15-7 招集
観客全員が、夢から覚めきれずにいたが、
パチパチパチ………。
一人、拍手をしている者がいた。いつの間にかミスターが、客席の一番後ろで手を叩いていた。
ミスターの拍手を皮切りに、観客達がやっと現実に戻ってきて、そこから割れんばかりの拍手が、会場に鳴り響いた。
「す、すごかった! こんなの、初めて観たよ!」
裕人が叫ぶ。他の者達も口々に、賞賛の言葉を発していた。
ライアン達スタッフは、舞台裏から観ていたのだが、
「…ヤバイよ! コレ! こんなの、4DXでもムリだろ!」
「こ…、ここまで五感に働きかけてくる舞台なんて…、今まで観たことないぞ!」
何年も舞台を作り上げてきたはずのスタッフ達が、今までの常識を覆されていた。
アーサーは身震いしながら、
「………これは、…まさか、ここまでとは…。さすが、と言うか、………どう思う? 我々でこれを、再現出来るかな」
全員が息を呑む。ライアンが、
「…莫大な費用がかかるのは、間違いないでしょう。それでも100%再現するのは無理か………。今回我々は、スポットライトを当てただけですが…。…いや、何とも、驚かされましたね」
アーサーも頷く。そして、
「…そうだ、今のを我々の機材で撮れたか?」
聞いたが、スタッフが確認すると、
「………ダメです。全部壊れちまってる。…クソッ!」
どうやら彼等の魔法が、録画機器に何かしらの影響を与えたらしい。今後のステージで使う、電源を切っていた機器は無事だった。
アーサーは、悔しそうにしていた。すると、
「…やあ、アーサー」
舞台裏に、いつの間にかミスターが姿を現した。
え!? とアーサーが驚くと、ミスターは水晶玉を差し出し、
「機材を壊してすまないね。魔法の類は、これじゃないと収められないんだ」
アーサーは水晶玉を受け取った。ミスターは、
「これを持って、二度指先でこう撫でて『atgenhedliad(再生)』と唱えなさい。分かっていると思うが、口外禁止だよ」
それだけ言うと、ミスターは舞台裏から退出した。
アーサーが言われた通りにすると、その場の空間が先程の舞台を映し出す。
おお!! とスタッフ一同が驚いていた。
◇ ◇ ◇
「―――いや、すごかったな。あれが魔法、か」
ハチも久吾も驚いていた。人間達はもとより、他のナンバーズ達も同様だ。
初めて観た天使達の舞台に、久吾も少なからず興奮していた。
そうしていると、みー君達がそれぞれぬいぐるみを抱いて会場に降りてきた。
「ななさーん!」
みー君だけが、めぇともっちーの二体を抱えている。ふーちゃんは貝殻ごともつこを運んでいた。
「皆さん、お疲れ様でした。素晴らしかったですよ」
久吾がにっこりと子供達を労う。みー君は、
「エヘヘ、久しぶりだったけど、楽しかったよ!」
「もつこちゃん達も頑張ったね!」
ふーちゃんもそう言って、にっこりともつこに頬ずりした。もつこも嬉しそうだ。
すると、観客達が気づいて、子供達を取り囲み出した。
そして再び、拍手が起こる。
「君達、すごかったよ!」
「今日のこと、一生の思い出になるよ!」
「一体、どうやって演ってたんだい!?」
「そのぬいぐるみ達は、生きているのかい!?」
様々な言語が飛び交い、色々聞かれたが、興味津々の人間達をナンバーズ達が止めていた。
「………さて、人間諸君」
ふいに現れたのは、ミスターだ。
英語で話してはいるが、不思議なことにその場にいる者達の頭の中で、言葉の意味が通じていた。
「本日の子供達の舞台を観て、興奮覚めやらぬ気持ちも分かるが…、我々のことと同じで他言は無用だ。全員、その胸の内にのみ、留めておいてくれたまえ」
皆、少々うろたえるが、自分達と家族のようなナンバーズ達にも促され、納得して頷いていた。
そして、再び子供達に拍手が送られる。
四人の天使達は、それぞれ観客達に向かって可愛らしく挨拶をした。
ふいに彩葉が、
「………素敵だった。私達、つくづくすごい地球に生まれてきたのね」
感慨深げにそう言った。
―――演目『誕生』は、人間が誕生するまでの46億年を凝縮した、この地球の叙事詩だ。
彩葉の言葉を聞いて、みー君達はにっこりと笑った。
「うん! ボク達、コレ大好きなの!」
「ああ。演ってて楽しいのは、やっぱりこれだな」
みー君とラファエルが言う。ウリエルとふーちゃんも頷く。
そしてミスターに向かって、ラファエルとウリエルが「ミスター!」と言って走り寄った。
ミスターはにっこりと二人を抱きとめ、
「お疲れ様。ちゃんと水晶玉に記録したからね。《0》に観せてあげよう」
それを聞いて、ハチが驚く。
「ミスター…、ということは…」
ミスターはハチに向き直り、
「…ああ。《0》が目覚めた。招集がかかったよ。《一桁》は全て宮殿に集まるように、とね」
そして、久吾と天使達にも、
「それから、ミカエル、ガブリエル、ラファエルとウリエルも。今回は君達四人と…、久吾。君もだ」
久吾は驚いて、
「私も、ですか?」
ミスターは頷き、
「期日は三日後、子供達は…、久吾。君が責任持って連れてきなさい。いいね」
三日後…。
久吾は神妙な面持ちで頷いた。
次、更新10月になります。