18-6 混乱する世界
「今、世界中のメディアで大騒ぎになっちゃってるわね。私は元々表に出ていなかったから、お店は一緒に経営してた人達に任せて来ちゃったの」
シェリルは苦笑しながらそう言った。蔵人はネットニュースや動画を見ながら、
「…そうみたいですね。久吾さん達に似た男の姿や、主やあなたに似た女性の姿を見たとか、もう色々…」
動画の中には、久吾の霊薬の顧客・平田院長の息子の姿もあった。
『―――前から時々出入りしてたのを見かけたんですよ! 見るからに胡散臭そうな男で…』
あること無いこと言っているようだったが、彼は何者なのか、と聞かれると口ごもっていた。
平田院長は『知りませんね。どちら様ですか?』と言っていた。院長には、久吾と一緒にいた証拠は一切残っていないのだ。
シェリルは、自分のスマホでも情報を見ながら、
「…これ、マズイわよね。今私達は全員ここにいるんだもの。これから吊るし上げられるの、全員人間よ」
すると、後ろから話しかけてきた者がいる。
「…だろうな。だが今、ここに全員ってのは違うぞ」
「?」
No.56だった。後ろにあと二人、ナンバーズの男と一緒だった。
「え、えーと…」
交流が無かった相手にシェリルが戸惑っていると、後ろの一人が、
「俺はヴァレリー。No.382だ。こっちは李。No.596。…それより、あっちでお前に話があるってダリオが探してたぞ」
ダリオはNo.686。イタリアでシェリルと同様に、人間と料理店を営んでいる。シェリルと交流のある相手だ。
え? と驚きながらシェリルは、
「そうなの? わざわざ呼びに来てくれたの?」
ヴァレリーは頷きながら、
「人間達の、これからの食事について話したいそうだ」
シェリルは慌てて、蔵人達に挨拶をして行ってしまった。
蔵人はシェリルを見送る三人の男達に、
「全員、じゃないんですか?」
「ああ。No.93は《2》…、ホワイトハウスを破壊した男の下に行っちまった。あと、チベットのダス…、No.733は人間達と寺院に残ってるよ」
No.56にそう説明されるのだが、羽亜人や大弥は混乱している。
「…俺達、主と一緒にいたけど、実際あなた達のこと、ほとんど知らないんです」
羽亜人がそう言うと、No.56はため息をつきながら、
「だよなぁ。俺等もまだ分かっていないことが多い。何で《一桁》の連中が仲間割れしてんのか、とかな。…お陰で今、何処もかしこも混乱してる。《一桁》の皆さんが落ち着いたら説明してもらおうぜ」
そう言っていると、《5》が蔵人達に近づいてきた。
「…あなた達、転移門で《最後の番号》の家に来たわよね。悪いけど、今から言う場所にあの家を繋げてくれる?」
え、と驚く蔵人達だが、《5》は少し離れたところにいたぬいぐるみ達を見ながら、
「あのヒツジさんが、あの娘に捕まっちゃったのよ。何だか頼みづらくて…」
見ると風月が我慢できなかったらしく、めぇを抱きしめていた。しかし蔵人は、
「…あなたはあの時、主の能力を狙っていたんじゃ…」
四人で身構える。《5》が、ああ、と言いながら、
「そうね。あれは私じゃないけど…。でも今、急ぐのよ。揉めてる場合じゃ…」
そう睨み合っていると、
「蔵人さん達、その女は大丈夫ですよ」
久吾だ。ようやく手が空いたらしく、声をかけてきた。
「でも久吾さん! この女は…」
「《5》さんが連れて来た人間達の魂色を見れば分かります。彼女は彼等にとても慕われている…、良い方です」
久吾に笑顔でそう言われ、蔵人達は戸惑いつつも、一旦転移門を通って名奈家に戻る。
(…魂色?)
《5》は訝しむが、ひとまず四人と一緒に名奈家へと移動した。
するとミスターが、『船』の中にいた全員に声をかける。言葉は英語だが、例によって全員が頭の中で理解出来る。
「皆、理由も分からず集められ、混乱していると思う。一旦事情を説明するので、集まってもらえるか」
◇ ◇ ◇
「こちらでよろしいのですか? ダン・オドゥール…」
「あ、あれ!? 楠本さん!?」
業者と共に、名奈家に食料を運び込んでいた楠本を発見し、大弥が驚いた。
「!? だ、大弥様!?」
《5》は、説明は後よ、と言いながら、
「ひとまず《1》から話があるから、皆あちらへ。あとは私と彼でやっておくわ」
そう言って、蔵人以外の三人を転移門の向こうに促す。楠本は、
「…先程の映像と、関わりがあるのですか?」
「ええ。今、あなた達の組織のトップもあちらにいるわ。でも、あなたは戻ったほうがいいわね」
楠本は頷き、後で《5》から経過を教えてもらうことにして、速やかに帰っていく。
蔵人に頼み、名奈家の座標だけずらしてもらい、《5》も蔵人と共にミスター達の下へ移動した。
「…さて、まずはこんなことになってしまい、本当に済まない。だが、避難せねば皆危険だからな。………そうだな、何処から話せば良いか…」
ミスターが少し考えながら言う。
「…まず、我々が何者なのか、というところからかな。…我々は全員、先程の映像の者達も含め、元は一人の人間の、…複製だ」