幕間 料理人達の競演
〜初回飛空船メニュー〜
・BLTバーガー(シェリル担当)
・ペスカトーレ(ダリオ担当)
・ポトフ(ルネ担当)
他、コブサラダ(シェリル)、マルゲリータピッツァ(ダリオ)、洋梨のコンポート(ルネ)
◇ ◇ ◇
「次はどうする?」
髪を後ろに、キュッ、と結んだシェリルが訊くと、ダリオが答える。ダリオはアーサー同様、ウイッグをつけている。少し軽い感じに見える金髪だ。
「俺、パエリア作る! いいよな?」
「日本のお米よ? 大丈夫なの?」
シェリルが心配そうに言うが、ダリオは「平気平気♪」と陽気だ。
「少し前にいた日本人のスタッフに、日本米の扱いのコツ聞いたんだ。お試しがてら、作らせろよ」
「分かったわ。…ルネ、あなたも何か、作りたいものある?」
話を振られ、ルネは洗い物をしながら、
「そぉですねぇ…、カナッペ作りましょうか。色んな種類乗せて、各々好きなのつまめるように。久々に大人数分作るの、楽しいですよ」
シェリルは笑顔で「分かったわ」と頷きながら、
「どうしようかな…。フライドチキンとポテトとかでも、喜んでもらえるかしら?」
そう考えていると、ダリオがニヤリと笑い、
「ったく…。やっぱりジャンクなモンばっかりだよな、アメリカってトコは…」
「何よ。あなたこそ、イタリアンシェフのクセにパエリアって。あれはスペイン料理でしょ?」
「美味けりゃ良いんだよ、美味けりゃ。…そーだ! どうせなら、和食とか作ってみるか? 日本で揃えた材料なんだし」
「和食はとっても繊細なのよ。あなたじゃムリなんじゃない?」
「んな! 何だとぅ!?」
揉めだした。洗い物を終わらせたルネが「まぁまぁ」と仲裁に入る。
「俺も作ってみたいですね、和食。生魚はイタリアでも良く使うだろうけど、寿司? でしたっけ? 作るのは良いけど、皆さん食べてくれますかね?」
聞いてシェリルは、あら、と言いながら、
「使うなら新鮮なうちに使わないとね。…ってことで、パエリアは却下ね」
「何で!?」
ダリオが衝撃を受ける。シェリルは当然とばかりに、
「お寿司とパエリアじゃ合わないでしょ? …ああ、それじゃフライドチキンもダメね。和食で統一したいわねぇ」
「あ! じゃあ鶏の唐揚げ、ってどうですか? 確かあれも和食ですよね」
ルネが言う。ダリオは諦められないのか、
「良いじゃん、色々作ってブッフェスタイルで食べてもらえば…。パエリアだって、海鮮使うからきっと和食にも合うぞ」
ブッフェスタイルと聞いて、シェリルも、ああ、と言う。
「じゃあ食材見ながら、各々好きなもの作ってみる?」
ダリオとルネが「おぉ!」と、意気揚々と頷く。
◇ ◇ ◇
「―――あなた、宮殿の料理人だったのよね。私達、本来食事なんか必要ないのに、何作ってたの?」
シェリルに訊かれ、ルネは、
「えーと…、やっぱり食事、というよりは、皆さんおつまみとか嗜好品に寄ってましたね。ザイン様はデザートばかりでしたし…。なので、ほぼ俺達の賄い作ってました」
ハハ、と笑いながら言うが、ふいに表情に陰を落とす。シェリルが「?」とルネを見ると、
「………ベート様、あんなことするなんて。俺、未だ信じられなくて…」
「…お前、宮殿で《2》と何かあったのか?」
ダリオにも訊かれ、ルネは、
「一度だけ、なんですけど、俺が作ったシチュー、食べて下さったんです。悪くない、って…。ホントに一度だけだったんですけど…」
そう言ったルネを見ながら、シェリルは柔らかく笑って、
「…あなた、良い人ね」
!? と驚くルネを、ダリオも見て笑っている。
「だな。腕もいいし…。つーか、何で宮殿なんかで働いてたんだよ?」
「いやぁ、それはホントに、たまたま、っていうか…。店で働いてた頃の俺って、シェフ達の派閥みたいなのの板挟みになってて…」
シェリルとダリオは、ああ、とルネの人となりを見て、何となく納得してしまった。
「…なぁ! じゃあさ、この件が終わったら、俺等でどっかで店、やらねぇか?」
え!? とルネが驚く。シェリルは、
「もう…。…私もダリオも、お店辞めてきちゃったからね、私は別に構わないけど…。ルネは普通の人間なんだし、よく考えた方が良いわよ」
ルネは、ハハ、と笑って、
「宮殿に戻れなくなったら、考えさせて下さい。…ですけど」
? とシェリルとダリオがルネを見る。ルネは少し困ったように、
「………いや、今は良いんでしょうけど、…まさかお店にいた時も、そんなやり方してたんですか?」
ルネは、宙に浮いた食材を見ながら、少々引き気味に言った。シェリルとダリオは、
「えー? だって三人で二百人分近くの料理作ってんのよぉ?」
「スタッフが揃ってる時はやんねーよ、こんなこと。意外と疲れんだぜ、《一桁》の連中とは違うんだからさ」
念動力でサクサクと、食材をカットしたり混ぜたりしている。
ルネはほんの少し顔を強張らせたまま、包丁を動かしていた。
◇ ◇ ◇
〜ブッフェメニュー〜
・ハンバーグ、ポテトのベイクドエッグ、スパイシーチキン、モンブラン(ミニケーキ)(シェリル担当)
・サーモンとシュリンプのカクテル、ミネストローネ、パエージャ・デ・マリスコス(魚介パエリア)、チョコレート(ミニケーキ)(ダリオ担当)
・マグロとサーモンの寿司、5種のカナッペ、鶏の唐揚げ、苺のショートケーキ(ルネ担当)
―――結局、和食に挑戦したのはルネだけだった…。