17-5 至福の中で
《0》は皆を前に、通達を始める。
「…さて、まずは《3》と《6》の件だ。《3》については…」
「ごめんね。それはボクと、ガブリエルがやったんだ」
ミカエルが割り込んだ。
すると《0》はミカエルの頭を撫でながら微笑んで、
「大丈夫だ。ちゃんと分かっているよ」
そして《一桁》達に向き直り、
「《3》は子供達が大事に思っているものを傷つけようとし、報いを受けた。致し方あるまい…。それから…」
ふいに《0》は《9》の方に視線を向け、
「《9》」
呼ばれて《9》は、一瞬身体を強張らせる。《0》は続けて、
「………君も《8》と同様、《6》に狙われていたのだろう?」
皆が一斉に《9》を見る。
《9》は唇を噛み締めながら、声を震わせ、
「エ、《0》! 恐れながら…」
そう言うと《0》は手をかざし、《9》を牽制した。
「良い。《6》の件は全員、不問とする。…彼も、私が再三告げた『人間達に危害を加えることを禁ずる』という通達を守らなかった。これも報いだろう…」
聞いて《一桁》全員が頭を垂れる。
《0》は再度、全員に向けて通達する。
「…我が分身達よ、聞くが良い」
全員が顔を上げ、《0》を見る。
「今後、君達が『方舟』…、宮殿を護る必要はない」
全員が驚いた。《0》は続ける。
「もちろん、ここを拠点とするのは構わない。しかし、ここに縛られる必要はない。…人間に危害を及ぼさなければ、自由に過ごすと良い。…そして、《1》、それからNo.795」
ミスターと久吾が《0》に向き合う。
「君達には、改めて礼を言う。…子供達のこと、本当にありがとう。これからも、この子達を頼めるかね?」
ミスターが《0》に向き合いながら、
「もちろんです。私と久吾は、この子達のためなら何をおいても構わない。…あなたと同じです」
久吾も頷く。《0》は満足そうに笑って、
「…ありがとう。…子供達よ、君達の要望で、ミカエルとガブリエルは《最後の番号》と共に、ラファエルとウリエルは《最初の番号》と共に…、これからも、四人一緒でなくとも良いのか?」
子供達が分かれたのは《0》の取り決めではなく、子供達自身の選択だった。ミカエルはにっこり笑って、
「うん! ボク、ななさんと一緒にいたかったんだ!」
「みー君がそう言うんだから、私がついていかないとね」
ガブリエルが言う。ラファエルが、
「ミスターの瞬間移動もあるけど、《8》が作ってくれた転移門もあるしな。僕達はいつでも会える」
「そうよ。今の私達にとって、距離は関係ないもの」
ウリエルもそう言う。《0》はハチの方を向き、にっこりと笑う。ハチは珍しく恐縮していた。
「…皆、ありがとう。おかげで、私の二度目の生は、幸せなものとなった。子供達の幸せは、私の幸せだ。………そうだ、《1》。皆にも先日の、子供達の演じる姿を観せてあげよう」
言われてミスターは、水晶玉を取り出す。
―――先日のステージが、その場で映し出された。
あの時と同様、五感を刺激する天使達の魔法のステージを、《一桁》達が神妙な面持ちで観ている。
《0》はそれを観ながら、
「………ああ、やはり素晴らしいな」
そう呟き、映し出されている自分達の姿を一緒に観ている子供達に、
「…このまま、君達が幸せに、………そう、『本来の姿』になる必要の無い、そんな世界が続くように、私は祈ろう」
―――映像が終了する。
《0》は子供達を抱き寄せながら、皆に声をかける。
「…我が分身達よ、それから、子供達よ」
にっこりと微笑みながら、《0》は、
「………皆、仲良く、な」
それだけ言うと、目を瞑り、フッ、と意識を落とした。子供達を抱きしめていた腕から、力が抜け落ちるのを感じる。
「………? …《0》?」
ミカエルが声をかける。再び眠りについたのか、と誰もが思った。
………が。
そのまま《0》は、二度と目を覚ますことはなかった。