21-2 風月の決意
「―――君達を、か?」
ミスターは、二体のぬいぐるみを見ながら、
「…いや、そうか。君達は女神の因子を多少なりとも取り込んでいる…。『付喪神』としての格も、数段上がっているやも知れぬ。…ならば、一緒に来てもらおうか」
「! ヤッター!」
「ありがとですメ! ミスター様!」
めぇともっちーが喜んでいると、一緒にいた子供達が、
「えー? 行っちゃうのー?」
「危ないよ! 一緒にいようよ!」
そう言うが、もっちーもめぇも得意気に、
「だいじょーぶですメ! ワタクシ達、実は強いんですメよ!」
「おう! 悪いヤツらは、オレっち達がケチョンケチョンにしてくるかんな!」
子供達が、スゴーイ! と言っているが、そこへ走り寄ってくる人影が現れた。
「―――めぇチャン!」
「メ!?」
風月だ。めぇは捕まった。
「何で!? 何でめぇチャンが、そんな危ないことしなきゃなんないの!? …めぇチャンがいなくなっちゃったら、私…、私………」
めぇに頬ずりしながら、大人げなく泣き叫ぶ風月だが、めぇは、
「か、風月様…、大丈夫ですメ。きっと無事に帰って来ますから…」
すると風月が、キッ、とミスターを見て、
「………私も、行きます!」
その言葉に、ミスターだけでなく周りの皆や他の複製達も驚いた。ミスターは、
「駄目だ。君は普通の人間だろう? 身体能力は他の者より高いようだが、それでも我々の闘いに巻き込む訳にはいかぬよ」
「でも! …こんな小さな子達が頑張ってるのに。さっきのもつこちゃんだって、あんな…。…もう、見ているだけ、…守られているだけなんて、出来ません!」
しかし、そう言い放つ風月に、月岡がやって来て、
「おい、三枝! 無茶を言うな! お前だって、普通の人間がどうこう出来る相手じゃないのは分かるだろう!?」
そう言いながら風月の腕を掴み、皆のところに促そうとするが、風月はその手を振り払い、
「じゃあ私達、何もしないでのほほんと、お客さんになって過ごしてろって言うんですか!? 久吾さん達のために何か出来ることないかって、そう思ったからここに来たんでしょう!?」
そして、ミスターに向き直り、
「…あなたは、あの人達を説得する、と言いましたよね? 必ずしも闘うと決まった訳じゃない…。…それなら、普通の人間にだって出来ること、あるかも知れないじゃないですか!」
そう言われ、ミスターが少し困惑していると、《5》が前に出て、
「………良いんじゃない? 人間の強い意志は、時として思いもかけない効果を発する…。私も人間達を見て学んだことよ。…No.707、防寒具はあるかしら?」
「え、ええ」
No.707・スミスは少し驚きながら返事をする。すると月岡がため息をつきながら、
「…お前がどうしても行くってんなら、俺も行く」
え!? と驚く風月だったが、月岡は、
「お前だけを行かせられるか。一応直属の上司なんだ。無茶はさせられない」
その様子を見ていた《5》が、スミスに防寒具の追加を言い渡すと、今度は休んでいたはずのキーラとオリヴィアが現れた。オリヴィアは泣いていたようで、目を赤く腫らしている。
「「へー様!」」
驚いた《5》が、何事かと二人を見ると、キーラが、
「私達も、連れて行って下さい!」
「も…、もつこちゃんが、…私達が眠っている間に、…ひっく、………私達も、へー様の従者として鍛えて頂きましたもの! お願いです!」
《5》は二人を見る。
《4》の能力を吸収し、人間の心の内も難なく覗けてしまう《5》だが、敢えて心を閉じ、他者の意識が自分に流れてこないようにしている。これは思念伝達者の共通認識だ。
…だが、それでも彼女らの固い意志は伝わってくる。風月と同様に、自分達も何かをせずにいられない、と言う確固たる想いだ。
「………分かったわ。No.707、防寒具を四人分用意してあげて。それから…、No.56、あなたの部下、No.382とNo.596も連れて行きましょう。キーラとオリヴィアの『盾』になってもらうわよ」
《5》に言われ、No.56が顔をしかめながらため息をついた。
「ひでぇ扱いだな。…まぁいいか。ヴァレリーと李を呼んでくる」
そう言いながら、No.56は姿を消した。瞬間移動とは違う。
皆、軽く驚いているが、それでも驚愕続きでだいぶ状況に慣れてしまっていた。
ミスターは、風月と月岡に、
「…仕方ないな。君達には私のカードを渡しておいたはずだな。必ず身に着けておきたまえ」
二人は、はい、と返事をする。
《5》が宮殿へと向かうことに決まった面々に、
「あなた達、着陸するまで身体を休めておきなさい。今、食事の用意もさせるわ」
そう言って、ルネ達のいる厨房へと向かって行った。
◇ ◇ ◇
「えぇ!? お嬢さん達も行くんですか!? じゃあ…」
《5》から話を聞き、ルネが驚いていると、シェリルが、
「あなたは行かなくていいのよ」
そう釘を刺す。ダリオも一緒になって、
「そーだぜ、俺等が困っちまうよ!」
えぇ…、と思うルネだったが、《5》にも、ここの人間達を頼む、と言われ、自分の出来ることをしよう、と思い直したルネだった。