18-5 巨大飛空船
「悪いな、もうテレビやらネットやらで、お前さんにそっくりの顔が出回っててな。その…」
転移門を前に、倉橋が久吾に言う。石塚や風月と一緒にいた月岡が、
「倉橋さんは久吾さんと一緒にいるところを度々目撃されてますからね。署内でも少し騒ぎになって…」
人間達への余波が、思ったよりも早い。章夫は頻繁に会う訳ではないのだが、心配して来てくれたようだ。
学校にいたはずの裕人は、スマホなど映像媒体が一瞬乗っ取られたことで、校内で騒ぎになっていたところを彩葉に捕まり、言われるまま父と連絡を取ってこちらにやって来たらしい。久吾は、
「皆さん、ありがとうございます。他にこちらに向かっている方はいらっしゃいますかね?」
そう言うと、既に転移門の向こう側に行っていた蔵人の声がする。
「大丈夫だと思います。もう名奈家の座標はずらしたので、誰も来れませんよ」
久吾は、分かりました、と頷き、全員で転移門をくぐった。
◇ ◇ ◇
そこは、つるりとした無機質な天井や壁、床が広がる、駄々広い部屋だった。『方舟』の内部に似ている。
複製達と人間達で、既に百人以上は集まっているようだが、それでも余る。その部屋だけで、大きめの体育館三棟分くらいはあるだろうか。
『今、あっちの方に住居スペース作ってるからな! 二百人分くらいありゃ良いか!?』
ハチの声がした。英語だ。
「作ってる…?」
言葉の分かった数人の人間達が、どういうことかと訝しむ。ふとハチ達のいる部屋を覗くと、不思議なことに様々な物体が宙を飛び交いながら変形している。
大きなものはミスターが動かし、大まかに配置された素材を、ハチがどんどん形作る。
その指揮を取っていたのは、No.707・スミスだ。
『ハチさん、材料足りないかもしれません。木材と石材、布類…』
『んー、どーすっかなぁ…、この際だからどっか山一つもらって…』
『では、キリバス辺りから資源を頂くか…、ああ、久吾、丁度いい。こちらへ』
ミスターに呼ばれ、久吾はミスターと交代する。
『私は資源を調達してくる。君はハチとスミスの指示に従い手伝ってくれ』
そう言うとミスターは、何処かへ瞬間移動していった。久吾はミスターの仕事を引き継ぎ、念動力で住居スペースの作成を手伝う。
◇ ◇ ◇
―――重機も何も無いのに、物が勝手に飛び交い壁や家具など様々なものが形成されていく。
ミスターが持ち込んだ黒山から、ハチが元素成分を抽出し、様々なものが生み出されていく。
そんな不思議な様子を、何も知らずに集まっていた人間達が呆気に取られて見ていた。
「……………」
「………俺達、夢でも見てんのか?」
倉橋が目をこすりながら言う。風月が、
「…ふ、不思議な人だとは思ってたけど、何か、もう………」
思ったような言葉が出ない。章夫も驚いていたが、一緒にいた裕人が、
「………、で、でもこれ、スゴくないですか!? こんなこと出来ちゃうんなら、この人達がいればこの世のゴミ問題とか資源不足とか、全部解決しちゃうんじゃ…」
すると、章夫が裕人に厳しく言う。
「それは駄目だよ」
え? と裕人が驚く。章夫は、
「いや、本当にスゴイ…、というか、名奈さんの作る霊薬だって、既に人智を超えた能力だしね。…でも、こんな能力が世間に知れたら、世界でこの人達の奪い合いになるよ。それこそ軍事利用とか…」
「あ………」
言われて裕人も納得する。石塚がこっそりと、
(やっべー、俺も裕人君とおんなじコト考えたけど、…言わなくて良かったぁ)
と胸を撫で下ろしていた。後ろから月岡が、
「さっきの映像でホワイトハウスを破壊した、久吾さん達にそっくりのあの男…、一瞬であんなことが出来たり、ここみたいに様々なものを創造するような一族か…。逆に俺達普通の人間が征服されてもおかしくないですよね…」
すると倉橋も、
「確かにな。…それにしても、久吾さん達は今まで表に出ずにいたのに、何であの男は急にあんなことを…」
そう皆で考える。ふと風月が、外国人の少女達の相手をしているめぇ達ぬいぐるみを見ながら、
「………ねぇ、みー君達は?」
皆でキョロキョロと見回す。子供は数人見かけるが、みー君達は見当たらない。
ただ、久吾達が非常に忙しそうにしているため、倉橋達はしばらく待つことにした。
◇ ◇ ◇
大弥達もファリダを連れて来ていたのだが、《5》の姿を見て警戒していた。
「…何であの女が。アイツはギメルって奴の仲間だったんじゃないのか?」
しかし《5》は、めぇ達と一緒にいる少女達と仲良く話をしている。ぬいぐるみ達もすっかり打ち解けている様子だ。
「…とりあえず、ハチさん達が落ち着いたら事情を聞こう」
蔵人が言うと、ファリダが不安そうにキョロキョロと辺りを見ながら、
「………ここ、どこ?」
すると、一人の女性が蔵人達に話しかけてきた。
「ここはアリゾナよ。私達は今、ソノラ砂漠の真ん中にいるの。ここは巨大な飛空船の中よ」
四人が驚く。その女性の顔は、美奈にそっくりだ。髪型や雰囲気も似ている。
「あなたは…」
大弥に言われ、女性はにっこりと微笑みながら、
「以前会ったことあるんだけど、忘れちゃったかな? 私、シェリル。No.611。『ルイス・ガーデン』っていうレストランやってたのよ」
「あ…!」
四人は思い出す。以前大弥が小さかった頃、一度食事をしに行った店で、二つ並んだ主の姿を見たことを。