19-5 女神の住まう場所
「女神…、ですか?」
久吾が尋ねると、テディ達に代わってミスターが、
「そうだ。ハイドとシークを通して、この地球の女神が君と話したい、と言ってきたらしい。…ということで、この子達に案内してもらいたまえ」
ハイドとシークが可愛らしく手を振る。そして、
「…ねぇ、久吾さぁ、後でこのぬいぐるみだけ、持って帰ってくんね?」
シークに言われ、え、と驚く久吾だが、ミスターが、
「彼等の中身は妖精…、女神の使いなのだよ」
テディ達が、うんうん、と頷き、ハイドが、
「…俺達な、女神んとこ帰っちゃったら、もう戻れなくなっちゃうからさ。うーちゃん達寂しがるかも知れないから、せめて外身のぬいぐるみだけでもさぁ」
「頼むぜ、久吾。ラファエル達によろしく言っといてくれよな」
「………」
久吾は考えながら、分かりました、と答えたが、
「…それで、案内とは?」
訊くとミスターが、
「ああ、君は『ブルーホール』というものを知っているか?」
「ブルーホール、ですか? …いえ」
「ブルーホールとは『海の穴』だ。浅瀬にぽっかりと開いた陥没穴…、その底の底に、女神…、この地球の代弁者、とでも言おうか。彼女が住まう場所へと繋がる道がある」
「そんなところが…」
久吾が驚いていると、ミスターは、
「この地球上で、未だ人間が解明出来ていない場所…、海底にこそ、幻想世界の住人は僅かながら存在しているのだよ。…それで入口だが、メキシコのチェトゥマル湾にある『タアム・ジャ・ブルーホール』と呼ばれている場所になる」
タアム・ジャ・ブルーホールは、現在世界最深と言われているブルーホールだ。その深さは420メートルと言われているが、
「底の底…、だ。底を越えた水深500メートルを越えれば、恐らくこの子達の仲間が案内してくれるだろう」
そう言いながらミスターは、久吾の手を取り、
「さあ、場所の座標を読み取りたまえ。美奈から受け継いだ情報転送、使えるのだろう?」
久吾は頷きながら、ミスターからの情報を受け取る。
情報転送を実際に自分で使うのは初めてだったが、何とか場所を把握した。
「…すぐに行かないといけませんか?」
久吾が尋ねるとミスターは、
「早いほうが良いだろう。女神のところで時間がかかり過ぎるのも困る。…何しろ、猶予は既に二日程だからな」
《2》に与えられた猶予期間が迫っている。しかし、案内役のはずの、そばにいたテディ達の姿が消えた。
久吾が、おや、と思っていると、テディ達は子供達に囲まれためぇ達に挨拶をしていた。
「おい、めぇ。もっちーと、もつこ…、はアッチか」
「お前らも元気でな。みー君とふーちゃんにもよろしくな」
ギルと一緒だった子供達が、食事の後に風呂と着替えを済ませ、動くぬいぐるみ達を見てはしゃいでいたのだが、もっちーが、
「? 何だよ、お前ら。どっか行くの?」
「皆様の遊び相手、足りてないですメよ。すぐ戻って来て欲しいですメ」
ハイドとシークは顔を見合わせる。先程久吾に話したように、行けばテディ達はもう戻れない。
だが、テディ達は笑って、
「ハハ、頑張るわ!」
「じゃあ、行ってくるな!」
最後に、玉座に鎮座するもつこのところへ行き、テディ達はもつこの頭を撫でながら、
「お前も元気でな!」
「いい子で頑張れよ!」
もつこはそう言われ、はーい、と返事をする。少し眠そうだ。
―――挨拶を済ませ、テディ達は久吾の元に戻る。
「「よぉし! 行こうぜ!」」
ミスターが、うむ、と頷き、久吾に向かって、
「では、頼むぞ。バリアボールを必ず張って…、ああ、君のバリアボールは、少し違っているのだったか。…だが、決して解除せぬように。気をつけて行ってきてくれ」
久吾は、はい、と頷きながら、ハイドとシークを自分と一緒に透明の球体に包み、瞬間移動して行った。
◇ ◇ ◇
「―――ああ、貴女様は私達にとって、女神様です!」
「…やめてちょうだい」
礼を言われているのに、文句を言っているのは《5》だ。
涙ながらに《5》に礼を述べているのは、マルグリットの玄孫・イルゼの娘、ルーペルトの母・ロッテ。
―――実は先程の食事で、ルーペルトが大変な目に遭っていた。
彼はいわゆる魚介アレルギーを持っていたのだが、皆が美味しそうに食べているペスカトーレに、ついうっかり手を出してしまった。
案の定アレルギー反応を起こし、失神して呼吸困難に陥ってしまったのだが、
「大丈夫?」
人間達が騒いでいるところに《5》が現れた。そして、ルーペルトの様子を見て、
「………免疫機能が過剰反応を起こしているのね。少し待ちなさい」
そして、《4》から受け継いだ能力を発動する。
…程なく、ルーペルトの症状は落ち着き、安定した。《5》は治癒処置を終わらせ、
「…健康な人間の基準値に合わせたわ。これでもう、過剰反応しないはずよ」
え、とルーペルトのそばにいた母・ロッテが驚く。
「…ママ?」
ルーペルトが目を覚ます。そして、もう大丈夫だという《5》の言葉を信じて、今まで食べられなかったものを食べてみる。
◇ ◇ ◇
―――そうして、今に至っている。
《5》はため息をつきながら、
「この際だから、何かしらの疾患がある人間は申し出なさい。治癒するけど、人間世界に戻っても口外禁止よ」
そして《5》の元に、人間達による長蛇の列が出来ていた…。
すみません。次回更新、一週間ほど空きます。
出来るだけ早く戻ります。