幕間 閻魔とヤフェテ
ドオォォーン………。
遠くの方で爆発音が聞こえる。
ここは賽の河原。…そして、今日もこたつで温まる四人の姿―――。
「…まはひほへるなぁ」
こたつの中でみかんを頬張りながら、拓斗が言った。シンは爆発音のした方を向きながら、
「…だな。時々聞こえるな」
「シン君、知ってるの?」
秋恵もシンと同じ方を見ながら訊いてみる。桃子は相変わらず、スー、スー、と寝息を立てている。訊かれてシンは、
「いや、オレも知らない。だけど、椿鬼が『アレがあると閻魔様ゴキゲンなのよぉ』って言ってたから、悪いモンじゃないだろ」
椿鬼とは、秋恵をここに案内したユルそうな鬼だ。
秋恵と拓斗は、へぇ、と感心していた。
◇ ◇ ◇
「おお、来た来た♪ …さてと、栄養補給じゃ!」
冥界の執務室で、嬉しそうにそう言う山のように大きな体躯の者…。
彼こそ、冥界を治める閻魔大王である。
その傍らで閻魔を見上げているのは、普通の人間サイズの一人の男性。
東洋人と言われればそんな気もするが、国籍不明な顔立ち…。何処となく『ノア』に似ている。
彼は『ヤフェテ』。一度記憶を残したまま『きの女』と言う日本人女性に転生し、その時開発(?)した物騒な究極の無属性技・極滅波によって、意識を冥界に飛ばされた。
「………ふう。お前達が開発した技のお陰で、ワシの精神力と活力が蓄えられる。あと数百年は他の十王連中を黙らせられるぞ!」
「…何とも複雑ですね。久吾のヤツ…。相変わらずゴリ押しだな…」
ヤフェテはため息混じりにそう呟いた。
―――久吾が師匠と完成させた、と言っていたこの技は、『隠』と『陽』の概念を強制的に具現化させたものを、念動力と霊力で強引に相殺し、その際に発動する渦巻く莫大なエネルギーを一気に放つ。
ヤフェテが思い描いた研究の結果とはだいぶ違う。
結局、開発したとされる技・極滅波は久吾独自の能力となったのだが、久吾の中に溜まるエネルギーは時々こうして発散しているらしいのだ。
「…あやつは自分の持つ霊力で開門し、闇の冥界に転移出来ますからね。それを良いことに、ああやってドッカンドッカンと…」
ヤフェテはそう言って首を振るが、閻魔は、ガハハ、と笑って、
「あやつが冥界で放つエネルギーは、そのままワシに吸収される。良いではないか」
ええ…、とヤフェテは顔をしかめる。
「賽の河原に流れ着いた亡者の方々が、皆驚くんですよ。かわいそうに…」
すると閻魔は、まぁまぁ、と言いながら、
「亡者共は驚かせておけば良い。被害は一切出ていないのだからな」
嬉しそうな閻魔を見ながら、ヤフェテは、やれやれ、といった顔で、
「…私からすれば、不肖の弟子ですからね。色々ご迷惑をかけているように感じるのですよ」
「ん…、まぁ、あやつが関わったが為に、成仏が遅れている者達もいるからな」
閻魔はそう言いながら、賽の茶の間のある方をチラリと見た。そして、ヤフェテの方を向き、
「だがあやつのお陰で、そなたがここでワシらの仕事を手伝ってくれるようになった。…正直助かっておるよ」
そう言って、ヤフェテに笑いかける。
ヤフェテは冥界に飛ばされてから、成仏の門はくぐらず閻魔の側で久吾を見守ることにした。
ヤフェテの半身である、記憶の半分を失った『きの女』は、陰陽寮の長の地位を外れ、新たに長となった者と夫婦になり、数十年後に大往生を遂げ、ヤフェテとは別人格と見做され無事成仏の門をくぐっている。
「お互い様ですよ。私も閻魔様には感謝しております」
―――音が止んだ。久吾が現実界に帰ったようだ。
「………閻魔様」
ヤフェテが何事か尋ねようとする。? と閻魔が見ると、ヤフェテは少し憂いて、
「…あやつ等、親父殿の複製は死んでも冥界にはやって来ませんが、もしや久吾達に『魂』は無いのでしょうか?」
閻魔は、ふうむ、と唸り、
「…そうだな、あやつらは元々管轄が違う。多分あちらの世界の『大天使』達が保護していると思うぞ」
え、とヤフェテが驚く。閻魔は、
「まぁ、魂が形成されなかった者達もいたようだから、全員ではないがな。…ほれ、先日の『美奈』と言ったか…、あの者も大天使の保護下にあるはずだ」
ヤフェテは、ほお、と驚きながらも、少し残念そうに、
「…では、久吾に何かあって死亡しても、会えないということですか」
寂しそうに言うヤフェテに、閻魔は、
「………いやぁ、あやつはちょっと分からんな」
? と訝しむヤフェテだが、閻魔は続けて、
「…もしかすると、あやつは今後『複製』という縛りから外れるかも知れん」
「? …どういう事ですか?」
ヤフェテが聞くが、閻魔は苦笑いしながら、
「ん、まぁ、ただのワシの『勘』だ」
閻魔はそれ以上、何も言わなかった。
次、久々におまけ。出来れば2つ。