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20-1 彩葉ともつこ

 「ふわぁ…」


 眠そうなもつこと、眠そうなオリヴィア。

 オリヴィアは《(ヘー)》の手伝いもしながらなのだが、それでももつこが寂しくないように、と鎮座するもつこのそばに寄っていた。オリヴィア本人も喜んでいる節はある。


 「…もっちーにぃにも、めぇにぃにも、楽しそうねぇ」


 もつこが呟く。もっちーとめぇは、子供達の相手をしている。

 羨ましそうに見ているもつこと、それを慰めるオリヴィアのそばに、彩葉がやって来た。


 「えーと…、あなた、お名前は?」


 彩葉に問われ、「オリヴィアよ」と答える。

 船内はミスターの魔法によって、どの言語でも意思を通じ合える。但し、船外に出てしまえば効力は消えてしまう。


 「オリヴィア…、私、彩葉(いろは)よ。オリヴィア、少し眠った方が良いんじゃない? 私、代わるわよ」


 「? そうかな…。でも、まだ平気よ。ありがとう」


 心配する彩葉に、オリヴィアは笑顔で答える。

 もう一人の少女・キーラは《(ヘー)》の仕事を手伝っているらしく、ノートパソコンと向かい合っていた。


 「…あなた達、すごいのねぇ。年は? いくつ?」


 彩葉が尋ねると、オリヴィアは、


 「んーと…、確か、十四? 小さい時に売られちゃったから、良く覚えてないの」


 少し困ったように笑う。自分と同じ年くらいかと思っていた彩葉は、相手が年下だったことにも、売られたという話にも驚いて、


 「売られた、って…、そんな…。…まさか、親に?」


 コクン、と頷くオリヴィア。


 「事情は知らないけど、きっとキーラもそんな感じだと思うわ。…フフ、えーと…、イロハ? 学校とか行ったりしてるの?」


 オリヴィアが興味深そうに訊いてきた。彩葉は頷きながら、


 「うん…、学校なんて、みんな当たり前のように行くものだと思ってた。…大変だったのね」


 そう言うと、オリヴィアは、フフ、と可愛らしく笑い、


 「私、学校には行けなかったけど、今はへー様が色んなこと教えて下さるの。へー様ね、厳しいけどすごく分かりやすいから、難しい勉強もとっても楽しいのよ」


 嬉しそうに語った。となりで聞いていたもつこも、何だかオリヴィアと似たような笑顔とポーズで彩葉に笑いかける。彩葉は、クスッ、と笑って、


 「…そうなんだ。すごい(ひと)なのね、へー様って」


 そう話していると、オリヴィアのそばにキーラがやって来て、


 「オリヴィア、へー様が、あなた達も少し休みなさい、って」


 そう促した。え、と躊躇するオリヴィアだったが、彩葉に、


 「休んできて。私、ここにいるわよ」


 そう言われ、キーラとオリヴィアは笑顔で手を振り、行ってしまった。


 もつこはオリヴィア達を見送りながら、少しうとうとしていた。彩葉がそれを見ながら、


 「えーと…、もつこちゃん? おねむなの?」


 ちっちゃい子を見るように語りかける。もつこは、


 「うん…。ちょっと眠い…」


 彩葉は、フフ、と笑いながら、


 「………もつこちゃん、生きていた時(・・・・・・)はキレイな長い髪だったのね。カワイイ…、まだ一年生くらいだったのかな?」


 「!」


 彩葉の言葉に、もつこは驚いて眠気が飛んだ。


 「おねーさん! もつこが桃子だった時のこと、分かるの!?」


 びっくりするもつこに、彩葉は優しく笑いかけながら、


 「驚かせてごめんね。…私、視えるの。桃子ちゃん、って言うんだね」


 そう言いながら、もつこの頭を撫でる。もつこは「エヘヘ」と笑いながら、


 「おねーさん、…んーと、彩葉ねぇね? もつこね、もつこになってから、ふーちゃん達と、とっても楽しかったのよ!」


 そうなんだ、と聞く彩葉を相手に、もつこは楽しくおしゃべりしている。

 そこへ、誰かがやって来て、


 「もつこちゃん、楽しそうだね」


 羽亜人だ。トレーにイチゴを乗せて持ってきてくれた。


 「羽亜人にぃに! わーい!」


 イチゴを見て、もつこが喜ぶ。羽亜人はイチゴを一粒つまんで、もつこの口に放り込みながら、


 「…君は、久吾さんのお知り合いだったんだね。大弥のお披露目の時に見かけたけど…」


 彩葉に声をかける。彩葉は、ああ、と思い、


 「羽亜人さん、でしたっけ? 芽衣が時々、あなたのこと話してました」


 ハハ、と羽亜人が笑う。彩葉はちょうど茶道部の活動などが重なり、芽衣達と一緒に帰れなかったのだ。


 「私のおばあちゃん達が、久吾おじ様と古馴染みで、おじ様時々うちに来てたんです」


 彩葉がそう言うと、羽亜人は、へぇ、と言いながら、


 「そうなんだ。久吾さんは俺達にとって、先生なんだよ。昔からお世話になってるんだ。俺達の主…、先日亡くなったんだけど、その主が久吾さんのお姉さん、ってことになるのかな」


 そうなんですね、と答える彩葉だったが、お姉さん、と聞いて、少し考えながら、


 「………それって、つまり、おじ様と同じ…」


 羽亜人は頷きながら、


 「…うん。ノアの複製(コピー)、なんだろうね。不思議な能力(ちから)も持ってたんだ」


 「………不思議な能力…、でもおじ様、とっても優しい人だわ」


 彩葉がそう言うと、羽亜人も、


 「そうだね。俺達の主も、すごく優しい(ひと)だったよ」


 そう懐かしむ。彩葉と羽亜人が笑顔でそう話していると、もつこが、


 「ウフフ、羽亜人にぃにと、彩葉ねぇね、仲良しねぇ」


 そう笑っている。彩葉と羽亜人は顔を見合わせ、少し照れ臭そうにしていた。


   ◇   ◇   ◇


 「………ん? どうした? 裕人君」


 彩葉と羽亜人の様子を見ていた裕人は、石塚に声をかけられた。


 「うう…、彩葉センパイ…、………はっ! い、石塚さん!?」


 裕人が驚いていると、少し離れたところで何人かの人達がざわついている。


 「? 何だ? …三枝?」


 見ると、風月がスマホを皆に見せながら、オロオロとしている。


 「ちょ、ちょっと、これ…」


 そこには、動物の大群と、鳥達の群れが映っていた。

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