16-12 《0》の夢・その11
次に《0》が目覚めたのは、数十年後だった。
(………一体、私に何が起きているのだ)
一度眠ると、異常に長い期間眠ってしまう。こんな事は今までになかった。
…だが、そのおかげで長寿を保っているのかも知れない。元々長い寿命を持っていたノア…、今の《0》だ。眠ることで生命力の温存を図っているのかも知れない。
「おお、目を覚まされましたか」
《4》がそこにいた。《0》はすかさず、
「《4》、今回の複製達はどうなった?」
すると《4》が、少し表情を曇らせた。《0》は、まさかまた、と思ったが、《4》からは予想と違い、
「………《0》、申し訳ありません。私は一体、特殊個体を…、…ここから逃しました」
「!?」
◇ ◇ ◇
その日、《3》が嬉しそうに、一体の女性型複製の試験管の前でほくそ笑んでいた。
「…フフ、良いわね、これ。《1》が戻ったら、更新に使う許可をもらいましょう」
そう言って、機嫌よく持ち場に戻る。
《0》の世話の合間に一息ついた《4》が楽しそうな《3》を見送っていると、《4》に精神感応で話しかける者がいた。
((………助けて))
「…!?」
驚いたことに、その者は試験管から助けを求めてきた。
No.37。千里眼を持って生まれた、《一桁》以外では初めての特殊変異型。
((…お願い。あの女に吸収されるのは嫌。助けて………))
その声を受け、《4》は《1》と連絡を取り、No.37を方舟から逃がした。
◇ ◇ ◇
「―――特殊個体が消えたことを知った《3》は、その衝撃と怒りで見た目も変わってしまいました」
《0》は驚いた。《3》の黒髪は真っ白になり、色素が身体から抜け落ちてしまっていた。
《0》は一応ミカエル達に、
((………子供達よ、No.37は君達のことは…))
しかし子供達は、首を横に振る。今回も子供達が視えた者は誰もいなかったそうだ。
「残りの複製達は、不具合が3体と、後は《1》がデータを見て我々の更新用に振り分け、全て消化しました。………彼の判断で、今回は私と《8》も…」
《1》は、《一桁》全員が一通り基礎能力値を上げ均衡を整える必要がある、と判断したらしい。
彼の考えならば、と《0》も納得し、次の20体の複製の準備をして、再び眠りにつく。
◇ ◇ ◇
―――数十年後。
No.41〜60。No.56が消えたらしい。
特殊個体だったと推測されたが、これは《1》や《4》も預かり知らぬことだった。
誰にも気付かれずに、気配を完全に消すことの出来る…、そういう能力を持っていたようだ。
そして今回も、子供達が視える者はいなかったそうだ。
廃棄は4体。残りは更新に使われた。
「…《8》が主体となって、試験管の数を倍に増やしました。一気に40体作成出来ますが、どうされますか?」
《4》に言われ、《0》は40体の複製の準備をし、再び眠りについた。
◇ ◇ ◇
―――数十年後。今回の目覚めは半世紀を超えていた。
段々眠る期間が延びている。《0》は多少の不安を抱えながらも、子供達に問う。
…今回も視える者はいなかった。
No.61〜100。廃棄は11体。特殊個体はNo.93。
だが、草木と心を通わせる彼の不思議な能力には、誰も興味を示さなかった。
《1》の判断で、No.37と同様方舟の外に出されたそうだ。
《8》達が試験管の数を増やしていた。全部で100本。
…だが、方舟に置いておくには限界の数だ。
「今後は100体ずつの作成で良いでしょうか」
《1》に言われ、《0》は頷く。
そして、100体の複製の準備をし、《0》はまた眠りについた。
◇ ◇ ◇
―――およそ百年後。
No.101〜200.廃棄は36体。
《一桁》達は、更新をしても基礎能力値が上がりにくくなっていた。
不具合の無い者でも、吸収しても能力値が上がらなくなった力のない複製は、《7》にまとめて方舟の外に出させていた。
―――《5》が長かった黒髪を剃り落とし、頭を丸めていた。何事かと思った《1》が聞くと、
「邪魔なんだもの」
何となく《5》らしい答えだったが、彼女の耳に下がった《9》に作らせた金の耳飾りは邪魔ではないのか、と皆が思ったらしい。
―――子供達が視える者は、今回もいなかったそうだ。
(………難しいものだな)
再び100体の複製の準備をし、眠りにつく。
◇ ◇ ◇
―――次に目覚めた時も、およそ百年経っていた。
No.201〜300.廃棄は42体。
今回も子供達が視えた者はいなかった。反省を踏まえ、《8》が試験管の改良を施していた。
「《0》。今後は我等の呼び名を変えようと思います」
《1》からそう言われ、《0》は、ふむ、と頷く。
現状、強化が停滞している今、『数秘術』を用いることで個体の能力値を上げるという、魔法の応用だと言う。
これにより《1》は《1》となり、以下《2》、《3》、《4》、《5》、《6》、《7》、《8》、《9》と、それぞれ呼び名が変更された。
《0》はなかなか視える者が生まれないことに、少しだけ焦りを感じていた。
(………いや、あきらめるわけにはいかぬ)
再び準備をし、眠りにつく。