18-7 ナンバーズ達
中東圏や米国と親密でない国々からアップされた動画では、《2》の破壊行動へ称賛の声が多数上げられている。
とある動画では、皆口々に『ヌーフ! ヌーフ!(イスラムの聖典・クルアーンに於ける『ノア』の呼称)』と声高に叫んでいた。
―――そんな中、ここアリゾナの地では、ミスターの言葉を聞いた人間達が動揺を隠せずにいた。
「コ…、複製?」
「左様。我等の祖とは、即ち『ノア』。旧約聖書にも記され、紀元前に一度滅した、古代の超人…。彼は二千年以上前、天使達の能力で復活を遂げ、我等を作成し、天使達を創造して、先日崩御された」
にわかには信じ難い話である。
…が、元々複製達と一緒に時を過ごし、ある程度の理解を示していた人間達であり、その上先程までのハチやミスター達の、奇跡のような能力を目の当たりにしたのだ。あり得ない、と思う方が無理がある。
だが、疑問は尽きない。
「全員が、その…、ノアの複製なんですか?」
「うちの大お祖母様は女性だけど、やっぱりノアの複製なのか?」
「最近までノアが生きてた、ってこと?」
「ノア、って実在の人だったの?」
「生き返った? …天使達の力って?」
「天使って、本当にいたの?」
様々な言語で、様々な疑問を各々が口にする。
言葉の壁を煩わしいと思ったのか、ミスターはその場で何やら呪文を発し、魔法を展開する。
「…とりあえず、これで言語は統一化するだろう。聞きたいことは色々あるだろうが…」
すると、No.56が声をあげた。
「ノア…、《0》は、本当に死んだんだな」
「ああ、《0》は亡くなった。その瞬間、天使達が《2》と《9》に囚われたのだ」
一瞬、場がざわつく。
「天使、って、まさか………」
風月が言うと、ミスターが、
「…そう。君達の中には先日、子供達のステージを一緒に鑑賞した者達もいるだろう。あの子供達こそ天使…。本来の姿は、その背に六枚の翼を持つ大天使だ」
皆に衝撃が走る。…が、人間達の中にはステージを観ていない者もいた。その中の、一人の子供が、
「…じゃあさ、その天使が囚われちゃったら、世界が何か変わんの?」
「君は? ギルのところの子供か?」
ミスターが問うと、代わりにギルと呼ばれた複製の一人が、
「…ああ、ウチの者だ。…ティムって言う。俺達は普段、シカゴのスラム街にいるんだが、さっきの映像で俺を吊るし上げようって、周りの連中が騒ぎ出したんでな。助かったよ、ミスター」
ギルはNo.588。スラム街で、親に放置されたり捨てられた子供達と一緒に暮らしている。
ギルのそばには、子供が六、七人いるだろうか。ミスターがまとめてこちらに連れて来たのだ。
ミスターは頷きながら、
「世界が変わる、か。天使達が囚われたから、と言うよりは、天使達を利用して世界を変えようとする者が、我等の中に現れた、と言った方が正しいだろう」
「…それが《2》さん、って訳か。あんた達《一桁》も色々あるんだな」
No.56に言われ、ミスターも表情を曇らせる。
「…あの、その『ウーニウス』とか『ベート』とか、何なんですか?」
月岡だった。ミスターは、
「これは我々の呼称だ。我々は千年以上かけて、全部で800体造られた。私が最初の一体、《1》だ。そして《1》から《9》までの《一桁》の番号を《一桁》…、これはラテン語になるか。《一桁》の者は少し特別に造られていてな。ノア…、彼はその名を捨て、《0》、自らを《0》と称したのだが、我等《一桁》は彼と共に『方舟』の管理や、複製達の作成などをしていたのだ」
そして、《5》やハチの方を向き、
「現在《一桁》の者は、ここには私、《1》と、《5》…、彼女は5番、そして先程からずいぶんと働いてくれた、そこで休んでいる者が《8》、8番だ」
ハチは相当に疲れていたらしく、スミスが用意してくれたソファで横になって介抱されていた。
「それから《二桁》…、No.11〜99の者達を《二桁》としたが、彼等はもう二人しか残っていない。そこにいるNo.56と、…それからNo.93・マイシャは《2》に賛同して行ってしまった」
そして、人間達と共にいる複製達一人一人を見ながら、
「800体造られた我々も、この二千年の間で残っているのは、全部で18体…。No.100〜800の者達は《三桁》…、《三桁》の者達は、No.382・ヴァレリー、No.432・マルグリット」
マルグリットの名を呼ばれると、イルゼやルーペルトなどの彼女の家族達がマルグリットに寄り添う。マルグリットは家族に、とても大切に扱われているようだった。
「…No.588・ギル、No.596・李」
先程のギルも、子供達が寄り添う。
李とヴァレリーは一緒にいるのだが、No.56とも何やら話をしている。
実は二人は、No.56の組織の者達だ。
飛空船に来た時、ハチに「何だよお前ら、No.56のこと知ってて言わなかったのか!」と言われたのだが、No.56は自分の存在を《一桁》に知られたくなかったので、口止めしていたらしい。
「…No.611・シェリル、No.686・ダリオ」
先程の料理人達の名があがる。彼等は既に、人間達の食事の支度に取り掛かっている。ルネも一緒だ。
「…No.707・スミス、No.723・ピエール、No.733・ダス、No.742・アーサー」
スミスはハチの介抱をしている。ピエールはリュシーと共にいた。
ダスはチベットの山奥の寺院にいる。元々はインドの方にいたらしいのだが、ヒンドゥー教の中での身分制度に嫌気が差し、チベット仏教の中に身を窶した。今は彼の仲間となった僧侶達に護られている。
アーサーはシモンズ家の人々と共に、ミスターの話を聞いていた。
「…そして《最後の番号》となるNo.795、…名奈久吾」
久吾の名が呼ばれた。