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21-9 告白と邂逅

 「めぇチャン………」


 ただのぬいぐるみとなっためぇを、風月は泣きながら抱きしめている。ミカエルも同様だ。


 ―――ひとしきり泣いた後、風月は涙を拭い、ぐっ、と顔を上げる。


 「………月岡さん」


 風月達を見守っていた月岡が、ふいに声をかけられ、? と風月を見ると、


 「私、決めました」


 「? 何だ?」


 月岡が尋ねると、風月は、


 「………私、子供を産みます! きっとめぇチャン、私のところに生まれて来てくれると思うから!」


 周りの皆が驚いたが、一応月岡は訊いてみる。


 「そうか…。………で、相手は?」


 「? 相手?」


 キョトンとする風月に、月岡は、


 「一人じゃ子供は産めないだろう。結婚するんだろう? 仕事、辞めるのか?」


 言われて風月は、初めて、はっ! と気付いたようで、ものすごく動揺している。


 「そ! そそそ、そっか! ええ…、ど、どど、どーしましょう! 私、付き合ってる人なんて…」


 ピクリ、と月岡が反応する。


 「いないのか」


 風月は、しょぼん、とうなだれて、「…はい」と小さく返事をする。


 すると、月岡が、スタスタ、と風月に近づき………、


 「!?」


 風月をめぇごと、ぎゅっ、と抱きしめた。


 「………俺が、もらってやる」


 (!? …え!? ええ!?)


 少しパニックになっている風月だったが、月岡もかなり衝動的な行動だったらしく、自分でも驚いているようだった。極寒の中、月岡の顔が耳まで真っ赤になっている。


 「あ! ああ、あの! …そ、それって………」


 「…俺じゃ、ダメか?」


 耳元で囁かれ、緊張感とショック、悲しみと驚きと、目まぐるしい感情の変化に目をぐるぐるさせ、とうとう―――


 「―――三枝!?」


 倒れてしまった。しっかりと風月を抱き止める月岡を見ながら、周りにいた天使達は、さっきまで悲しみに暮れていたのに、笑えていた。キーラとオリヴィアもだ。

 ヴァレリーと李、粒子から人型に戻ったNo.56は、ニヤニヤと笑っている。


 「…全く、人間ってのは面白ぇな」


 そう言っていると、《(ヘー)》も、


 「そうね。面白いものを見せてもらったわ」


 そう言いながら、くるりと踵を返し、ホバーに乗り込もうとする。キーラとオリヴィアが慌てて《(ヘー)》の後を追う。

 《(ヘー)》はホバーから振り返り、


 「さあ、飛空船に戻るわよ」


 そう言われ、それぞれがホバーに乗り込むが、


 「天使達はどうする? 定員数が…」


 No.56が訊くと、天使達は上空に飛び上がり、


 「ボク達はこのまま飛んでついて行くよ。…あ! キミ! …お願いしてもいい?」


 ミカエルはキーラに、ただのぬいぐるみとなったもっちーを手渡して預ける。


 「…ボクの友達。大事に預かってて」


 「! …ええ!」


 キーラは頷いて、ぬいぐるみを抱きしめる。


 ―――3隻のホバーと天使達は、飛空船へと向かって行く。彼の地の日没は、もうすぐだ。


   ◇   ◇   ◇


 ―――少し時間を遡る。

 ちょうど飛空船が南極大陸に到着した頃、久吾とテディ達は、ブルーホールの最深部を越えて(・・・)いた。


 「スゲェな! 久吾のバリアボール!」


 「ミスターのバリアボールは、ここで手こずってたんだぜ!」


 ミスターはこの最深部を越えられず、何度も通っては、ここの住人達と交渉をし、魔法を駆使し百年以上をかけて、やっと通過したのだ。


 「おや、そうなんですか?」


 ミスターは何度も通った際、ハイドとシークと仲良くなった縁もあり、現在に至っている。彼等は元々、この海の底に逃れてきた精霊なのだ。


 底を越え、真っ暗な海の底を更に深く沈んでいく。

 すると、ふいにボンヤリとした鈍い光が近づいてくる。


 ((………お待ちしておりました))


 姿が見えてくる。人魚だ。だが、おとぎ話に出てくるような美しい姿とはほど遠い。口は耳まで裂け、目は魚と同様で、全身緑がかっており、半魚人と言った方が良いかも知れない。


 「よお! パリカカじゃん!」


 「お迎えご苦労だな!」


 テディ達が元気にそう言うと、パリカカと呼ばれた人魚は、


 ((…うるさいのが帰って来たね。まぁいいさね。…名奈久吾。『女神』のおわす場所まで、案内させて頂きます))


 精神感応でそう言い、暗闇の中を進んでいく。

 久吾はパリカカの後を追うように、念動力で自分達の入った透明の球体を進ませる。


 進んでいくと、明らかに海の生物と違う…、人の世界では考えられないような姿の生き物が、ボンヤリと鈍い光を放って闊歩している。


 「これは…」


 久吾が不思議そうに見ていると、パリカカが、


 ((ここには昔、ノアと天使達が救済した者達の一部が流れてきて、集っているのですよ。…だいぶ減りましたけどね))


 ほほぅ、と感心しながら見ていると、パリカカは、


 ((あなたも日本に来た頃は、我々の仲間の姿を視てきたのでしょう?))


 言われて久吾は懐かしそうに、


 「そうですね。最近は残念ながら、中々その姿を視られませんけど」


 そんな話をしながら、パリカカの後をついて行く。

 時折、周りの不思議な精霊達に声をかけられながら、長い距離を進んでいくと、洞窟の入口のような場所まで来た。


 ((…ここをこのまま登って行って下さい。途中で水が切れますので、そこからはバリアボールを解除し、歩いて行けるでしょう。…女神は、その奥におわします))


 そう聞いて、久吾はパリカカに礼を言い、パリカカはテディ達に手を振られ行ってしまった。


 久吾達は洞窟の入口を進んでいく。

 水の切れた場所で、久吾はパリカカに言われた通り、透明の球体を解除し、自らの足で進んでいく。テディ達も一生懸命歩いている。


 ―――やがて、辺りがほのかに明るくなる。周りの鉱物が光っているようだ。

 開けた場所に出る。その中には、輝く鉱物と共に、たくさんの花が咲き、芳しい香りがしている。


 …中央に、十代半ば程の姿の少女が座っている。

 青みがかった銀色の長い髪。薄衣をまとって、こちらを見て微笑んでいる。その少女が、


 「―――いらっしゃい。はじめまして、名奈久吾」


 その場に久吾を招き入れた。

キーラ&オリヴィアは《(ヘー)》様に通訳してもらってると思われます。

次、茶の間です。

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