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19-1 久吾の過去 その1

 「よぉ、お疲れさん」


 倉橋がそう声をかけてくれた。

 出来るだけ、いつもと変わらぬように接してくれる、その気遣いが有難い、と思いながら、久吾は彩葉と共に皆の輪の中に入る。


 船内に最初に入った時、駄々広く何も無かった場所に、今はまるでホテルのロビーのようにソファーなどが置かれ、大人数でもゆったりと談話出来る空間になっていた。


 「…お食事、済みましたか?」


 久吾が尋ねると、皆は頷きながら、石塚が、


 「美味(うま)かったですよ。さっき、滞在する部屋ってのにも案内してもらいましたけど、どの部屋も一流ホテル並でしたよ」


 そう聞いて、久吾は少しホッとしながら、


 「そうですか…。…本当にすみません、こんなことに巻き込んでしまって…」


 「いいさ、こんなに好待遇なら、むしろ巻き込まれてラッキーだよ」


 冗談交じりに倉橋が言う。…が、月岡が表情に少し苦渋の陰りを見せながら、


 「…実は、久吾さん。今、地上が大変なことになっていて…」


   ◇   ◇   ◇


 久吾達が船内の設備を整えている間、皆のスマホ等に電話やSNSを介した連絡が入ってきていた。

 それぞれ家族や友人などの近親者の他、仕事の関係者などであったが、とりあえず話せる範囲で事情を話し、しばらく連絡出来なくなるかも知れないが、無事であることを告げていた。


 彩葉のところには実家からの連絡があり、その際に光栄が、


 『彩葉が無事なら良いけど…、あのね、同じ町内にいた後藤さん、知ってたかしら?』


 彩葉が、ああ、と思い出す。坊主頭で割と背の高い、人の良い中年の男性だったが、


 『…その後藤さんがね、映像の、あの久吾さんにそっくりな男に、何となく似てるって…。今ね、誰が先導してるのか知らないけど、映像に似ているって人達が、みんなどこかに連れてかれちゃってるのよ』


 その後藤さんも、どこかに連れて行かれたと聞き、え!? と彩葉が驚く。全然似てないじゃない、と彩葉が言うが、皆混乱していて、聞く耳を持たない様子らしいのだ。

 何かあれば連絡してね、と言われ、電話を切ったが、彩葉が風月達にそのことを話すと、


 「………そうみたい。この現象、今、世界中で起きてるみたいなのよ」


 様々な情報が飛び交い、様々な映像がアップされている。

 中には、久吾達に似た男が暴行を受けるシーンなども投稿されていた。

 男性でも女性でも、似ているというだけで何人も捕らわれているようだ。背が低かったり、太っていたり、とても似ているとは言い難い者達もいる。


 さらには、そばにいた家族などが泣いて止めているにも関わらず、それに対しても暴行を加えるような映像もあり、思わず目を背けたくなる。


   ◇   ◇   ◇


 「非道い…。我々のせいで、そんなことが…」


 久吾がそう(いきどお)っていると、皆が黙ってしまう。事実、久吾達のせいでなくとも、久吾が発した『我々』の中には《(ベート)》や《(テット)》も含まれているからだ。


 「…さっきね、誰かがあのミスターって人に、やっぱり同じような映像を見せてたんだけどね」


 彩葉が言う。久吾が彩葉の方を向くと、彩葉が表情に陰を落としながら、


 「…『まるで、魔女狩りだな』って…。本当にそう。…何で同じ人間同士で、こんなこと…」


 「……………」


 彩葉の言葉に、皆が何と言えば良いのか分からなくなる。久吾が、


 「…とにかく、南極に行って、子供達…、天使達を救い出します。そして、《(ベート)》さんと《(テット)》さんを止めなければ…」


 呟くようにそう言うのを聞いて、月岡が、


 「…さっき、ミスターが言っていたことは本当なんですか? あなた達が、その…、『ノア』の複製(コピー)、というのは…」


 「ええ」


 久吾が即答したのを聞き、皆息を呑む。


 「それは…、いわゆる人造人間、ってやつか。そんなSF小説みたいなこと、本当に…、…いや、あの光景を見てウソだとは言えないよな」


 石塚が自嘲気味に笑う。倉橋が、


 「お前さんが年を取らねぇのは、そういう理由だったか…。…その、訊いてもいいか?」


 「何でしょう?」


 久吾が言うと、倉橋は頭を掻きながら、


 「…いつから日本にいるんだ?」


 すると久吾は、少しずつ思い出しながら、


 「………生まれてほぼすぐから、ですかね…。私が最初に、日本の地に降りたのは、永正五年、でしたか。ミスター…、《(アレフ)》が富士の山頂に私を送り届けてくれました」


 永正五年、と聞き、裕人が、


 「え、永正…、って、何年?」


 「調べてみよう。………えーと、1510年、…む、室町時代!?」


 章夫がスマホで調べて驚いている。久吾は記憶を辿りながら、


 「―――山を下り、野に降り立ったとき、黒いもやが私の目に映りましてね。行ってみると、村が野盗にまるごと焼かれていました」


 古い、古い記憶である。久吾は続ける。


 「たまたまそこで、殺されかけていた子供…、兄妹を助けたんです。そして、お館様…、私の名付け親である、宗順様と出会いました」


 「宗順…、何か有名なお坊さんで、そんな人いた気がするけど…」


 風月が言うと、久吾は首を振り、


 「宗順は仮の名…、本名はありません。有名な方とは別人だと思います。何しろ彼は『草』…、忍の一派の頭領でしたから」

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