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16-1 夢の跡

10月になったので。

 プライベートステージが終了した後も、ロビーはしばらくの間、興奮覚めやらぬ雰囲気であった。


 『ホント!? あの子達、大お祖母様が作ったの!?』


 マルグリットの玄孫の孫、ルーペルトがそう言いながら、自分にもぬいぐるみを作って欲しいとせがんでいた。


 『普通のぬいぐるみになるけど、良いかしら?』


 マルグリットがそう言うと、ルーペルトは、ええ、と残念そうだったが、


 『うーん…、うん、いいよ! あのクマさんの色違いがいい!』


 どうやら話がまとまったようだ。


 マルグリット達の少し先で、もっちーがピエールに捕まっていた。


 『本物に会えた! カワイイなぁ!』


 もっちーはぬいぐるみの振りも忘れ、ジタバタして文句を言っている。


 「ぬおぉ! 何言ってるか分かんねーよ! 日本語しゃべれ!」


 するとピエールは、ごめんごめん、と言いながら、


 「すごかったなぁ、さっきの。君はギターも弾けるんだね」


 そうピエールに言われ、もっちーは、ほほぅ、と言いながら、


 「…フ、オレっちのスゴさを分かるとは。意外と見どころあるじゃねーか、ピエ公」


 得意になっていると、ピエールと一緒に来ていた金髪の中年の女性が、


 『何言ってるか分からないわ、ピエール』


 ピエールはこちらにも、ごめんね、と言いながら、


 「僕のパートナー、リュシーだよ」


 そう紹介し、もっちーをリュシーの手に持たせる。


 『………まあ! さっきのギターの子ね! …不思議ね、ぬいぐるみ(プルーシュ)が動いてしゃべるなんて!』


 少し興奮気味に抱きしめられたもっちーは、あれ? と思い、ピエールの方を向くと、


 「…ああ、リュシーは目が見えないんだよ」


 言われてもっちー達が驚いた。ピエールがリュシーに通訳すると、リュシーが、


 『そう! 私、見えないのに、あなた達のステージが、目の見える人達みたいに見えたの! こんなこと初めてよ! 一体どうなってるの!?』


 するとみー君が、良かったね、と笑いながら、


 『魔法だからね。不思議でしょ?』


 天使達のステージは、相手の頭の中に直接情報を送り込んでいる。だからどんな相手にでも、観せられるし、聴かせられるのだ。

 リュシーは、みー君の手を掴ませてもらうと、ありがとう(メルシー)、と何度も言っていた。


 また少し離れたところで、ミスターと石塚達が話をしていた。


 「…えーと、久吾さんのお兄さん? で良かったんでしたっけ?」


 「ミスター、と呼んでくれたまえ」


 石塚が嬉しそうに、


 「あのカード、スゴイですね! あれから俺、勘が冴えまくって、ナンバーくじはかなりの確率で当たるし、怪しいと思ったところが大抵ビンゴで、子供達の万引きや家出なんかも…」


 倉橋が、へぇ、と言いながら、


 「お前が最近調子いいってのは、この人のお陰なのか? 署内でも石塚の評判、爆上がりしてるって聞いたぞ」


 石塚は、エヘヘ、と笑いながら恐縮していた。するとミスターが、


 「じゃあ君達にも渡しておこう」


 カードを3枚、懐から出して倉橋達に渡す。月岡には少しデザインの違う物を渡し、


 「…これは私の勘だが、君は今後、少し厳しい場面に遭遇する気がする。強めの守りを渡しておこう」


 え、と月岡が驚く。カードを見ながら、


 「…穏便なのが一番ですけどね。ありがとうございます」


 そう言って、懐にしまっていた。


   ◇   ◇   ◇


 賑やかだったロビーも、ポツポツと人が減っていった。

 久吾は一応、ピエールとリュシーに霊薬の説明をし、必要かどうか聞くと、リュシーが、


 『…いいえ。そりゃあ見えた方がいいのでしょうけど、私はずっと暗闇の中で生きてきて、(ピエール)と出会ったのよ。彼がいれば大丈夫だし、今更見えてしまうと、それまでの私の人生を否定するみたいだもの』


 だから要らないわ、と言った。

 久吾はにっこりと笑い、分かりました、と答えて二人を見送った。


 「じゃあ俺達も帰ろうぜ。お前とは三日後だな」


 ハチがマイシャと帰ろうとすると、ハチのスモッグの裾を誰かが掴んでいた。


 「…? ん?」


 ハチが振り向くと、ファリダがいた。一緒に来ていた羽亜人が慌てて、


 「ファリダ! こっちこっち! 俺達も帰るよ!」


 そう言って、ごめんねハチさん、と謝りながら、ファリダを連れて行く。

 ファリダは、何かを言いたげにハチを見ているが、羽亜人達に促されて行ってしまった。


 「……………」


 ハチはその様子を黙って見ていた。


 「…良いんですか?」


 久吾に聞かれ、ハチは、


 「良いも何もねぇよ。じゃあな」


 そう言って帰っていく。マイシャは「あの()、よく私達の区別つきましたね」と驚いていた。


 久吾も来てくれていた皆に挨拶して、みー君達に「帰りましょうか」と声をかけ、最後にアーサー達に挨拶をした。


 「ミスター、まだ帰れないの?」


 ラファエルとウリエルが、心配そうにミスターに聞く。


 「すまないね、もう少し久吾のところにいておくれ。…三日後、《(エフェス)》も君達に会えるのを、それは楽しみにしているんだ」


 そう言って、天使達を見送る。


 ―――ミスターは、《(エフェス)》との話を思い出していた。


 《(エフェス)》はかつて《ノア》と呼ばれ、確かに一度死を迎え、往生した………、はずだった。


   ◇   ◇   ◇


 ―――今からおよそ、二千年と少し前。

 土に埋められたノアは掘り起こされ、蘇生させられていた。


 「………? …わ、私は………」


 月の無い夜だった。

 土の上で目覚め、少し朦朧としながらノアがそう言うと、目の前に四人の子供がいて、こちらを見ている。

 そのうちの一人、可愛らしい黒髪の少年が、ノアの顔を覗き込んで言った。


 「…あ、起きた」

海外組の皆さんは、ハチさんとアーサーさんが舞台裏に用意した転移門(ゲート)でお帰りになったみたいです。

昼間のうちに観光もしてたのかも。

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