幕間 賑わう茶の間
「―――いやー、死んじまったけどオマエと一緒だから、ちょっぴり安心だな!」
めぇの頭の上に乗っかったもっちーが、ゴキゲンでそう言った。めぇも陽気に、
「そーですメねぇ、まさかご一緒出来るとは…。ですけどココ、どこなんですメかね?」
霧に覆われた河原を、てちてち、と歩いていると、段々と霧が晴れてくる。
「お? アッチに何かあるぞ! …ん?」
「メ? …コタツに、テレビ………?」
すると、人影が見えてくる。高校生くらいの少年が、こちらに向かって歩いてきた。
「………え?」
もっちーが、驚いた顔で少年を見る。少年は、
「―――よっ!」
元気に挨拶をする。もっちーが、
「………た…」
「やぁっと来たかぁ。待ちくたびれたぜ!」
少年の顔を見ながら、もっちーの目から涙がこぼれる。
「………た…」
少年は、にっこりと笑いながら、めぇの頭からもっちーを抱き上げ、
「おう! 俺だぞ!」
もっちーは泣きじゃくりながら、少年・拓斗にすがりつき、
「…拓斗ぉおぉ―――! うわーん! 会いたかったぞー!」
拓斗はもっちーを笑顔で抱きしめ、
「ハハ! お前、すっげぇ頑張ったな! 俺も鼻が高いぜ!」
よしよし、と撫でてやる。
それを見ながら、めぇがもらい泣きをしていた。
「…あの方が、拓斗さんですメか。もっちーさん、良かったですメねぇ」
そう言うと、めぇの隣に赤ん坊が現れた。
「…お前もだ。待たせやがって…」
「メ? どちら様ですメか?」
そう話していると、秋恵がやって来て、
「さぁさぁ、皆さん、こちらへどうぞ」
皆をコタツに誘導する。すると、椿鬼が小走りでやって来て、
「はぁ、はぁ…、ごめんなさぁい! 遅れちゃったわぁ!」
謝りながらやって来た。その手にシンが使っているものと同じ、子供用の補助椅子を持っている。
その椅子をシンの椅子の隣に置き、
「はい、どうぞ。ヒツジさんのよぉ」
シンとめぇは隣同士に座って、コタツに潜り込む。もっちーは拓斗の懐に、すっぽりと収まっていた。
「わーい! 拓斗と一緒だぞ!」
嬉しそうなもっちーだが、めぇが目の前に座る桃子ともつこに気付き、
「メ!? もつこさん!?」
「え!? この子、もつこの前の持ち主じゃね!?」
桃子がびっくりして、思わずもつこと一緒にコタツに潜り込もうとする。秋恵が慌てて、
「あらあら、桃ちゃん、怖がらなくても大丈夫よ」
桃子は、そぉっ、とコタツからめぇ達を見ている。そうしていると、誰かが庁舎からこちらにやって来た。
「…ようやく魂が揃ったな」
「ん? 誰だ?」
すると椿鬼が驚いて、
「あ、あら! ヤフェテ様!?」
ヤフェテと皐月鬼が、賽の茶の間にやって来た。ヤフェテはコタツの面々に向かい、
「そなたら、我が弟子が迷惑をかけたな。本来ならとっくに成仏しているはずなのに…。条件は揃ったが、門をくぐりたい者はいるか?」
そう訊かれると、拓斗とシンが、
「えぇ…、もーちょっと待ってくれよ! まだアッチの決着、ついてねーじゃん!」
「ああ。このまま現世が、あのベートってヤツのせいで水没するかも知れねぇのに、ここで見納めじゃ成仏なんて出来ねぇぞ」
ヤフェテはにっこりと笑い、皐月鬼に目で合図を送る。皐月鬼は頷き、庁舎に戻っていった。
「ところでおっさん、我が弟子って言った?」
ふいに拓斗が言うと、後ろで椿鬼が、あわわ、とあたふたしている。ヤフェテは気にもせず、
「ああ、久吾は私の弟子だったのだよ」
え!? とコタツの面々が驚く。
「旦那様の!?」
「ご主人のか!?」
めぇともっちーが言うと、拓斗達も驚いて、
「えぇ!? じゃあおっさん…、じゃなくて、えっと…、お師匠様!?」
「そういや椿鬼が、『ヤフェテ様』って呼んでたな」
ヤフェテは笑いながら、
「好きに呼んでくれて構わぬ。それよりも、私もここで一緒に見ていても良いか?」
すると秋恵が、
「あ、あら! それじゃあ私が、場所を空けましょうか?」
場所を譲ろうとすると、ヤフェテは手で遮り、
「ああ、そのままで構わぬ。そなたらの邪魔をするつもりはないのでな」
聞いて、めぇともっちーが、どうぞどうぞ! と楽しそうに言う。慌てて椿鬼が椅子を運んできた。
ヤフェテは、ありがとう、と礼を言い、一緒にテレビを見る。
テレビには、ちょうど《5》達が飛空船に戻ってきたところが映っていた。
「…旦那様、まだ戻ってませんメ」
めぇが言うと、ヤフェテが、
「このテレビでも、あの場所はさすがに映せぬだろう。ひとまず、ベートなる者の動向を見ようではないか」
そう言っていると、皆の話を聞いていた桃子が、もつこを抱きしめながらむすくれている。ヤフェテが気付いて、
「? どうした、桃子とやら」
「………いぃな、みんな…。…もつこ、おしゃべりしてくれない」
そう言ってしょんぼりしていると、ヤフェテが、
「その者は分霊になって間も無かったからな。…どれ」
何やら印を結ぶ。すると、桃子が抱いていたぬいぐるみのもつこの目が、パチクリ、と動き、
「―――ももちゃん!」
「! …わぁ! もつこ! おしゃべり出来た!」
お互いにニコニコと抱き合う。拓斗とシンが驚き、
「え!? い、今、何したんだ!?」
「少しばかり、魂の配分を調整したのだ。どのみちそなたらも、門をくぐれば一つになる」
そう聞いてめぇが、
「一つに、ですメか…。ワタクシも誰かと一つになるんですメか?」
するとシンが、呆れたように、
「隣にいるだろ、お前はオレの半分だ」
え!? とめぇが驚く。そして何故か拓斗も、え!? と驚いていた。
「お前…、そーだったのか!? マジかぁ…」
その言葉に、シンが逆に驚き、
「お前、今まで気付かなかったのかよ。バカだとは思ってたが、ここまでとは…」
「ぬぉ!? 何だとぉ!?」
何やら言い合っている。めぇは、少し申し訳なさそうに、
「そーですメかぁ…。ワタクシだけお母様の生まれ変わり、風月様と楽しく過ごして、何だか…」
するとシンは、
「ああ、それなら気にするな。拓斗が来るまでオレのお世話係は、ずっと母さんだったからな」
そう聞いて、めぇはまた驚く。が、風月の年齢を考えると、確かに、と納得していた。
…桃子はその間嬉しそうに、秋恵に見守られながら、自分の分霊のもつことお話していた。
本編の前に番外編入ります。