14-9 目覚め
100話目です。
ハチの研究所・地下に直接瞬間移動した久吾とハチは、
「急ぐぞ! ファリダの肉体に脳を移植する!」
動力炉の隣、小部屋の試験管からファリダの人体を、久吾が念動力で間髪入れず引き上げる。
ファリダの頭部を受け取ったハチは、ものすごい速さで手術を行う。
ファリダの身体を切り離し、頭部のみとなって《6》の研究所を破壊してからハチの研究所の地下に移動し、頭部がハチの手に渡るまで、この間およそ2分。
脳の酸欠により細胞が壊死するまで、およそ3分と言われている。
久吾が頭部を透明の球体で保護したとはいえ、ギリギリのタイミングだったが、
「………ひとまず、間に合ったかな」
人間には絶対に不可能な移植手術を、ハチは無事に終わらせた。
◇ ◇ ◇
―――《ヲスナズ》の基地と《6》の研究所は、跡形も無く消し去られた。
「………まぁ、この身が助かっただけ、良しとしましょう」
《6》は、ログノフ大尉の張ったバリアボールによって、久吾の攻撃を免れた。
ログノフ大尉には、《7》の血清を注入してある。人工的に《7》の能力の片鱗を使えるようにしていたのだ。
…が、《6》を支えてバリアボールを施していたログノフ大尉は、バリアの解除と共に、口から血を噴き出した。
「………っ! か、は…」
すると《6》は、大尉を汚い物でも見るように、
「…ああ、やはり人間の身体には相当の負担でしたね。お疲れ様でした、大尉」
目や鼻、口から血を流しながら、《6》に助けを求めるようにすがりついたログノフ大尉だったが、ほどなく事切れた。
《6》は大尉の遺体を見下ろしながらため息をつき、
「…せっかくの遊び道具が…。《8》め…、………仕方ない。面倒ですが、また一から造って…、ああ、都合の良さそうな人間の軍隊も見繕わないと…」
そう考えていた時、ふいに何者かの気配を感じた。
《6》が気配の方を振り向くと、一人の女性の姿があった。薄いアッシュグレーの髪を後ろに束ねた、《3》や《5》と同じ顔。
「…おや、《9》じゃないですか。わざわざこんなところまで…、どうやって来たんですか?」
《9》はにっこりと笑い、
「可動式転移門よぉ。《8》兄さんが造ったのを真似したの」
「そうですか、丁度良かった。私も一緒に、その転移門で宮殿へ…」
すると《9》は、にっこりと笑いながら《6》の目の前を手で遮る。
「? どうしたんですか…?」
訝しむ《6》を見ながら《9》は、
「…あなた、私を吸収しようとしてなかったぁ?」
そう言われて《6》は、
「それは…、その…」
少し動揺する様子を見せながらも、《9》の笑顔は変わらない。
「…フフ、良いことを教えてあげましょうかぁ?」
《9》が妖しく微笑む。
「あのね、私達って最初、10体いたじゃない? でも10体目って、不具合が起きたから捨てられちゃったわよねぇ?」
言われて《6》は思い出す。そういえばそうだった、と考えるが…。
「………ウフフ、実はね、…私、PK型に寄ってはいるけど、ホントは万能型なのよぉ。これを知ってるのは《3》姉さんだけだったんだけど…。それでね、私だけの能力っていうのが、実はあってねぇ…」
《6》は思い出す。確か、更新について、一番最初に言い出したのは………。
『―――私達の能力は、強化出来るわよぉ。ほら、このチップを………』
《9》は続ける。
「………私ね、条件はあるんだけど、仲間の能力を吸い取る事が出来ちゃうのよねぇ」
はっ、と気がつき、《6》は後ずさる。《9》から逃げ出そうと考えたが、
「………!」
《6》は、身体の力が抜けていくのを感じた。その場に倒れ、動けなくなる。
「………き、貴様、………ま、さか…」
「ホントは《8》兄さんの能力が欲しかったけど、仕方ないわぁ。今なら全部《最後の番号》のせいに出来るかしらねぇ」
《9》は《6》をバリアボールに包み、
「…じゃあね、《6》兄さん」
そう言って、《6》を灰燼に帰した。
◇ ◇ ◇
―――移植手術後、数日ほど眠っていたファリダが、やっと目を覚ました。
「………?」
そばで経過を見守っていたハチが、
「…おぉ、気がついたか。どうだ、身体の方は」
すると、朦朧とした様子のファリダは、
「……………あなた、だれ?」
え、とハチが驚いた。
ファリダはまだ、意識が混濁していたようだった。
◇ ◇ ◇
―――宮殿では、変わらず《4》が《0》の世話を続けている。
身体を拭く湯を替えようと、《4》が器を持って移動しかけた時。
((……………《4》))
はっ、と《4》は振り向いた。すぐさま《0》に駆け寄る。
「…《0》! お目覚めですか!」
しかし、《0》は動かず、《4》に精神感応で語りかける。
((………待て。まだ、誰にも知られるな。………済まぬが、《1》を呼んではくれまいか))
《4》は困惑しながら、
「…はい、《1》のみ、ですか?」
((…ああ、………秘密裏に、頼む))
《4》は頷き、《2》等宮殿にいる者達への干渉を遮断しながら、《1》と精神感応を繋いだ。
ちょうど100話で目を覚ましたおじいちゃん。
たぶんここから物語後半です。折り返し。
次回、更新9月になります。