


 「…あなた達、何ならアイツらに勝てそう?」


 すると女子達が、少し動揺しながらも、


 「え? えーと…、ドッヂボールなら、意外とイケるかも…」


 尻もちをついてしまった女子が言うと、ふーちゃんは、フワリ、とワンピースの裾を翻しながら女子達の方にやって来て、


 「私も入る! 助っ人、するわよ!」


 その優雅な仕草と、ふーちゃんの可愛らしさに、一瞬女子達も男子達も、ほぅ、と見惚れてしまったが、男子達は、ブルブル、と首を振り、


 「…よ、容赦しねぇかんな! いくぞ!」


 えぇ…、とその様子を、みー君はぬいぐるみ達を抱えてオロオロと見ていた。


   ◇   ◇   ◇


 「―――勝負あり! 女子チームの勝ち!」


 なし崩し的に審判をさせられたみー君が、そう宣言する。女子達がふーちゃんを囲んで、ヤッター! とはしゃいでいた。

 男子達は悔しそうに地べたを這いつくばっている。


 「くっ…、こんなハズじゃ…」


 そう悔し涙を流していると、


 「おぅ、弟よ、何やってんだ?」


 中学の制服を着た男子集団がやってきた。皆ガタイの良い、ちょっぴりヤンチャな香りのする一行だ。

 すると泣いていた男子の一人が、


 「…あ! 兄貴! ちょうど良いところへ! 実は―――」


 かくかくしかじか、と事情を話すと、兄貴と呼ばれた中学生は、ギロリ、とふーちゃんを睨みつける。


 「…ふむふむ。情けない弟だ…。だが、泣かされてるのを見ちまった以上、ほっとくわけにもいかねぇな」


 ずい、と中学生達が、女子達ににじり寄ってくる。

 その様子を見て、みー君に抱えられていた二体のぬいぐるみが、


 「………こ、これは、マズイ状況ですメ」


 「…だな。なぁなぁ、今こそ、ハッチャンが言ってた『天使の守護者(ガーディアン)』の出番じゃね?」


 「え」


 みー君が驚いていると、もっちーが、すぽーん、とみー君の腕の中から地面に着地し、


 「めぇ! オレっち達の出番だぞ!」


 「はいメ!」


 めぇもみー君の腕をすり抜け、二体はその瞼を、カッ! と開き、


 「眠れる(スリーピング)(シープ)!」


 「眠れる(スリーピング)海豹(シール)!」


 「「起床(ウェイクアップ)形態(モード)!」」


 めぇともっちーは変形して、中学生達に襲いかかる。


 「う、うわ! な、何だ!?」


 ボコン! バコン!


 めぇともっちーが、中学生達をボコボコにしていると、


 「―――何してるんですか」


 「あ! ななさん!」


 久吾が突然現れ、周囲に結界を張った。


 「…ふーちゃん、皆さんを眠らせて下さい」


 「はぁい」


 ふーちゃんは唄を歌った………。


   ◇   ◇   ◇


 「…これで良し。皆さん、ちゃんと忘れて下さると良いんですけどね」


 久吾は、その場にいた小中学生一人一人に印を結び、忘却の術を施す。


 「ななさん、ミスター呼んで魔法かけてもらった方が早いんじゃない?」


 みー君にそう言われたが、久吾は、


 「こんなことでミスターを呼びつけたら、怒られちゃいますよ。それより―――」


 久吾はぬいぐるみ達を見る。変形を解き、ギクリ、とするめぇともっちーは、


 「「………ごめんなさい」」「メ」「です」


 しょんぼりしている。久吾はため息をつきながら、


 「…反省しているようですから、あなた方は一週間おやつ抜きで勘弁してあげましょう」


 ええ!? とショックを受けるぬいぐるみ達だったが、久吾は透明の球体に名奈家のメンバーを包み、


 「とりあえず、家に戻ってからハチさんのところに行きましょうね。…それと、もう勝手に起床形態になっては駄目ですよ。良いですね?」


 ぬいぐるみ達は、はぁい、と返事をし、久吾は透明の球体ごと瞬間移動すると同時に結界を解いた。


 ―――そして、倒れていた子供達が目を覚まし、


 「………あ、あれぇ? オレ達………」


 何が起きたのか、皆混乱していた。


   ◇   ◇   ◇


 ―――その後、あの河川敷では男子と女子が、時々揉めつつも仲良く譲り合って遊ぶようになったらしい。

読んで下さってる方、ありがとうございます。

…さて、本編はあともう少しで完結します。

その前に、お気に入り作家様のところの企画に参加する為、しばらくお休みします。

お絵描き企画なので、非常に時間取られると思います。ひと月くらいかかるかな…。

遅くともゴールデンウィーク前には戻りたい。頑張ります。

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