16-15 《0》の夢・終
「―――これで良し。後は地球の、…『女神の因子』を…」
No.795の能力を使い、一緒に依代に子供達の精神体を定着させた《0》を、No.795が不思議そうに見ている。
《0》は嬉しそうに、
「…この子達は『天使』なんだ。本来の大人の姿にもなれるよう、私が設計した。…だがそれには、純度の高い『女神の因子』が必要なのだよ」
分かっているのかいないのか、生まれたばかりのNo.795は一応頷いている。
依代に憑依した子供達は、一度動作確認をした後眠ってしまった。
自由に動くにはもっとエネルギーが必要だが、それは結局地球の因子…、『女神の因子』に他ならない。
No.795は、肉体を持った眠る子供達と《0》を見ていた。
《0》は自分と子供達を見るNo.795の視線に少し疑問を持ち、
「………もしかして君は、他にも何か視えているのか?」
《0》にそう聞かれ、No.795は、
「…あなたの周りに、…こう、何か、もやのようなものが視えます。…白くて、銀、でしょうか、…こう、キラキラと輝く飛沫のような…」
そう聞いて《0》は驚く。No.795は続けて、
「先程の子供達も…、…そう、白と、うっすら輝く金色の霞のようなものが、周りに…」
どうやらNo.795にも、自分に視えているものが何なのか分からないようだった。《0》は、ふむ、と考え込み、
「…どうやら君には、私にも視えないものが視えているのだな。それが一体何なのかは分からんが…。…《1》達にもそのようなものが視えるのかね?」
すると、No.795は首を横に振る。どうやら複製達に不思議なもやは視えないらしい。
「………そうか。君達人造人間には無いもの…。…君はもしかすると、私の想像以上の能力を持って生まれてきたのかも知れないな」
《0》はそう言って、慈しむようにNo.795を見た。
すると、《4》からの精神感応が《0》に入った。
((《0》。《2》ですが、あなたが眠り、《1》が宮殿から不在となった場合、No.795を吸収するつもりです。…どうしますか?))
そう聞いて、《0》は、
((…だろうな。だが、大丈夫だ。…私に考えがある))
《4》にそう答え、《0》は《1》を呼んだ。
◇ ◇ ◇
「―――では、私はNo.795をその地に送り届ければ良いのですね?」
「…ああ、頼む。ここよりずっと北…、以前方舟があった地よりも東にある、この島国…」
《0》は《1》と頭の中で地図を共有しながら、
「この国には、私も知らぬ『神』が未だ残っているはず…。君達には手出し出来ぬ存在だ。そして…」
かつて《0》が『ノア』だった頃、子供達と一緒に救済していた『神』達に手出し出来ぬよう、《一桁》達には命令を組み込んである。
《0》が精神感応で送った映像は、霊峰・富士。
「この場所は、この国最大の護りだ。No.795を匿うのに、この地は最適だろう。…《1》よ、彼を無事に送り届けてくれ。…頼む」
《1》はNo.795と顔を合わせながら、
「もちろんです。No.795はあなたが待ち望んだ存在…。私にとっても特別な同胞です。…『女神の因子』を入手したら、また彼が必要になるのでしょう?」
「恐らく、な。…では、No.795よ。また会う時まで、息災でな」
《0》はそう言って、《1》とNo.795を送り出した。
◇ ◇ ◇
「―――君には、本当に苦労をかけた…。No.795…、彼が生まれてから『女神』の捜索に、およそ二百年…、さらに交渉に二百年を費やし…」
―――『視える』者、No.795が生まれてから現在まで、およそ五百年経つ。
ここは現在。
今からおよそ百年前、完全に受肉を果たした天使達は、ラファエルとウリエルが英国に、ミカエルとガブリエルが日本に、《最初の番号》と《最後の番号》がそれぞれ共に過ごしている。
「…ずっと過去を、夢で見ていたのですか?」
《0》の長い回想を聞きながら、ミスター…、《1》が尋ねる。
《0》は台座に横になりながら、
「ああ…、東洋で言うところの、走馬灯、というものなのかな。私の死期も、そろそろ、というところか…」
力なく笑う《0》を、《1》と《4》が見守る。《0》は、
「………子供達は、どうだ? 楽しんでいるか?」
《1》はにっこりと笑い、
「ええ。人間世界も大戦の後、劇的な発展を経て、この二千年の中で最も平穏な時期を迎えております。…皆、毎日楽しく過ごしていますよ」
そう聞いて《0》は満足そうに、
「そうか…、良かった。…共に過ごせぬのが口惜しいが、君達になら安心して任せられる…」
だが、そう言った後、僅かに表情を険しくし、
「………《3》と《6》が消滅したな」
「「!?」」
《6》の消滅は、《1》も《4》も感じ取れなかった。
《0》の言葉に二人は驚いたが、《0》は続けて、
「…だが、別に何も思わなかったのだ。ここを守っていたはずの《一桁》達なのに、君達二人と違い、それほど彼等に思い入れがなかったようだ。…冷たいな、私は」
そう言うと《1》は首を振り、
「そのようなことは…! そもそも《3》が消えたのは自業自得ですし、そういう意味では《6》も恐らく似たようなもので…!」
そう声を荒げた《1》に、何者かから精神感応で連絡が来る。
「………!?」
《0》が、? と訝しむと、《1》は、
「…《0》、天使達が…」
「! 何だ?」
天使達、と聞いて起き上がろうとする《0》に、《1》は、
「ショーを行うそうです」
「!?」
次、本編は多分12月です。
11月終わりに幕間一本入れたい。