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18-9 空飛ぶアザラシ

 「実はな、この飛空船は元々、俺とスミスが遊びで造ってたモンなんだよ。…まさかこうして使うことになるとはなぁ」


 ぬいぐるみ達は、ふーん、と言う。ハチは頭を掻きながら、


 「…でな、この船の外観なんだが、俺達で面白がって造ったのが、な…。もつこ、お前さんの姿なんだよ」


 は!? と、ぬいぐるみ達が驚く。もっちーがショックを受けながら、


 「ハ…、ハッチャン! なな、な、何でオレっちじゃないの!?」


 泣きそうな顔で言うが、ハチは、


 「…お前の体型じゃ合わねぇよ。こう、何つーか、いい感じの流線型で造ったら、何かもつこに似てるなぁ、ってなってな…。…あと、マジメな話、それだけじゃねぇんだよ」


 もつこは、? と不思議そうにしている。


 「ハチおじさん、どーゆーこと?」


 もつこが小首をかしげながら言う。そばにいたオリヴィアが、「カワイイ」と言いながらもつこを撫でる。ハチは、


 「…お前、『女神の因子』、結構な量取り込んだだろ?」


 ? とぬいぐるみ達が首をかしげる。


 「ミスターから聞いてよ、俺も驚いたんだが…。実はな、お前ら俺の研究所(ラボ)の動力が何だか知ってるよな?」


 めぇが「はいメ!」と言いながら、


 「前に聞きましたメ! ハチさんが長年かけて頑張って解析して、それを元に造った『オリハルコン』の模倣品…、『オリハルもどき』ですメよ」


 えっへん、と得意な顔で言うめぇに、ハチは顔をしかめながら、


 「『オリハルもどき』…、うん、まぁそーだな。…その『もどき』なんだがな、ここも同じもん使ってんだ。けどなぁ、やっぱり宮殿にある本物のオリハルコンには敵わねぇ。…そこでだ」


 ハチはもつこを抱き上げ、


 「お前さん、この船の『頭脳(ブレーン)』になってくれねぇかな」


 「「!?」」


 皆驚くが、もつこだけは、


 「いいよー」


 お気楽な返事をした。


   ◇   ◇   ◇


 ハチはもつこを、船内中央の台座に乗せる。立派な装飾も施してあるので、まるで玉座のようだ。


 「すまねぇなぁ。だが、お前さんがここにいるだけで、この船の能力は限界値まで有効になる。助かるよ」


 もつこはご機嫌で返事をする。


 「いーのいーの♪ もつこが頑張れば、ふーちゃんも早く帰って来れるでしょ?」


 鎮座するだけなので頑張る必要はないのだが、ハチは笑って頷きながら、


 「ハハ、そうだな。早く帰ってきてもらおうな」


 するとスミスから声がかかる。


 「…ハチさん、じゃあ行きますか?」


 ハチは「おう」と返事をした。スミスが何やら機械の調整をする。スミスと一緒に船に乗り込んだ人間達も、それぞれ担当箇所で操作している。


 「…ガス圧、問題ありません。推進装置、尾翼もOKです」


 スタッフに言われ、スミスが答える。


 「…うん、良い数値ですね。ハチさん、いつでも行けますよ」


 「よぉし、飛空船発進だ!」


 ハチの号令と共に、飛空船が動いた。


   ◇   ◇   ◇


 「!? な、何だ、アレは!!」


 「ア、アザラシが、飛んでる!?」


 ソノラ砂漠から巨大な何かが浮かび上がった、との情報が、近隣の人間達の手ですぐに拡散されてしまった。


 「ハ、ハチさん!? これ…!」


 羽亜人にスマホの映像を見せられ、ハチは驚きながら、


 「おい、スミス! ステルス張り忘れてるぞ!」


 え!? と驚きながら、スミスは急いで機械を操作する。瞬間、巨大なアザラシの姿が透明になっていく。


 「! き、消えた…」


 飛空船は、その姿を見ていた人間達の目から消え、南極に向かって悠然と空を駆けていく。人間達は呆然としながら空を見ていた。


 「何だったんだ、今のは…」


 ―――残ってしまった映像を見ながら、もっちーが「かっけぇ!」と自分のことのように喜んでいる。もつこ本人は台座の上でオリヴィアにお世話をされて、映像などどこ吹く風だ。


 ハチは、もつこを心配そうに見ている久吾に、


 「…普通、飛空船は飛行機みたいにスピード出ねぇし、脆いんだけどな。こいつは大丈夫だ。『女神の因子』が加わることで、スピードや安定感、頑丈さも跳ね上がる。宮殿のオリハルコンと違って、俺等の身体にも影響ねぇしな」


 久吾は頷きながら、


 「そうですね。揺れも全く感じませんし、大地の上にいる感覚と一緒ですねぇ」

 

 そう感心していると、スミスとマルグリットがハチに声をかけてきた。


 「ねぇ、ハチさん。みんなの着替え、もう少しあった方が良いと思うんだけど…」


 「ミスターが、廃棄されていた大量のペットボトルを回収してきたんですが、ハチさんならそこから化学繊維布作れますよね?」


 ハチは、ああ、と言いながら、


 「仕方ねぇ…、もうちょっとだけ働いてくらぁ。久吾、お前人混み苦手だろ? 端のほうで休んでろよ」


 そう言うと、ハチはスミス達と行ってしまった。マルグリットは家族や工房の職人達と一緒に、みんなの着替えの作成に戻って行く。船内にはミシンなども持ち込まれていた。


 久吾はそれを見つつ、軽くため息をついていると、彩葉が久吾のそばにやって来た。


 「…あ、あの、久吾おじ様」


 おずおずと近づく彩葉に、久吾は、


 「…すみません、彩葉さんまで巻き込んでしまって…」


 そう言うと、彩葉は首を振り、


 「そんな! 私が勝手に来たんだもの。…それより、あのね、向こうでみんなが、おじ様と少しお話したいって…」


 見ると、倉橋達が、こっちこっち、と手招きしている。久吾は彩葉と一緒に、皆の方へ向かって行った。

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