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天使の魂色  作者: 豆月冬河


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3-1 ハチとファリダ

 台座に乗っていたもっちーが目を覚ました。と言っても、もっちーの目は基本閉じたままなので、意識を取り戻したと言ったほうがいいのかもしれない。


 「おう、起きたか。メンテナンス終わったぞ」


 そう声をかけてきた白いスモッグを着た男は、久吾にそっくりでハチと呼ばれている。久吾と美奈の兄だ。


 「サンキュー、ハッチャン!」


 元気いっぱいのもっちーが礼を言う。ハチはもっちーのヘルメットを取り出し、もっちーをヘルメットに、スポッ、と入れてやった。


 「お前さんより、ヘルメットの方に時間かかっちまったなぁ。まぁこれでしばらくは良いんじゃねーかな」


 「うん! じゃあさっそく試運転すっか!」


 もっちーが言うと、ハチのそばにいた少女がスッと前に進み出た。褐色の肌にショートボブの銀の髪、金の瞳をした、ちょっと人間離れした美少女だ。少し露出度が高めの服を着て、足に何故か不格好なブーツを履いている。


 「…よし、行くぞ」


 少女は小さな鉄砲をかまえて言った。鉄砲は鉄砲でもオモチャの水鉄砲だ。もっちーの目がキラリと光る。


 「エモノは水鉄砲か。不足はねーぜ」


 もっちーはヘルメットのシールドに投影されたパネルスイッチを、空気砲から水砲に切替えた。


 よいしょ、と後ろからみー君が出てきてもっちーを持ち上げた。みー君は翼を広げ、空高く飛んだ。

 すると、銀髪の美少女も空中に飛び上がる。履いているブーツがジェット噴射し、往年のロボット主人公さながら空中を翔ける。ハチが叫んだ。


 「ファリダ! 50メートル以上上がるなよ! 結界越えて衛星に引っかかっちまうからな!」


 ファリダと呼ばれた少女ともっちーは下を見る。

 ここは砂漠のど真ん中。ハチの研究所(ラボ)兼自宅以外何もない。周辺3km四方と上空に結界を張っているので、恐らく普通の人間には見つけられない。


 「おや、始まりましたメ」


 既にメンテナンスを終えためぇと、ふーちゃんがお茶の支度をして、久吾とハチが座る屋外テーブルまで持ってきてくれた。ふーちゃんが「あー!」と叫んで、ケープの下から自らの翼を広げた。


 「もー! 審判を待たないとダメでしょ!」


 そう言いながらふーちゃんも、夜空に向かって飛んでいってしまった。


 「それで、その後大弥は帰ってこれたのかい?」


 お茶に一口つけてハチが久吾に訊いた。


 「ええ、結局美奈さんが、壁の補修代諸々の費用を払う形で店長さん達と和解した旨を、警察に伝えて解放されました」


 「そうか、まぁ災難だったな」


 ハチは言いながらめぇを抱き上げると、自分の膝に乗せた。それからめぇの持ってきた芋ようかんに楊枝を突き刺し、パクリと頬張る。


 「うん、うめぇ。俺らは基本食わなくても大丈夫だけど、うまいもん食うって行為は大事だな。楽しみは必要だ」


 「そうですね、やはり生活していく上で楽しみは必要ですよ」


 本来、彼らの身体に食事は必要ない。排泄の必要もないし、生殖機能もない。

 しかし、味覚・嗅覚は備わっている。その上、その身体は黄金比で計算されて造られているので、誰が見る訳でもないのに、まるでギリシアの彫像のように男女共美しい見た目となっている。

 ただ、その顔だけは、彼らの創造主が元になっている。


 上の方では、もっちーとファリダが猛スピードでの攻防戦を繰り広げている。それを久吾とハチとめぇが、のどかに見上げている。


 「…しかし、こっちと比べて日本はやっぱり平和だな。その程度の事件くらいしか起きねーか」


 「ピンキリですね。殺人事件なんかも意外と多いですよ。…まぁでも、戦争が身近にあるこの辺りとは、比べるべくもないですね」


 久吾がそう言ってお茶をすすった。


 「…人間のやる事に口出すつもりはねぇけど、戦争なんてのは結局、権力持ってる奴ら次第だよなぁ…。あいつらは安全なところから、気分で大局を動かしてるようにしか俺には思えねぇな。辛い思いをする自国民とか、持たざる者の境遇が想像出来ねぇのかねぇ…」


 「持てる者は持たざる者の気持ちが分からない…。有名なのだと『パンが無ければケーキを食べろ』みたいな、ですかね」


 ハチは「そうだなぁ」とうなづく。めぇは何だかムズカシイ話をしているメ、と感心しながら聞いていた。


 上の方では決着がついたらしい。どうやらもっちーが負けてしまったようだ。

 皆が降りてきて、勝者に与えられる大福アイスをつまんだファリダに、もっちーが向かっていこうとしたところ、ファリダにむんずと頭をつかまれ、ヒレをバタバタさせている。


 「わーん!! オレっちの大福アイスーーー!!」


 「黙れ。敗者に食す資格はない」


 ファリダのように長いリーチを持たないもっちーは、虚しくヒレをバタつかせて泣いていた。


 「…アレもそういうことですかね」


 生暖かい目でその様子を見ながら、久吾がハチにそう言うと、


 「えっ!? あ、あぁ…、うん、そうか…、そうかな…? ………ファリダめ。すまねぇ、後で叱っとくよ」


 動揺するハチを見上げながら、めぇは思った。


 (あれ? 何かムズカシイ話だと思ったのに、なんか大した事ない感じになったメ…。不思議メねぇ…)

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― 新着の感想 ―
ここまで読ませていただきました。キーホルダーを手がかりに、美奈の能力、そしてミサイル…!テンポがとても良く、そして怒涛の展開に目が離せませんでした。 肝島たちが捕まって本当に良かったです。美奈のおか…
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