20-3 なかよしの唄
外に出たミスターは、宙に浮いたままマイシャの前に姿を現す。
「…マイシャよ、どういうつもりだ?」
「………」
マイシャは答えない。何処となく虚ろなその表情を見て、ミスターは訝しむ。
「マイシャ…、? 君は………、…マイシャ! 今すぐ能力の発動を止めよ! 死ぬぞ!」
だが、マイシャはミスターの呼びかけに反応しない。虚ろな目で、
「………ふね、…ふね、を………」
ブツブツと呟いている。ミスターがマイシャのそばに近づいた、その時、
「―――!? 唄!? これは…」
◇ ◇ ◇
船内で歌うもつこの歌声が、船外に響いていく。
「…もっと! もっと出力を上げられますか!?」
スミスがスタッフに声をかける。玉座からの歌声を、さらに広範囲に響き渡らせるように限界までスピーカー出力を上げるが、
「スミス! もう限界だ! これ以上は…」
スタッフがそう嘆くと、
「…どいてくれ」
ハチだ。休んでいたはずのハチがスタッフの間に割って入り、機械の前に立つ。
「…あの声を、もっと広範囲に響かせれば良いんだな?」
ハチの言葉にスミスが「え、ええ」と頷くと、ハチは上を見ながら能力を発動する。外の様子をモニターしていたスタッフの一人が、
「! 鳥達が…」
ハチは、その創造の能力で外部の機械を増設し、船外への可聴域を数百倍に押し上げる。
鳥達はマイシャの洗脳から解かれ、それぞれの帰るべき場所へと方向転換する。
船内の皆が「おお…」と驚くが、ハチはもつこに向かい、
「…すまねぇ、もつこ。もう少し頑張れるか?」
コクン、ともつこが頷く。さらに声を上げる。
もつこの体が、青く光っている。
◇ ◇ ◇
(…もっと、もっと。…だいじょうぶ、がんばれるよ)
もつこが歌う。もつこを包む青い光が、だんだんと白く輝く。次第にキラキラとした飛沫が舞い上がる。
様子を見ていためぇともっちーが、もつこを心配して玉座に走り寄ってきた。
「「もつこ!」」
―――にぃに達、心配かけちゃった。
ごめんね、めぇにぃに。
ごめんね、もっちーにぃに。
でもね、もつこ、みんなの役に立ちたいの。
今ね、お外の動物さん達みんな、ケンカしたくなっちゃってるから、ふーちゃんに教わったこのお唄…、何だっけ、『トリナシの唄』? って言ってたかな…。
執り成し、って何だろ。
分かんないけど、なかよしになるお唄だよ、って、ふーちゃん言ってた。だから、『なかよしの唄』だよね。
…何だか体がフワフワする。
このまま歌うのをやめちゃったら、もつこ、そのまんま寝ちゃいそう…。
もう少し、あと少し…。
………ふーちゃん。
―――もつこの体が、輝く白のもやと、キラキラと輝く金の霞に包まれた。
◇ ◇ ◇
「………これは」
もつこの唄が周囲を取り巻く中、マイシャを抱えながら宙に浮いたミスターが、帰っていく鳥達やクジラ達を見送る。
すると、気を失いかけていたマイシャが、
「………ア、《1》…」
「! マイシャ! 正気を取り戻したか!」
「………マ、イシャ? 私は…、No.93…、いや、No.666…、ミャ、マ…、私、は………」
混乱しているようだ。ミスターは、
「しっかりしろ! もう良い、もう良いんだ」
しかしマイシャの瞳は、だんだんと光を失っていく。
「! マイシャ…!」
マイシャは、そのまま事切れた。
◇ ◇ ◇
「見て…! 動物達が、暴走を止めたわ!」
飛空船の中で、スマホなどの映像を見ていた人間達が安堵の声を上げる。
マイシャの洗脳から解かれた動物達も、各々帰るべき場所へと帰っていくようだ。
「―――もつこ! お前、スゲェぞ!」
もっちーとめぇが、玉座に鎮座するもつこを褒め称えた。彩葉がその場で、玉座ごともつこを抱きしめる。
「もつこちゃん…、頑張ったね。スゴかったよ」
全力で歌い上げたもつこは、彩葉に言われて、エヘヘ、と喜ぶが、ふいに、
「………めぇにぃに、もっちーにぃに…」
もつこに名を呼ばれ、めぇともっちーは、
「メ!?」
「どうした!?」
するともつこは、にっこりと笑って、
「………ふーちゃん達を、ゼッタイ、助けてね…」
そう言って、目を伏せる。
「お、おう! 当たり前だぞ!」
「そうですメ! もつこさんも、一緒に…!」
しかし、彩葉が泣きながら首を横に振る。
え? と驚くめぇともっちーだっだが、彩葉が、
「………ごめん、私、視えるだけで、何も…、何も出来なくて………。あの…、あのね、もつこちゃん…、桃子ちゃんの魂、今、上に………」
もつこ…、桃子の分霊の魂は、たった今昇天した。