16-10 《0》の夢・その9
「………吸収、だと?」
「はい。《9》が行った吸収とは違い、チップからの抜き取りで情報を得ていました」
《4》は淡々と答えた。《0》は一応子供達に向かい、
((…ミカエル、皆も、…吸収された分身の中に、君達が視えた者は…))
((いなかったよー))
それを聞き、《0》は、そうか、と安堵した。
だが、それで済む話ではない。《0》は《4》に、
「詳しく聞かせてくれるか」
《4》は、はい、と答え、順を追って説明した。
◇ ◇ ◇
《0》が核となるオリハルコンの量を調整したことにより、No.11〜20の試験管で育った者達のデータは低かった。
「…ふむ。大した能力は無いようだが…」
《1》と《2》がそう言うと、《9》がおもむろに新しい複製の内の一体に近づいた。
複製の首の後ろ…、頚椎の辺りだろうか。そこから念動力でチップを引きずり出す。その者は、バタリ、と倒れた。
「!? 《9》! 何を…」
倒れた複製に走り寄りながら《1》が叫んだが、《9》はチップを手のひらの上に乗せ、それを皆に見せながら、
「…私達の能力は、強化出来るわよぉ。ほら、このチップを自分で読み取れるでしょ?」
そう言って念を込める。するとチップは、フッ、と消え、《9》はそれを脳内で解析し、必要事項を抽出する。
驚いたことに、その瞬間《9》の持つ基礎能力値がわずかに上昇したのを、全員が感じとった。
「ほぉ…、それは良いな」
《2》が別の個体を捕らえ、《9》の真似をした。すると《2》の基礎能力値も上昇する。
続いて《3》と《6》も同様のことを始めると、《1》が、
「ま、待て! お前達、勝手に…」
だが《2》は、《1》を一瞥し、
「《1》、我等は君ほどの能力はない。《0》が眠っている間、この『方舟』を守り管理するために、我等は強くあらねばならぬ」
すると《3》も、
「そうよ。これだけ人間が世を席巻している今、私達が強くなることは必須事項だわ」
そう言い捨てた。怯えていた複製達の内の一人が、たまらず《0》の元へ逃げようとする。
…が、その際、複製の身体がオリハルコンに触れてしまった。
「!?」
瞬間、わずかに光を放った複製が崩れ落ち、その身体はサラサラとした塵と化した。
皆驚き、何事が起こったのかとざわつき始めた時、
「…おい、全員オリハルコンには絶対に触れるなよ! 俺達の『核』がその母体に戻りたがって、吸収されちまうからな!」
そう言ったのは《8》だった。《1》は驚いて、
「《8》、何故そのようなことが分かる?」
「俺のこの『目』は、少し特殊らしい。素材の成分等、情報を読み取れるんです。…そうだな、言うなれば『鑑定眼』ってとこか」
全員が驚いた。そう聞いて《1》が、
「そうか…。つまり、オリハルコンを扱えるのは、《0》のみ、という訳だな」
《8》が、そうですね、と言うと、《1》は、
「…ということは、複製の増産は《0》が起きている時でないと行えないのだな」
「ですね。それと同時に、俺達の命は《0》に握られていることになる。彼の采配一つで、俺達の『核』はそれを扱える《0》に自由に操作されちまうってことだ」
「「!」」
聞いて《5》が、
「…じゃあ、《0》の機嫌を損ねた場合、私達は消されるかもしれないのね。………勝手に他の複製を使って自分達を強化したなんて、《0》が知ったら…」
「え!? ま、待ってよ! 《0》が目覚めれば、どうせまた複製を造るでしょ!? 何のためか知らないけど、弱い者ばかりいても仕方ないじゃない!」
《9》が必死に訴える。《2》も、
「そのとおりだ。この『方舟』内に、それほどの人数は置けない。間引きは必要だ。私は自らを強化…、更新させてもらうぞ。全ては我等と《0》のためだ」
そう言って、再び複製を捕らえ、自らを強化した。続いて《7》と《5》も複製を捕らえ、
「…そうね。私達も更新しておかないと、危険かも」
「だな。下手をすれば、私達が逆に吸収されかねない」
そう言って、更新を行う。
《1》は、仕方ない、と思いながらその様子を見ていた。
残っていた二体の複製は動いていない。どうやら失敗作となったようだ。
「………残念だが、この二体は…」
《1》が言うと、《2》が、
「…廃棄だな。オリハルコンと接触させれば簡単に処分出来るだろう」
そう言って、念動力で二体を移動させ処分した。
「…念動力でオリハルコンを操作することは出来ないのか?」
《2》が《8》に尋ねる。
「やめた方がいいと思うぞ。操作してる間に『核』が母体に戻りたがる。俺が鑑定してる時でも危なかったんだ」
聞いて《2》は息を呑む。
―――そんなやり取りを見ながら、《1》は『更新』について考えていた。
(…『仲間』を使っての更新、か。そのようなこと、《0》が聞いたらどう思うか…)
《1》は、《4》に声をかけ、
「………《4》。私は少し、調べることがある。君には《0》のことを頼めるだろうか?」
《4》は、もちろんです、と答えた。
「何かあれば、あなたに知らせましょう。《0》が目覚めたら、精神感応で報告します」
◇ ◇ ◇
「………そのような事が…」
《0》は衝撃を受けていた。
―――だが、《2》の言う事も分かる。複製を増やしても、その全てを方舟に置いておける訳では無い。それならば、優秀な者達を強化していく方が…。
…そこまで考えていると、《1》が瞬間移動で戻ってきた。
「《0》、お目覚めですか」