4-1 顔合わせ
「本当にこの辺なんすか、倉橋さん」
何だかくたびれた感じの長身の男が、倉橋刑事に話しかけた。その少し後ろを、クセのある長い髪を大雑把にまとめた若い女性がついてくる。
この二人は刑事で、倉橋の後輩だ。
「うーん…、そのはずなんだがなぁ…」
と言っているうちに、目当てのこじんまりした家に辿り着いた。
「おお、ここだここだ」
長身の男は首をかしげた。
「ええ? さっきもここ通りましたよね。ていうか、さっきこんな家あったか…」
倉橋は聞かずにガチャリとドアを開けた。
「おーい、久吾さんよ」
そのまま入ってしまったので、二人も後に続く。
「倉さん、すみません。ちょっと遅くなりました」
「お前さんにしちゃ珍しいな。もう辿り着けないかと思ったぞ」
ハハ、と笑い、久吾は3人を応接間に案内して、ソファに座ってもらった。
「先日話した奴らだ。お前ら自己紹介しとけ」
倉橋に促され、長身の男が答えた。
「どうも。月岡です」
「三枝です。三枝風月」
「これはどうも。名奈久吾と申します」
久吾も挨拶するが、月岡という長身の男は、この家に入った時から懐疑的な心持ちでいるのが伝わってくる。三枝も同様だ。
「…倉さん、本当に話してあるんですか?」
「おう。俺の恩人だから、今後困ったことがあったら相談しろって言ってあるぞ」
「…? それだけですか?」
「おう」
なるほど、と久吾は思った。
何と説明したものか、と考えたが、どのみち倉橋にも自分たちの全てを話している訳ではない。久吾はまず二人の魂色を確認する。
月岡の魂色は、静かな海が凪いでいるような青―――。
色が暗くくすんでいるのは、多分こちらを疑っている影響だろう。
普段は相当冷静で、的確な判断の出来る人間なのだろうと推測した。
変わって三枝風月の魂色は、月岡と同様多少くすんでいるが、赤みがかった山吹色―――。
恐らく正義感の強い女性なのだろう。
ただ、正義感の強すぎる人間は、久吾は少し苦手だ。その手の輩は話が通じないことが多い。このくらいの色なら問題ないが、これがもっと黄色の原色に近く、もやの形に棘があるようなら要注意だ。
…が、次の瞬間、風月の魂色が白く変化した。
「旦那様、お茶をお持ちしましたメ」
めぇが一生懸命お盆にお茶を乗せて運んできた。大変そうなので「ありがとうございます」と久吾が受け取ったのだが、風月の視線がめぇに釘付けになっている。
「……………」
「メ?」
めぇが可愛らしく小首をかしげる。すると、風月の魂色がブワッと桜色に変わった。心なしか瞳の中にハートマークが見える。
「え………」
久吾が驚いていると、風月が立ち上がり、フラフラとめぇに寄ってきた。そしておもむろにめぇの体をガシッと捕えた。
「メ!?」
「………何ですか! この可愛いヒツジさんは! 最高じゃないですか! ああ、今日ここに来れて良かった! カワイイ〜〜〜!!」
そう叫んだと思ったら、ひしとめぇを抱きしめて離してくれない。恍惚の表情でめぇに頬ずりしている。
「メ!? メ!? 旦那様、助けてメ〜〜〜!!」
めぇが手足をバタつかせて暴れている。
慌てて皆でめぇと風月を引き剝がした。