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3-2 古の技術

 「ぢぐじょ〜、遠路はるばる来たってのにぃ…」


 もっちーがヘルメットに乗ってテーブルまでやって来た。ヘルメットには小さなタイヤが内蔵されており、コロコロと自走出来るのだ。


 「遠路ったってお前、転移門(ゲート)通って来ただけじゃねーか」


 ハチがそう言いながら、大福アイスをテーブルに置いてやる。もっちーは椅子に座ったみー君の膝の上に乗せてもらった。大福アイスを見て機嫌が直ったようだ。


 「いやー、転移門(ゲート)スゲーな! オレっち未来のひみつ道具がもう出来てるなんて、ココに来るまで知らなかったぞ」


 「あぁ、俺もたまに日本のマンガやアニメ見ると、俺らのこと実はバレてんのかなって思う時があるよ」


 ハチが冗談混じりに言う。転移門(ゲート)は座標を合わせて場を繋げる。地球のほぼ反対側にある久吾とハチの互いの家は、これでいつでも来られるようになっている。


 ちなみに久吾の家もこの技術を応用しており、座標をずらして一度訪れた人間が連絡もなしに、再度同じ場所を訪れても辿り着けないようになっている。ただ、久吾がたまに行う暗黒空間への転移は技術によるものではなく、彼のスキルのようなものだ。


 「でも、未来ではなく過去の遺物なんですよね。失われた技術(ロストテクノロジー)でしたか」


 久吾が「私は詳しくないですが」と付け加えて言った。詳しいのはエンジニアのハチだ。昔は錬金術師とも言われていた。


 「ん? 何だ、知りたいか? 俺の助手になって勉強するか?」


 「ムリですよ。私に機械いじりは向いてません」


 久吾がそう言うとハチは笑った。


 「ハハ、まぁ俺らは皆、得意分野が違うからな」


 そこへファリダとふーちゃんがやって来た。


 「おい大福、敗者が何故それを食う」


 「オレっちはアザラシ!」と言うもっちーを無視し、ファリダがもっちーの前の大福アイスをつまんで自分の口の放り込む。「あー!」と文句を言うもっちーを尻目に、美味しそうに食べるファリダの頭をハチがげんこつで小突いた。


 「こらファリダ! チビッコいじめんじゃねぇ!」


 「何をするハチ、それがヨメの私にするコトか」


 「誰がヨメだ、まったく…」


 昔ハチに命を救われたファリダは、自称ハチの嫁を名乗っている。だがハチは、ファリダを居候程度にしか見ていない。


 「そういやお前、例の『需要と供給』ってのはどうなった?」


 「あぁ」と久吾が顔をしかめた。ファリダともっちーが隣で騒いでいるのを、めぇが何とか取りなそうとし、それをみー君とふーちゃんが楽しそうに見ている。


 「どうにもなりませんね。最近は『供給』がちっとも間に合いませんよ。質の高い魂は、確保が難しいです」


 久吾は霊薬を精製して、特定の人間に販売している。

 霊薬は万病に効く薬であり、一粒で瀕死の人間も完治するし、寿命を数日延ばす効果もある。ただ、死者には効果はない。


 原材料は、人の寿命である。

 久吾の言うところの『天使の魂色』と呼ばれる極上の魂であれば、一日分の寿命で約100粒の霊薬が精製できる。だが、その魂は滅多に手に入らない。


 逆にこの霊薬を欲しがる人間は多い。

 久吾は売る相手を慎重に見定める。欲に目がくらんでいたり、霊薬のことを簡単に口外するような輩には絶対に売れない。それでも名医と呼ばれるような人物や、賢人と呼ばれる国家官僚など、意外と『需要』は多いのだ。

 バランスを取るため、最近は一粒百万円まで値を吊り上げたが、それでも足りないのだ。


 「…そうか。苦労するな」


 ハチが言うと、久吾も笑って


 「ハチさんも戦場を回っての資材集め、大変じゃないんですか?」


 「俺はいいんだよ。半分趣味みたいなもんだ。それより、そろそろ時間じゃねぇのか?」


 言われて久吾は腕時計を確認した。


 「おや、そうでした。急がないと、このあとの約束に間に合いませんね」


 そして「みんな、帰りましょう」と声をかけ、転移門へと移動した。


 「ファリファリ、次は勝つかんな!」


 そう言うもっちーに、ファリダは不敵な笑みを浮かべ


 「フン、返り討ちにしてくれる」


 最後に「またねー!」とふーちゃんが手を振って、全員が転移門をくぐり帰って行った。さっきまで賑やかだったのが静かになり、ファリダが少し寂しそうだった。


 「さて、片付けるか。ファリダ、手伝え」


 「うん」


 そう言いつつ、ハチは夜が明け始めた空を見ながらつぶやく。


 「…あれから、もう百年過ぎちまったなぁ…。そろそろ『エフェス』が目覚めるかな…」

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