21-5 起床形態再び
―――一方その頃。
「…攻撃は?」
ミスターが飛空船に戻ると、先程の攻撃が嘘のように止む。
「今のところは何も…。ですが、何時さっきのような雷が船に落ちるかと、皆さん恐れていて…」
確かに、マルグリット達と一緒に飛空船に乗った、人形製造工房の女性達が怯えている。
「ああ…、へー様…」
まるで神に祈るように《5》の名を唱えている。ルーペルトの一件で《5》を崇める一派が誕生していたが、ミスターはひとまず、
「私も宮殿へ向かわねば…。また攻撃を受けるようであれば…」
そうスミスに言いかけた時。
((貴様はここで足止めだ))
精神感応がミスターに送られたと同時に、再び、ドオォォン! と雷が落ちる。
「キャァッ!!」
人間達の悲鳴が上がった。ミスターはバリアボールで船全体を包む。
「………! 《2》、か?」
上を見上げながら言うと、再び精神感応で、
((わざわざ壊れぬ程度に加減してやってるのだ。《9》が裏切り者の《5》を始末するまで、貴様はここで待っていろ。でなければ貴様らの船が、人間ごと消し炭になるぞ))
「! むぅ…」
ミスターは上を見上げ、《2》のもとへ瞬間移動を試みるが、透視した瞬間、既に《2》の姿はない。
向こうも攻撃をしては、瞬間移動で何処かへ消えてしまう。これでは何時攻撃が来るのか見当もつかない。
…ミスターは、飛空船を離れることが出来なくなった。
◇ ◇ ◇
ミスターは《5》に精神感応で飛空船を離れられなくなったことを告げ、それはNo.56達にも共有される。
「…どうやら、ここにいる者達だけでアイツと対峙しなきゃならなくなった」
え? と風月達が驚く。
「? アイツって…」
ふと前を見ると、黒いキューブボックスが見えてきた。すると、ぬいぐるみ達が叫ぶ。
「あ! きっとアレだ! みー君!」
「そうですメ! あの黒いの壊さないとですメよ!」
だが、傍らに見える人影に、No.56は《5》同様に顔をしかめる。
「…アレか、例の性格の悪い《一桁》の女ってのは…」
ボックスの傍らに佇む《9》の姿が見えた。近づくにつれ、その顔に微笑みが浮かんでいるのが分かる。
―――《9》から攻撃が来るのでは、と身構えていた《5》達だったが、結局話が出来る位置に来るまで何事もなかった。
「…おかえりなさぁい、《5》姉さん」
険しい表情の《5》と裏腹に、あくまで和やかな《9》だが、《5》達の警戒は解かれない。
「………《2》は、どこ?」
《5》の問いに、《9》はやはり笑顔で、
「《1》兄さんの足止めしてくれてるわよぉ。あの人が来たら、《5》姉さんとゆっくり話せないものぉ」
《5》はため息をつき、
「…ゆっくり、ね。私からの要求は、天使達の解放なのだけれど」
すると、ぬいぐるみ達も《5》の隣に立ち、
「そーですメ! みー君達をその箱から出して下さいですメよ!」
「そーだそーだ! その箱早く開けろー!」
もっちーはヘルメットに乗ったまま文句を言う。
そう言うと、《9》は笑って、
「アハハ、ずいぶん可愛らしい味方をつけたのね、《5》姉さん」
「………悪いが、俺らもいるぞ」
ふいに《9》の背後から声がした。
No.56がいつの間にか《9》の後ろに回り込み、そのまま手刀で《9》の背中を貫く。
「!?」
一瞬、仕留めたように感じたが、《9》の姿が揺らぐ。
「…そういえば昔、行方不明の《二桁》がいたとか言ってたわね。お前がそうなの?」
その声は、No.56の背後から聞こえた。
「…クソッ!」
No.56の舌打ちを聞きながら、《9》が微笑む。そのまま持ち上げられた《9》の手がNo.56に向けられた時、No.56は全身から力が抜け落ちるのを感じた。
「!? ま、まさか…」
《9》はにっこりと笑いながら、
「フフ…、ごめんなさいねぇ、あなた、私より弱かったみたい」
No.56は、その能力を吸い取られた。
「…う、嘘だろ? この、化け物め…」
「あらぁ、失礼じゃない? あなただって結構な化け物よぉ?」
「「ボス!!」」
へたり込むNo.56のもとへ、ヴァレリーと李が走り寄るが、
「! 来るな!」
叫ぶNo.56の横から、にっこりと笑う《9》の攻撃が放たれた…、が、その攻撃は見えない壁に弾かれる。
「一応話し合うつもりだったのだけど…、《9》。どうやら無理みたいね」
《5》がヴァレリー達の前にバリアを張っていた。《9》の顔が、僅かに歪む。
「もっちーさん! ワタクシ達も行きますメよ!」
「おう!」
ぬいぐるみ達の両瞼が、カッ、と開かれ、その姿を変貌させる。
「眠れる羊!」
「眠れる海豹!」
「「起床形態!」」
一瞬の光と共に、変形したぬいぐるみ達を見ながら、
「! め、めぇチャン…、その姿って…」
少し離れたところから風月と月岡が驚いている。めぇは風月の方へ振り向き、にっこりと笑った。
「…だいじょーぶですメ。風月様は…、………お母様は、ワタクシ達が必ず守りますメ!」
そう言って、《5》と共に《9》の方へと向かっていく。
「え………? い、今、何て…?」
風月は、めぇの言葉に一瞬、頭が真っ白になった。