17-3 帰郷
「「《0》!」」
久しぶりに、…およそ百年ぶりに会う『ノア』、現在の『《0》』。
すっかり年老いたが、子供達を慈しむように見るその目は、二千年前と変わりない。
子供達は四人で《0》に向かって駆けていく。
「「《0》ー!」」
「「おじいちゃーん!」」
ミカエルとラファエルが『《0》』と呼ぶのに対し、ガブリエルとウリエルは『おじいちゃん』と呼んでいる。
だが《0》はにこにこしながら、子供達を手を広げて迎えていた。
四人が《0》の膝元に寄っていくと、《0》は嬉しそうに、
「…久しぶりだね、みんな。元気だったかい?」
すると子供達は一斉に「うん!」と答える。
それを聞いて《0》は、うんうん、と何度も頷いていた。
ふいに、そばにいた《1》が子供達に、
「…《0》は先日の皆のショーを、水晶玉で鑑賞したのだよ。素晴らしかった、と仰っていた」
「そーなの? 『誕生』だけしかやってないけど…」
聞いてミカエルがそう言うと、《0》は、
「そうだな。『邂逅』や『躍動』、他にも『星霜』や『黄昏』…、君達が受肉した折、《1》が設定した『魔法』の能力と、君達の中の『天使』の能力によって、君達は素晴らしい演者となった…。中でも、演目『誕生』は、皆のお気に入りだね」
子供達が受肉した際、設定した魔法と天使の能力は、即ち祭事で行われる『祈り』のようなものとなった。
祈りの能力はそのまま叙事詩・叙情詩に形を変え、『唄』や『踊り』、『音楽』を伴い、結果四人は祈りを捧げる『演者』となったのだ。
《0》が想いを馳せながらそう言うので、ガブリエルが、
「おじいちゃん、他にも観たいもの、あるの?」
そう聞くと《0》は、
「…いや、受肉の際に見せてもらった。今も私の中に残っているよ。…それに、今ここで演じては、《1》達に影響が出る」
楽器のないこの場所では、天使の能力を伴わねば演じることは出来ない。
《0》にそう言われ、少し残念そうな子供達だったが、《0》は嬉しそうに、
「…さあ、今の君達がこの世界で見てきたことを、私に話して聞かせておくれ」
すると子供達も嬉しそうに、
「うん! あのね! ボク達今、ぬいぐるみのもっちーやめぇさんと…」
「あ! ズルい! 僕達だってシークやハイドと…」
「もー! 最初に何であの子達がいるのか教えてあげないと…」
ワイワイと騒ぐ子供達の話を、《0》は嬉しそうに聞いている。
その様子をソファーの両端にいる《1》と《4》が、微笑ましく見守っていた。
◇ ◇ ◇
「………おい、大丈夫か?」
ハチが久吾に、静かに緊張しながら囁く。
…久吾は先程から《2》に睨まれ続けていた。
ソファーにいる子供達の和やかな雰囲気と違い、《一桁》の集団にただ一人置かれた《三桁》…、No.795への『圧』。
特別な特殊変異型とはいえ、《一桁》から浴びせられる『圧』というのは、居心地の良いものではない。
さすがに久吾も顔をしかめていた。
「……………」
互いに黙っている。ハチは狼狽しながらも、
「…おい、《2》、《0》の前だろ。あからさまに敵意を向けるのは…」
「黙れ」
ハチは《2》に一喝された。そして、
「…《6》が消滅した」
「「!?」」
聞いて、久吾もハチも驚いた。ハチが慌てて、
「…な、何でだ!? 気配はあるだろ!」
だが《2》は、
「気配の因は知らぬ。だが《3》の消滅にも、そこのNo.795が関わっている。…貴様、《6》とも対峙しているのだろう?」
「あ、あれはアイツが…!」
ハチがそう言うが、《2》に睨まれ気圧されてしまった。
すると今度は《9》が前に進み出て、
「《8》兄さん…。正直に話した方が良いわよ」
「? 《9》? そりゃあどういう…」
ハチが聞くと、《9》は心底心配する表情でハチを見ながら、
「…知ってるわよ。《6》兄さん、《8》兄さんのことを吸収しようとしてたんでしょ? ひどいわよね…。…でも」
そして久吾に視線を向けながら《9》は、
「…《最後の番号》、いくら《8》兄さんを守るためとは言え、殺すことないじゃない。しかも偽装工作までして…」
「はあ!?」
ハチが驚いて抗議する。
「《6》の野郎がそうカンタンにくたばる訳ねーだろ!? それに、あの時俺達に偽装するようなヒマなんか無かったんだぞ!」
「そんなの、後でいくらでも出来るでしょう? …それに《最後の番号》、あなた《3》姉さんが欲しがっていた『千里眼』も、自分のものにしたらしいじゃない」
「それは…!」
ハチが反論しようとしたが、
「…よさないか」
背後から声がした。
《0》だった。