2-6 大弥の災難
空から窓の中を見ていた大弥達は、人が入ってきたのを見て「来た!」と叫んだ。
「よーし! んじゃミサイル発射すんぞ!」
もっちーが嬉しそうに言った。
「おう!」
ミサイルと言っても、もっちーのヘルメットに搭載されている訳ではない。噴射口に空気を集めて圧縮し空気爆弾を飛ばすのだが、これが中々の威力なのだ。
「発射!」
バシュッ! と撃つとほぼ同時にドカーン、と音がして、みー君が猛スピードでもっちーを抱えたままビルに飛んでいく。大弥がすかさず中に飛び込み、「大丈夫か!?」と声をかけてから、肝島と表で見張っていた久保田を捕らえた。
…驚いたのは、下で待機していた羽亜人、蔵人、蒼人と店長、警察の面々だ。羽亜人達はてっきり、小さなもっちー達が窓を通って穏便に済ますと思っていたのに、まさか壁を破壊するとは…。
大弥が捕えた肝島と久保田を連れて下に降りてきた。翼をしまったみー君がもっちーを抱えながら、美那子の手を引いている。もっちーは普通のぬいぐるみのフリをしていた。
「三階の在庫置き場にカメラがあります。確認して下さい」
肝島と久保田を警察に預けながらそう告げると、大弥は得意満面で羽亜人達のもとに近づいた。
「…お前なぁ、あれは作戦とは言わないだろ」
蔵人が呆れて大弥に言った。
「何だよ、カッコ良かったろ。なぁ」
大弥はみー君に同意を求めた。
「うん! 面白かったね!」
みー君は無邪気に喜んでいる。ぬいぐるみのフリをしたもっちーも、心なしか得意げだ。
「アハハハ、やっぱ大弥バカだなぁ!」
羽亜人が笑うと蔵人も
「ホント、馬鹿だ…」
「…バカめ」
普段無口な蒼人にまでバカ呼ばわりされた。
「え!? ちょ…、蒼人まで…、ひどくない?」
そう言った時、美那子がこちらに走り寄ってきた。
「あ、無事で良かっ…」
声をかけようとした大弥の脇をすり抜け、美那子はその向こうに現れた男の胸の中に飛び込んだ。
「孝宏ー! 怖かったよーーー!!」
孝宏と呼ばれた男と美那子は、ひしと抱き合った。
「………」
ポン、と、大弥は羽亜人に肩を叩かれた。
「いや! そんなんじゃないから!」
しかし、今度は美那子がこちらに向かって来た。
「あ、あの…、助けて下さってありがとうございました」
ぺこりと頭を下げた美那子に、大弥は「いや…」と照れながら、例のキーホルダーを差し出した。
「これ、返しに来ただけだから」
「あ………」
キーホルダーを受け取り、美那子はもう一度礼を言った。
すると、今度は警察官の一人が大弥のもとにやって来た。
「ちょっと来てもらおうか。器物損壊の件で話を聞かせてもらうよ」
「え? あ、ちょっと…、あああ!!」
またたく間に大弥は連れて行かれてしまった。 みー君ともっちーを迎えに来ていた久吾は、心配そうに大弥の様子を見ていたが、そこへ一人の年配の刑事が現れ、久吾の肩を叩いた。
「よ、久吾さん」
「おや、倉さんじゃないですか」
倉さんこと倉橋刑事は、久吾の顔馴染である。
「お前さんとこの子かい?」
「いえ、姉のところにいる子なんですよ。多めに見ちゃくれませんかねぇ」
「投資家で占いもやるって女だったか、…仕方ねーなぁ、被害者は未遂で助かってるしな。一応話つけといてやるよ」
美奈の能力は、身内以外には口外厳禁だ。公にすれば人間社会の常識が覆る。表向きは投資家ということにしている。
「ありがとうございます、いつもすみませんねぇ」
「いいさ。…あぁそうだ、近々紹介したい奴らがいるんでな。都合つけて会いにいくよ」
「おや、ということは…」
「俺もじき引退だからな。無事退職したら、お前さんとゆっくり飲みに行きてぇなぁ」
「良いですねぇ。楽しみにしてますよ」
そんな話をしていると、みー君がそばに寄ってきて「帰ろう!」と言うので、倉橋とは「じゃあまた」と言って別れた。
「帰りにコンビニでふーちゃん達におみやげ買って行こーよ」
「そうですね。頑張ったからみー君達にも、ご褒美買ってあげましょうか」
みー君がヤッター!と喜ぶ。久吾達は羽亜人達に一応挨拶して帰っていった。
…そんな様子を事務所から千里眼で見ていた美奈は、楽しそうにクスクスと笑っていた。