16-2 《0》の夢・その1
………おかしい。自分は確かに死んだはずだ。
我が子達に看取られながら、穏やかに。
「…私は、一体?」
起き上がり、ノアはさらに驚く。
身体が軽い。
よく見ると、老いさらばえたはずの身体が若返っている。
ノアの動揺をよそに、そばにいた子供達はにっこりと満足そうにして、
「良かった。大丈夫そうだね」
黒髪の少年がそう言った。
「…よし。じゃあ行こうか。…ガブリエル、大丈夫か?」
銀髪の少年がそう言うと、ガブリエルと呼ばれた栗色の髪の少女が、
「平気。ウリエルも手伝ってくれたから」
そう言って金髪の少女と笑い合い、少女達はノアの手を引いて、
「さ、行こう!」
走り出そうとした。ノアは慌てて、
「ま、待ってくれ! …これは、一体どういうことなんだ!? 私に、何が起こってるんだ!?」
すると黒髪の少年が、ああ、と言いながら、
「そうだよね、さっきまで死んでたんだもんね」
アハハ、と笑って頭を掻くと、銀髪の少年も、
「確かに、説明するのが先だな」
そう言って、ひとまずその場で皆で、輪になって座った。
◇ ◇ ◇
「―――ボクはミカエルだよ。それから…」
「僕はラファエルだ」
黒髪と銀髪の少年達が名乗った。
「私は、ガブリエルよ。それから、あの子が…」
「私、ウリエル。あなたを生き返らせたのが私達」
栗色の髪と金髪の少女達が名乗る。ノアは、子供達を見ながら、
「何と…。大天使様と同じ名を持っているとは」
驚いていると、ミカエルが笑いながら、
「そりゃあそうさ。ボク達、分身だもの」
「…ぶ、分身?」
ノアがさらに驚くと、ラファエルが、
「僕達の本体は、人間達の言う大天使だけどな。本体はこの世界に僕ら分身を、かなりの数で配置したんだ」
ノアがますます訳が分からない、という顔をしたので、ミカエルは笑いながら、
「アハハ、じゃあ、順を追って説明するね」
そう言った。
◇ ◇ ◇
「―――まず、ボク達の本体は、とある『神』と呼ばれる存在と契約していて、自由に動けないんだ。…その『神』は、君とも生前つながっていたよね」
「………もしかして、唯一神のことか?」
ノアが訝しむと、ラファエルが頷きながら、
「そうだ。僕達は、君が唯一神との繋がりが断ち切れるのを、ずっと待っていたんだ」
繋がりが断ち切れる………?
どういうことか、と思っていると、ガブリエルが、
「問いかけてみたら? 生きている時は、唯一神からの声が聞こえてたんでしょ?」
そう言われ、ノアは生きていた時と同じように、神に祈る。
…………………………。
「………本当だ。何も…、何も聞こえない! …私は、神に見捨てられたのか?」
ノアがそう狼狽していると、ミカエル達が何故か喜んでいる。
「良かった。もうあいつらの管轄外だね」
「ホントにな。…さて、事情が分かったところで、君には働いてもらわないとな」
「………? 働く、とは?」
まだよく分かっていないノアだが、不意に聞こえた『働く』という言葉に疑問を持ち、聞いてみるとラファエルが、
「…君はあの唯一神達が起こした『洪水』で、あいつらの片棒を担いだんだろ? そのツケを払ってもらう」
そう言われ、ノアは、
「な…、何を言っている!? あれは…、神の意に背いた人間達を…」
そう弁明しようとするが、今度はウリエルが、
「人間は別にどうでもいいのよ。私達が助けたいのは、私達と同じ、この地球の『因子』を持った『仲間』達なの」
「………え?」
ノアには意味が分からなかった。
ほし………? 因子………? 仲間………?
ガブリエルが続ける。
「私達がいるこの地球は、空の彼方から見ると、青くてまぁるいのよ。そして、人間より前に生まれた私達の本体の『仲間』はみんな、人間達から『神』と呼ばれているの」
驚くノアの頭の中に、真っ暗な闇の中に浮かぶ地球のイメージが送られてくる。
「………これは」
ミカエルがにっこりと笑い、
「今君が見たのが、ボクらが住む地球なんだよ。キレイでしょ。ボク達の『仲間』は、みんなこの地球の分身みたいなものなんだ。…もちろん、唯一神もね」
ノアがますます驚いていると、ラファエルが、
「…だけどあいつはあの『洪水』で、あまり力を持たない『仲間』達まで巻き添えにしたんだ。だから、僕達の本体は、僕達に『仲間』を出来るだけ助けるように、って指示したんだ」
ノアは、子供達の話を聞きながら、自分なりに情報を整理し、
「………つまり、この世には実は『神』がたくさんいて、君達はその、『仲間』である『神』を助けるために私を生き返らせた、と………、唯一神以外に神がおわすというのは、理解し難いのだが…」
そう言って、とりあえず納得しようとしたが、疑問がある。
「…だが、何故、私なんだ? 唯一神を信じる私を、わざわざ蘇生させてまで…」
すると、ミカエルがにっこりと笑い、
「だって、君じゃなきゃダメなんだ。唯一神が唯一認めた、君じゃないとね」
子供達は、ノアを見ながら全員で頷いていた。