表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
128/194

17-2 謁見前夜〜宮殿へ

 「………ふぅ。良いなぁ、風呂ってのは」


 「ええ」


 ―――その日の夜。

 ハチと久吾が露天風呂に浸かっている。


 本来、彼等の身体は自浄機能があるので風呂も必要無いのだが、久吾は湯に浸かるという行為は気に入っているのだ。

 ここは結界に包まれた名奈家の本体がある、樹海の中の秘湯だ。


 「…ハチさん」


 「うん?」


 久吾は湯の中で夜空の星を見上げながら、


 「ファリダさん、ハチさんのこと覚えていなくても、気にはなっているようですね」


 ハチは頭を掻きながら、


 「…ん、まぁ…、正直思い出さねぇ方が、アイツにとっては幸せだと思うんだがな…」


 ハチ自身もファリダを気にしているのだろう。久吾は笑って、


 「何かあれば、私がハチさんに報告しますよ。…それよりハチさん」


 「うん?」


 今度は何だ、とハチが訝しむと、


 「前にあなた、我々に備わってるチップ、抜かれると死んじゃうみたいなこと言ってたのに…、先日《(ヴァヴ)》さんが、殺すつもりはない、チップを抜いて野に放つ、とか言ってませんでした?」


 納得いかない顔で久吾が尋ねると、ハチは、ああ、と言いながら、


 「《(ヴァヴ)》の野郎が色々実験しながら、複製(コピー)を殺さずにチップを入替える方法を見つけたみてぇだがな…、正直迷惑な話だ」


 「?」


 久吾が分からずにいると、ハチは忌々しげに、


 「結局、情報の無いサラのチップなんて入れられても、感情も知識もない、人間で言うところの『廃人』だからな。…最悪だろ?」


 聞いて久吾も顔をしかめる。


 「《(ヴァヴ)》さんって、つくづくロクでもない方ですね。…というかハチさん、私がやられちゃったら大変だったじゃないですか」


 久吾にそう言われ、ハチは笑いながら、


 「お前なら大丈夫だと思ってたからな。ミスターもお前の強さには一目置いてるしよ」


 えぇ…、と久吾は呻いたが、ハチは変わらず笑っている。すると久吾は、ふと思い出したように、


 「…そういえば《(ヴァヴ)》さん、気配はあるのに千里眼で姿が見えないんですよね」


 「? …まぁ明日行けばいるだろ? 会いたかねぇけど…」


 久吾が、そうですね、と頷くと、何やら賑やかな声が近づいてきた。


 「「?」」


 久吾とハチが何事かと思っていると、


 「…あ! ななさん達入ってた!」


 みー君の声がした。子供達がそろって裸でやって来たのだ。ぬいぐるみ達もいる。久吾が驚いて、


 「え!? 皆さんも入るんですか!?」


 そう聞くとラファエルが、


 「たまには良いだろ。日本にいるんだから温泉くらい入っとかないとな」


 するとハチが、


 「おう、入れ入れ。湯上がりの乾燥は俺がやってやるよ」


 ハチがいれば、能力(ちから)で汚れの除去や水分の蒸発もお手のものだ。

 静かだった樹海の秘湯に、賑やかな声が響き渡った。


   ◇   ◇   ◇


 ―――翌日。


 「準備はいいか? じゃあ行くぞ」


 転移門(ゲート)の座標を合わせ、ハチと久吾、それから四人の天使達が宮殿へと向かう。

 ぬいぐるみ達はお留守番だ。


 「オレっち達、守護者(ガーディアン)なのに…」


 もっちーがしょんぼり言うと、みー君がもっちーを抱き上げ、ほおずりしながら、


 「すぐ帰るからね、待っててね!」


 もっちーは、みー君に、ぺたん、とくっつきながら、「うん!」と元気よく返事をした。


 ハイドとシーク、めぇともつこも、それぞれ行ってらっしゃいの挨拶をし、一行は手を振りながら転移門(ゲート)をくぐって行った。


   ◇   ◇   ◇


 ―――たどり着いたその場所は、巨大な氷の上。


 「転移門(ゲート)も内部へは一切干渉出来ないからな。…確かそこに入口があるはずだ」


 ハチがとある場所を指す。氷の表面をカモフラージュしてあるが、近づくと、フォン、と音がして、下へと続く空洞が現れた。


 「このままだと普通に落っこっちまうから、いつもはミスター…、《(アレフ)》が迎えに来てくれるんだが、今日は…。…おい、久吾」


 ハチに促され、久吾が一行を透明の球体に包み込む。

 そのまま球体は、フワリ、と浮かび、スーッ、と空洞を下へと移動していった。


 ―――到着した場所は、無機質な広い部屋。

 過去、久吾達複製(コピー)を造るために設置された試験管や機材は、現在全て取り払われている。


 中央に浮かび、ほんのりと光り輝く鉱物はオリハルコン。二千年前と変わらぬ姿を留めて、《(エフェス)》と『方舟』を護っている。


 オリハルコンから少し離れた場所に、豪奢なソファーがある。その端にミスター…、《(アレフ)》と、反対側に《(ダレット)》。


 そして、ソファーをまるで玉座のようにして謁見の体勢を取る四人の人影。

 《(ベート)》、《(ヘー)》、《(ザイン)》、《(テット)》が、宮殿にたどり着いた一行を振り返って見た。


 「………来たか」


 《(ベート)》の声を合図に四人の人影が動き、ソファーに座る人影が見える。

 《(エフェス)》だ。

 一行の姿を見た《(エフェス)》は、弱々しくも、にっこりと笑い、


 「………おかえり、子供達よ」


 そう言って、手を広げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ