17-4 天使達の『今』
《0》の一言で、《1》と《4》を除く《一桁》全員が控える。ハチもだ。
大人しく様子を見る久吾に、《0》は静かに微笑んで、
「…やぁ、No.795よ。君もこちらにおいで」
《0》に促され、久吾はソファーに近づく。すると、ミカエルが久吾に走り寄ってきた。
「ななさん! 来て!」
ミカエルは久吾の手を掴み、《0》の元に連れて行く。その様子を見て《0》はにこやかに、
「おお、君とミカエルは仲が良いのだな。…今、『ななさん』、と呼んだか?」
ミカエルはにっこりと笑い、
「うん! そーだよ! 『No.795』も『久吾さん』も呼びにくいし…、『ななさん』が一番呼びやすいの!」
そう聞いて《0》は嬉しそうににこにこと笑い、
「そうか、そうか…。ななさん、か」
するとラファエルも、
「こっちだって『ミスター』だからな! 僕達《1》を『ミスター』って呼んでるんだぞ!」
張り合うようにそう言うと、《0》は《1》を見ながら、
「おお、君は『ミスター』なのか…。そうか、そうか…」
そして子供達に向き直り、
「…君達は『今』を、とても楽しんでいるようだね。《最初の番号》と《最後の番号》…、私の代わりに彼等の元で、人間の世界で…。…どうだい、今の人間達は?」
そう聞くと子供達は少し考え、まずはウリエルが、
「うーん、人間社会は昔よりずっと便利になったわよ」
「そうだな、美味いものも増えた」
ラファエルが言うと、ガブリエルが、
「えー? 日本の方が美味しいものいっぱいあるわよ」
「な! イギリスだってあるぞ! めちゃ甘ドーナツとか…、アフタヌーンティーなんか、日本がイギリスのマネしてんじゃん!」
二人の言い合いにミカエルが割り込み、
「和菓子も美味しいよ! 大福とかどら焼きとか…。今の人間達は食べ物もそうだけど、生活がすっごく便利になるように、いっぱい努力してるよ!」
「そうね、自分勝手でひどい人間もいっぱいいるけど、良い人間もちゃんといるわよ。…そこは、昔も今も変わらないわね」
ガブリエルもそう言うと、《0》は嬉しそうに、
「そうか、そうか…。良い人間もちゃんといる、か…。人間達と仲良くしているのかい?」
すると四人が頷き、ラファエルが、
「ああ、ご近所のビーンズさんなんか、僕達を見ると『今日もキドニーパイ作り過ぎちゃったからどうぞ』って、渡してくるんだ」
「あれ絶対ワザとよね。私達の分まで、いつも作ってるの」
ウリエルもそう言って呆れているが、悪い気はしていないようだ。
するとミカエルも、
「ウチにも毎週、めぇさん目当てに来てる風月ちゃんが、色んなおやつ持ってきてくれるよ!」
「そうそう、この間のマスカットの入った大福、すっごく美味しかった!」
ガブリエルも思い出して言う。
ラファエルも対抗しておやつ談義が続くのを、《0》は楽しそうに見ながら、
「そうか…。今の人間達は、君達と仲良くしてくれているのだね」
そう聞いて四人は頷き、ミカエルが、
「うん! 時々変な人間もいるけどさ、…ななさんやミスターがいてくれるから、ボク達、守られてるもの!」
にっこりと笑って言う。ラファエルも、
「ああ、ミスターや久吾がいるから、僕達は安心して楽しく過ごしているんだ」
続いてウリエルが、
「…そうね。私達と見た目が同じくらいの子供と仲良くなるのは、ちょっと難しいけど…、でもスミスさんやトンプソンさんもいるしね」
成長しない天使達が人間の子供と仲良くなる訳にはいかないが、どうやらイギリスにもミスター達の事情をある程度知っている人間がいるらしい。ガブリエルも、
「うん。羽亜人さん達や章夫さんとか、良い人間達と縁をつないで、ななさんやミスターが私達を守ってくれているのよ」
子供達の話を聞きながら、《0》は嬉しそうに頷き、ミスターと久吾を見ながら、
「…ありがとう。私の代わりに、君達が子供達を大事に守ってくれている…。何という、喜びだろう…。この子達がこんなにも、生き生きと『今』を楽しんでいる…」
《0》の頬を、涙が伝う。ミカエルは、そっと、《0》の手を取りながら、
「…心配しなくても、ボク達は大丈夫だよ。そりゃあ人間には色んな人がいて、良い人も悪い人も、好きになれないような人もいるけど…」
そう言って、にっこりと笑い、
「それでもボク達、とっても楽しいよ! 《0》の願い通り、ちゃんと『今』の世を楽しめているよ!」
聞いて《0》は子供達を、ぎゅっ、と抱きしめた。
「良かった…、本当に…。私はこれまでも、これからも、君達の幸せだけを願っているのだ…」
そう呟く《0》を、子供達が笑って擦り寄る。
ミスターと久吾も、《4》も、その様子を微笑ましく見ていた。
―――そして、ふいに顔をあげた《0》が、《一桁》達に向かって声を発した。
「………《一桁》の者達よ、聞くが良い」
《0》の、《一桁》への通達が下される。