21-8 内緒話の真相
「や…、やったぁ…!」
瓦礫となったボックスから、ついに天使達が姿を現す。
「………もっちー…」
ミカエルとガブリエルはそれぞれ、ボックスの破壊と共に起床形態が解かれた、もっちーとめぇを抱き上げる。
「めぇちゃん…、こんなに、………こんなにボロボロになるまで…」
ガブリエルが泣いている。ミカエルもだ。
ラファエルとウリエルは、
「ハイドとシークは…」
「…いない、の?」
するとめぇが、
「…ハ、ハイドさんと、シーク…、さん、は、…旦那様を、『女神』様の、ところ、へ…」
聞いてラファエル達が驚きながら、うなだれている。
「ハイド…」
「女神のところへ、か…。お別れ、出来なかったな」
泣いているウリエルを、ラファエルが肩を叩いて慰める。
二人は、彼等が女神のところへ行ってしまえば、もう戻れなくなることを知っていたのだ。
「………みんな、分かってるよね?」
ミカエルが言うと、他の天使達が頷く。
その背の翼を広げ、今まさに人間達を蹂躙しようとする《9》に向かって能力を発動する。
「!? て、天使達…! や…、やめてよ! 何するつもりなの!?」
ミカエルは怒っている。ボロボロのもっちーを抱きしめながら、《9》を睨みつける。
「ボク達の大切な友達を、こんなにひどい目に合わせて…。絶対に、許さない!!」
四人の天使から、目が眩むような白金の輝きが放たれ、それは《9》に向かって渦を巻いていく。
「あ…、ああ………、いや、やめて…!」
《3》を屠った時以上の輝きを纏った渦が、《9》をあっという間に蝕んでいく。
「あああ…、《2》…、………《2》―――!!」
《9》はそう叫びながら、消滅していった。
「はあ…、はあ…、もっちー」
「………み、みー、君。…無事で、良かっ、た…」
ミカエルに、ぎゅっ、と抱きしめられたもっちーが、笑顔でミカエルにすがりつく。
一方の、ガブリエルに抱きしめられためぇも、「ふーちゃん…」と弱々しい笑顔を見せていた。
―――そこへ、風月達が近づく。
「………め、めぇ、チャン………」
ガブリエルは風月を見ると、抱きしめていためぇを風月に譲る。風月はめぇを抱きしめながら、
「こんな…、は、早く! 飛空船に戻れば、めぇチャン達を直せる人達が…!」
すると《5》が首を振り、
「残念だけど、《8》はもう…。外見だけならNo.432達が直せるでしょうけど、完全修復出来る者はもう、いないのよ」
「そんな…!」
風月がそう叫ぶと、風月に抱かれていためぇが、
「………か、風月、さ、ま…」
「! めぇチャン!」
めぇは、にっこりと笑って、
「…は、初めて、お会いした、…時の、コト…、…覚えて、ます、メ…、か…?」
? と思いつつ、風月が頷くと、めぇは、
「…あ、あの、日…、風月様、達が…、お帰りに、なった、後…、旦那様、が―――」
◇ ◇ ◇
「…めちゃくちゃ疲れましたメ、旦那様ぁ」
「―――そうですか…。いいことを教えてあげましょうか」
あの日、倉橋に連れて来られた風月達が帰った後、久吾がめぇにこっそり伝えたことがある。
「風月さんがめぇさんを見た瞬間、彼女の魂の色の変化とともに、風月さんとは別の顔が視えたんです。…あなたのおばあさま・ちとせさんの面影があったので、彼女の若返った姿かと思いましたが…」
「? おばあさま、ですメか?」
「…いえ、恐らくあれは、あなたのお母様…、百合さんではないでしょうか。多分彼女は、百合さんの生まれ変わりでしょう。きっとめぇさんと、魂が惹かれ合ったんじゃないでしょうかね」
めぇは驚くと共に、とても嬉しくなり、
「ホントですメか!? うわぁ…! 風月様、また来て下さいますメかね!?」
久吾は頷き、いつでも来ていただいて構いませんよ、と話していたのだ。
◇ ◇ ◇
「―――ワタクシ、嬉し、かったのです、メよ…。お母様と、…過ごし、てる、みたい、で………」
「………めぇチャン」
風月は泣きながら、めぇを抱きしめる。
すぐそばでは、ミカエルともっちーが、
「…みー君、…オレっち、を、拾って、くれて…、ありがと、ね………、オレっち、毎日…、ムチャクチャ、楽しかった、ぞ」
「………もっちー、ヤダ! イヤだよ! そんな風に言わないでよ!」
ミカエルが泣きながら、もっちーを抱きしめていた。もっちーもめぇも、互いに抱きしめてくれる相手に、
「…み、皆様………、ありがと、です、メ…」
「ごめん、ね…、今まで、ありがとう、ね………」
ぬいぐるみ達の意識が遠のいていく。
天使達と風月が、
「「もっちー! めぇちゃん!」」
「めぇチャン!」
ここには視える者はいない。だが、たった今、めぇともっちーの魂…、真太郎と拓斗の魂は、上へと上がって行った。
茶の間の前に、あと一話。