16-8 《0》の夢・その7
「―――ところで《1》、君にはそこにいるものが視えるか?」
《0》はオリハルコンの方を指差す。《1》は、
「? …オリハルコン、のことですか?」
《0》は、《1》に見えているものが鉱物だけか、とがっかりした時、
「………四つほど光っている、あれは何でしょう」
《0》は驚き、
「! み、視えているのか!?」
そう言って詰め寄ろうとすると、《1》は、
「…ぼんやりと、という感じですね。何なのですか?」
どうやらはっきりとは視えていないようだ。
それでも《0》は、視える者が誕生したことを喜び、
「…いや、良いんだ。それよりも、君の個体性能は、私とほとんど変わらないね。有難いことだ。今後、一緒に複製を増やしていくが、協力を頼む」
《1》は頷き、
「もちろんです。…出来れば、あなたが視えているものを、私も見たいですね」
四つの光を見ながら、《1》は言う。《0》は驚き、
「………そうか。視えるようになる方法を探す、という手法もあるな。君達人造人間も、学び成長することは出来るはずだ」
嬉しそうにそう言うと、四つの光…、子供達が《0》の周りに飛んできて、
((ノアにそっくりだな!))
((ノアが二人いるよー!))
《1》にその声は聞こえていないようだが、《1》はくるくると飛び交う光を目で追っている。
《0》は子供達に心で話しかけ、
((これからは『ノア』ではなく、『《0》』と呼んでくれ))
子供達は、はーい、と言いながら、再びオリハルコンのそばに戻っていった。
―――《0》と《1》は早速、複製の増産を始めることにした。
「最初だからな。まずは君と併せて十体造ってみよう」
《1》を造った時と同じように、試験管を用意した。
No.2〜10。とりあえず、九本。
自分の遺伝子情報に、酸素や炭素、窒素やナトリウム等の人体を構成する元素を加え、核にオリハルコンの欠片と、脳髄に当たる情報チップを据える。
「………良し。このまま試験管の中で成長するまで数日かかるな。では《1》、しばらくこの場を任せて良いだろうか?」
《0》は少しの間、休息を取って眠りにつくつもりだ。《1》は、
「ええ、ゆっくりとお休み下さい」
《0》と同じ顔が、にっこりと笑った。《0》は安心して、子供達のそばで眠りについた。
◇ ◇ ◇
―――目覚めると、だいぶ日にちが経っていた。《0》は、おや、と思いながら、
(ずいぶん眠ってしまったな…)
《1》に、すまない、と声をかけると、
「いいえ。それよりも、試験管内を見て下さい。…もうすぐ皆、目覚めますね」
《0》は試験管を見て驚いた。ほぼ成体となった彼等は、全てが自分と同じではなく、女性の姿もある。
彼女達は、男性型と違って長い黒髪を保持していた。計図した黄金比率も適用され、何とも美しい姿をしている。
「…驚いたな。性別は無作為だったか?」
《0》が言うと、《1》は、
「そうですね。あなたの遺伝子を引き継ぎつつ、各個体が各々自我を持って成長しているようです」
「………君も、そうだったか?」
《0》に問われ、《1》は、
「…自我、という事でしたら、そうでしょうね。核に用いられたオリハルコンの量によるのかも知れません」
「そうか…」
気をつけなければならないな、と《0》は思った。
《1》はたまたま自分に肯定的でいてくれるが、自我の傾向によっては、自分に反抗的な者が現れるかも知れない。
その者が自分以上の能力を持っていた場合、分身を造ったつもりが脅威になる恐れがある。
ひとまず、今回の複製達の能力を把握し、『視える』者がいるか確認をしなければ…、と思ったが、
((―――いないわね))
((この中には、ボク達が視える人、いないよー))
ミカエル達が《0》の周りに飛んできて、くるくると回りながらそう言っていた。
((そうか…。では次に期待だな))
少し残念に思いながら、複製達の目覚めを待つ。
◇ ◇ ◇
新たに増えた複製達。
男性型は、《2》・《4》・《6》・《7》・《8》・《10》。
女性型は、《3》・《5》・《9》。
…だが、《10》の様子がおかしい。
「……………」
《10》はその場に、バタリ、と倒れ、微かに痙攣した後動かなくなった。
「これは………」
《1》が《10》の状態を確認する。《10》は完全に動きを止めていた。死亡、である。
「…何か不具合があったかも知れませんね」
《0》も確認し、そうだな、と言う。
『視える』者がいなかったことで、《0》はそれほど興味を示さず、ひとまず完成した個体達の能力の確認を行った。
皆高い数値を示しているが、《1》程ではなかったことに《0》は安堵した。
そして《0》は、試験管の点検と追加分を作成し、次の十体の作成に取り掛かった。