16-9 《0》の夢・その8
《0》は次の十体に用いるオリハルコンの量を少し減少させ、調整を施した。
(………あまり減らすと、『視える』者が生まれる可能性を削ることになる。難しいところだな)
一体につき10gにも満たない量である。細かい調整になってしまう。
作業に勤しんでいると《1》が、
「―――《0》。この者達はどうやら、元素等の細かなものを操る術に長けているようです」
そう言って、自分と同じローブを着せた《6》と《8》を《0》の前に促す。
「そうか、有り難い。《1》、ではここは、君達に任せても良いだろうか」
オリハルコンの調整だけは《0》自ら済ませた。
《1》は頷き、複製の増産作業を一旦引き継いでもらった。
《0》は他の者達の能力の確認に赴く。
「―――ふむ。《2》、《5》、それから《9》………、?」
一瞬、《9》のデータに違和感を感じ、《1》を呼ぶ。
「《1》、彼女もそちらの者達と同様ではないか?」
《0》が《6》達を指す。《1》は、おや、と思い、データを見る。
「………ふむ。最初に見たものと違いますね。初めのデータ…、?」
死亡した《10》のデータと共に、最初の時点で確認したデータが消えている。
《1》は不思議に思ったが、《0》は、
「まあ良い。今のデータで確認は充分だ。…ほう、《7》。君はずいぶんと強力な能力を持っているようだ。これは、使い方に注意せねば…」
そう言って《2》を呼び、
「…《2》、君は私や《1》に次ぐ能力の持主だな。《7》の能力を上手くコントロールして使ってくれるか」
《2》は頷く。《0》は《5》にも声をかけ、
「…そうだな。君達三人に、この『方舟』の管理を頼もう。《6》達とも連携し、協力し合ってくれ」
『方舟』の管理に組み込んだナアマの思念は、ノアの認証確認を以て消滅している。
《0》が三人にそう頼むと、《0》の頭の中に直接、誰かが話しかけてきた。
((…《0》、私は《4》です。今少し、よろしいですか?))
《0》は少し驚いたが、データを見ながら、何だね? と精神感応で会話を試みる。
((…《9》ですが、《10》の能力を自らに吸収したようです。反抗の意は感じませんが、如何しますか?))
《0》は、ふむ、と考え、
((………《4》、君はとても優秀な思念伝達者だね。こうしていても、私達以外からの干渉を一切遮断しているようだ))
《4》は、恐れ入ります、と答えながら、
((私と同等の者がそこに。…彼女に気付かれるのは避けたほうが良いと判断しました。…《3》は《10》が吸収されたのを知りながら、それをあなたに伝える気が無いようです))
そう伝え、《3》を警戒していた。《0》はなるほど、と思い、
((…ありがとう。君には今後も皆の監視を頼みたい。《9》については、反抗の意が無いのだね?))
恐らく《9》は、自分以上の能力を吸収することは不可能、と《0》は判断した。
生まれたばかりの《9》が自分の能力に気付かず、無意識で行った可能性もある。
同様に《3》も、生まれたばかりである。気付いたとしても、それを問題視していない可能性がある。
《4》と《0》は、ひとまず様子を見ることにした。
天使…、子供達の行った『蘇生』は、《0》には不可能である。死んだ者を生き返らせるのは、それこそ『神』の所業だ。
今の子供達の状態で蘇生が行える訳もなく、やはり視える者の誕生を黙って待つしか手立ては無い。
試験管内にいるうちに子供達に視えているか確認してもらえば、《9》の吸収はとりあえず止められるはずだ。
―――《0》がそのように今後のことに考えを巡らせていた時。
急に強烈な眠気が《0》を襲った。
「!?」
その気配に気付いたのか、《1》と《4》が《0》の元に走り寄ってきた。
「…大丈夫ですか?」
《0》は少しふらつきながら、ああ、と答えたが、
「………すまない、私は、少し…、眠る。………《1》、後は…、君に、任…、せ……」
《0》は眠ってしまった。
◇ ◇ ◇
―――《0》が目覚めたのは、それから数年後だった。
((《0》ー! やっと起きたー!))
ミカエル達に囲まれながら起きた《0》が、どのくらい眠っていたのか、と思っていると、そばに《4》がいた。
「…お目覚めですか、《0》」
《4》がそう言うと、ガブリエル達が、
((《4》がずっと介抱してくれてたのよ))
((この人、回復の能力を持ってるみたいよ))
そう言ってくれたが、天使達の言葉は《4》には聞こえていないようだ。
《0》が《4》に礼を言うと、《4》の顔が翳る。
「…どうした? 《4》」
《0》の問いかけに、《4》は、
「………《0》、残念ですが、今回の複製達はもう、一体も残っておりません」
「な…!?」
《0》が驚くと、《4》は続けて、
「《2》達が『更新』と称して、………数体の複製を吸収し、不出来な者達を廃棄しました」