21-7 共鳴
「めぇ! 今、聞こえたか!?」
もっちーが叫ぶと、めぇも、
「はいメ! ふーちゃん達が、ワタクシ達を呼んでくれましたメよ!」
二体はボックスに向かう。ガンガン! と叩きながら、
「「みー君! ふーちゃん!」」
そう叫んでいると、《9》の顔から笑みが消えた。
(………おかしいわね。あの中は精神感応も遮断するはずなのに…)
そう考えていると、ふいに《9》の頭の中で声がする。
((…へえ、そうなのか))
「!?」
《9》が驚いていると、声は続けて、
((―――成程な。あの箱の『鍵』が分かったぜ))
「! お前…、《二桁》! 何で…」
声の主はNo.56だ。《9》はすっかり倒したものと思っていたのだが、
((人間達が俺に付けた二つ名に、『蜃気楼』ってのがあってな。お前が倒したつもりになっていたのは、俺の幻影だよ))
《9》は辺りを見回す。そういえば、先程までへたり込んでいたはずのNo.56の姿が、どこにも無い。
歯噛みする《9》を無視し、No.56はぬいぐるみ達に精神感応で、
((おい、お前ら。今から言う事を、天使達に伝えろ))
「ぬ!?」「メ!?」
驚くぬいぐるみ達に、No.56は、
((あのボックスの核は、天使達の『羽』を使ってる。だから、ボックスの中で天使達が、翼を広げて能力を使おうとすれば、核が作動して、ボックスの結界が強固になるよう造られてんだ。…だから、何とか翼を広げずに、天使の能力を解放しろ))
聞いてぬいぐるみ達は、
「そーなんですメか!?」
「でもそれって、ムチャクチャ難しいんじゃね!?」
そう言うが、No.56は続けて、
((今お前らは、『女神の因子』ってヤツのお陰で、天使達と繋がってる。ボックスの内と外から因子の効果を発動すれば、あの女が造った核は耐えきれず、砕けちまうはずだ。やってみろ))
めぇともっちーは互いを見合って頷いた。そしてボックスに向かい、念を送る。
((みー君! 聞こえる!?))
((…もっちー! 聞こえる! 聞こえるよ! そこにいるの!?))
((ワタクシもいますメ! 皆様、今からお伝えすることをやって下さいメ!))
めぇともっちーは天使達に、翼を広げず能力を解放するよう促す。
ボックスの中の天使達は頷きあい、行動に移す。
ぬいぐるみ達は光をまとったまま、ボックスに攻撃する。
光は段々と、輝く白のもやと、キラキラと輝く金の霞に変化していった。
◇ ◇ ◇
「―――そう、悪かったわね。あなたの『奥の手』を使わせてしまって」
《5》の言葉にNo.56は、
((今使わないで、いつ使うんだよ。…まぁ、俺にもそろそろ、寿命が来る。気にするな))
《5》は静かに頷く。
No.56は普段、急に気配を消し姿を消したりするが、これは光学迷彩の原理の応用と、『隠密行動』の能力を併合している。短い距離なら瞬間移動も可能だ。
そして、彼だけの特別な能力として、自らの身体を粒子に変換出来る。だがこの能力は、身体に凄まじい負担をかけるのだ。
粒子と化したNo.56は、あらゆる場所に潜り込める。今回は《9》に能力を吸い取ったと思い込ませ、《9》の体内に入り込んだ。
中に入ってしまえば、いかに心を閉じようと、考えていることは分かってしまう。
「………あなた達、よくも…」
《9》の表情から笑顔が消えた。《5》は静かに微笑みながら、
「能力を吸い取った時、解析しなかったあなたの落ち度よ。あきらめなさい」
《9》は《5》の後ろに瞬間移動し、
「こうなったら、《5》姉さんの能力を…」
「無理ね。今の私は攻撃の術こそ無いけれど、防御に関しては鉄壁だもの」
《5》の言葉通り、吸い取ろうとした《9》の手が鉛のように重くなる。
「! …ズルいわよ、《5》姉さん」
そう言うと《9》は、《5》の周りの氷を変形させ、《5》を囲むように氷の檻を作る。
「! へー様!」
キーラとオリヴィアが気付いて、《5》のそばに走り寄る。《5》は、
「気をつけて! 二人共!」
すぐさま二人のバリアを更に強化する。それでも《9》の放つ思念波は、キーラとオリヴィアを衝撃で弾き飛ばした。
「「キャアッ!!」」
人間型達は既に相当数減っていた。風月達も《5》達の方へと走ってくる。
◇ ◇ ◇
ボックスの中で天使達が、翼を抑えながら能力を発動する。ボックスの中が白と金のもやで埋め尽くされる。
外では輝きを纏ったぬいぐるみ達が、絶えずボックスへと攻撃を加えている。既に二体ともボロボロだ。
「…くっ! みー君…、みー君!」
「ふーちゃん、もーすぐですメ!」
必死の攻撃と、天使達との『女神の因子』の共鳴が、ボックスの中の『核』の耐久力を削っていく。
「………! みー君―――!」
キイィィン…! と、ボックスの中で破壊音が響く。
「―――! 今だ!」
ミカエルの号令と共に、天使達が一斉に翼を広げた。
めぇともっちーの同時攻撃が、ボックスを穿つ。
ボックスはついに、ガコオォォン! と音を立てて崩れ去った。