4-3 久吾と倉橋
「月岡、ちょっといいか」
倉橋が呼んだ。
「はい」
月岡と倉橋は署の屋上に上がっていった。出来れば人に聞かれたくない話である。
「…昨日の件ですか?」
「ああ。お前、あの人のこと、どう思った?」
「久吾さんですか。いやまぁ…、まだ不思議な人だな、くらいですけど」
倉橋はふむ、と言いながら空に浮かぶ雲を見る。
「…俺が最初に久吾さんと出会ったのは、まだ俺が刑事に成りたての頃でな。約40年前になる」
「?」
月岡は少し考えた。昨日会ったあの男は確かに不思議な佇まいではあったが、どう見ても自分と同じくらい、30代半ばか、せいぜい40代くらいだ。
「…ってことは、あの人が生まれた頃からの付き合いってことですか?」
「違う。あの姿は、俺が出会ったときのままだ。今も変わらないのさ」
「!?」
「それから、隣の部屋に子供が二人いたのに気付いたか?」
月岡は息を飲んだ。
「…まさか」
「そのまさかさ。あの子供達も、俺が出会った頃のままなんだ」
「マジですか…。そんなことあるんですかね。動くぬいぐるみといい、ホントに何者なんですか」
倉橋は少し考えてから言った。
「………分からん。不思議な能力も持ってるし、得体の知れない感じもするんだがなぁ、ただ…」
倉橋が、月岡に向かい合う。
「…俺は久吾さんのこと、嫌いじゃねえんだ。初めて会った時には、命を助けられてるしな。話してみると、案外抜けてて面白かったりするのさ。…気さくで、気の良い人なんだ」
月岡は黙って聞いている。
「だからなぁ、もしあの人に味方する人間がいなくなっちまったら、その不思議な力はどう使われるんだろうって心配になるんだよ。人間がみんなあの人の敵になっちまったら、久吾さんは…」
少し考えてから、月岡が言った。
「…もしかして、そうならないように見張り役として、俺を選んだんですか?」
倉橋は月岡の顔を見て言った。
「違う」
「? じゃあ…」
「…友達になってやってくれねぇかなぁ」
意外な提案だった。
◇ ◇ ◇
月岡と倉橋が屋上で話をしていた、その頃。
風月は昨日の、久吾の家付近を走り回っていた。
「…はあ、…はあ、…ない、めぇチャン家がない…」
久吾達の家は、事前に会う約束をしないと辿り着けない。だが風月は、そのことを知らずに走り回っている。
「あーーーん! めぇチャーーーン!!!」
…この一時間後、風月は倉橋と月岡にこっぴどく怒られた。