表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
152/194

21-1 選抜

 「―――あれがブルーホール、ですか」


 メキシコ・ユカタン半島の海岸沿いに、その陥没穴(シンクホール)は存在する。


 この辺りはもうすぐ夜明けだ。日中であれば、その美しい光景も相まって人間のダイバー達がこぞって潜りに来るのだが、今は静かなものである。


 「…うん。じゃあ行くか」


 「ああ、このまま、静かに、静かに降りてくぜ」


 ハイドとシークに促され、久吾はミスターに言われた通りに透明の球体の中に入ったまま、水の中に沈んでいく。


 ―――たちまち視界が闇の中となった。

 目が慣れてくると、魚などの生物も見える。


 久吾とテディ達は闇の中を、静かに、静かに沈んでいった。


   ◇   ◇   ◇


 「…うっ、うっ…、………もつこ…」


 もっちーもめぇも泣いている。そこへハチがやって来た。少しふらついている。いつものハチらしくない。


 「………すまねぇ」


 ハチはそう謝るが、もっちーが泣きながら怒っている。


 「…ハッチャン! 何で、何で…、うう…」


 しかし、もっちーがそう文句を言う途中で、ハチの身体が、よろり、とバランスを崩し、そのまま倒れた。


 「! ハッチャン!?」


 もっちー達が驚いていると、スミスとファリダがハチを起こそうとする。


 「だ、大丈夫ですか!?」


 ファリダと二人でハチを支えていると、ミスターがマイシャの亡骸と一緒に瞬間移動で戻ってきた。


 「…!? ハチ!?」


 とりあえず、ハチを休ませるため、船内に造った住居スペースの空いている一室に向かう。


   ◇   ◇   ◇


 「―――能力を使いすぎたか…。君にも無茶をさせてしまったな」


 スミスとファリダで支えていたハチを、ミスターが念動力で持ち上げ、ベッドへと寝かせる。

 二台並んだ奥のベッドに、マイシャの亡骸を置いた。


 「……………」


 ハチは身体を休めたまま、


 (…俺も、そろそろ、か。………やっぱり、美奈のようにはいかねぇなぁ…)


 そう考え、ふいにミスターに声をかける。


 「………ミスター」


 ? とミスターがハチを見ると、ハチは、


 「…今のうちに、言っとくが、………俺に、もしものことがあった場合…」


 「…! ハチ、君は………!」


 いきなりの発言に、ミスターが戸惑っていると、


 「一応、ですよ。…その場合、俺の能力ですがね。………そのままにしといてくれませんか」


 「…そのまま、か。それは、誰にも譲らず、ということだな」


 ミスターの言葉に、ハチは頷きながら、


 「ええ。…俺の能力は、俺だけのもんだ。誰にも譲らねぇ。…頼みますよ、ミスター」


 ミスターは頷く。

 そこへ、入口をこっそりと、めぇともっちーが覗いていた。何故か船内の子供達も一緒にくっついている。


 「………ハッチャン、だいじょーぶ?」


 もっちーがおずおずと訊いてくる。ハチは寝たまま、


 「…ああ、もつこのことは、本当に済まなかった。あんな小せぇ子にムリさせちまって…」


 そう謝ると、めぇが首を横に振り、


 「先程、彩葉様が教えてくれましたメ。もつこさん、ちゃんと上に上がれたから、心配することないって…、だから………」


 そう言いながら、めぇが涙を拭う。

 そこへ、《(ヘー)》が現れた。《(ヘー)》はミスターに、


 「…《(アレフ)》。《(ベート)》が指定した場所で、そろそろ夜が明けるわ。…期限は日没までよ」


 ミスターが頷く。《(ヘー)》の言葉を聞き、ミスターはハチとスミスに、


 「急がねばなるまい。あとどのくらいで南極大陸に到着する?」


 「…まだ、あの子…、もつこさんの中の、女神の因子の効果が持続していますからね。大陸までなら、およそ6時間、というところでしょうか…」


 「ああ。ただ、現在宮殿周辺には、《(テット)》のヤツの結界が張ってあるだろう?」


 そう聞いて、ミスターが唸る。


 「…そうだ。お陰で我々も、直接宮殿に向かうことが出来なくなっている。それに、この飛空船で宮殿に近づく訳にもいくまい」


 普通の人間達が大勢乗る船だ。それを危険に晒す訳にはいかない。ハチは、


 「ああ。だから、氷上用のホバークラフトを3隻用意してある。宮殿に向かう者を選別しなきゃならねぇな」


 ハチの言葉に、ミスターは頷きながら、


 「まずは、私が行こう。…それから、《(ヘー)》。行けるか?」


 《(ヘー)》が頷く。


 「私と…、そうね。No.56を連れて行きましょう。良いわね?」


 すると、部屋の隅に人影が浮かび上がる。


 「! 君は…、今までずっとそこにいたのかね?」


 No.56だった。見つかってしまい、少々残念そうな顔をしている。


 「…仕方ねぇな。他に戦力はいないんだろ?」


 「ええ。《(ヘット)》はこのとおりだし、他の《三桁(トリプレクス)》では、…《最後の番号(ラストナンバー)》ならともかく、《(ベート)》や《(テット)》に敵う訳がないもの」


 「《最後の番号(ラストナンバー)》、か。…まだ戻って来ていないのか?」


 No.56に問われ、ミスターが頷く。


 「ハイドとシークが付いているから、期限は伝わるはずだが…」


 そう話していると、もっちーとめぇがミスターの足元でズボンの裾を引っ張った。


 「? どうした、君達」


 すると、もっちーとめぇは、


 「ミスター、お願い!」


 「ワタクシ達も、一緒に連れてって欲しいですメ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ