2-5 決行
「主、ビルの中の配置って分かりますか?」
大弥の質問に、美奈は図を書きながら答える。
「ビルの一階は店舗、二階は店舗と店長の部屋、それから三階にスタッフルームと、在庫置き場になってる物置が三部屋。どうやらこの一番奥の在庫置き場に、彼女を監禁するつもりね」
「…なるほど、ここ窓ありますか?」
「…小さな天窓があるくらいね。あなたじゃ入れないかも」
「うーん…、あ、久吾サン、みー君ともっちー借りられますか?」
「ええ、大丈夫です」
ふいに蔵人が口を挟んだ。
「大弥、決行のタイミングは?」
「あ…」
考えていなかったらしい。大弥は美奈に助けを求めるように振り返った。美奈は困った子を見るように微笑んで言った。
「肝島達は明後日の土曜日、美那子さんの最終出勤日に決行するつもりよ。彼女の退勤時刻22時頃に、久保田が彼女を引き込むらしいわ」
「じゃあその時間から、オレとみー君達で外で見張るよ。様子を見計らって突入する」
蔵人が提案する。
「匿名の内部告発ということにして、同じタイミングで警察にも動いてもらおう。店長にも協力を仰ぐ」
「そうしてちょうだい。店長も本部の方から何とかするよう言われてるみたいだから、すんなり協力してくれると思うわ」
「よし、決まりだ。明後日だな」
大弥がそう気合を入れた時、美奈が補足した。
「あ、蒼人。ひとつ頼まれて欲しいのだけど」
「?」
「肝島はスタッフルームの女子更衣室に、盗撮用のビデオカメラを仕込んでいるわ。証拠になるからそれを在庫置き場の方に仕掛け直してくれる?」
蒼人はこくりとうなづいた。羽亜人と蔵人が「つくづく最低だな」と顔をしかめていた。
◇ ◇ ◇
土曜日の午後10時。大弥は宙に浮かんでいた。
もっちーのヘルメットに片手で掴まってぶら下がっている。
そのもっちーは、背中に翼の生えたみー君にヘルメットごと抱えられている。みー君は天使の姿をしている。いつも着ているセーラーをめくると背中が広く開いているので、翼の出し入れの邪魔にならない。
「…何つーか、めっちゃマヌケな絵面じゃね?」
大弥が思わずつぶやいた。もっちーが陽気に言う。
「だーいじょーぶ、オレっちのメットのステルス機能で誰にも見られてねーから」
「腕がつっちまうぜ…」
「しょーがねーだろ、こっからじゃねーとあの窓の中見れねーんだもん」
そんなことを言っているうちに、窓の内側に人が入るのが見えた。
◇ ◇ ◇
久保田から最後に話があるから、と連れて来られた薄暗い部屋の中に美那子は押し込められ、ガチャリと鍵をかけられた。
「! …な、何するんですか!」
ドアの近くに走り寄る手を誰かに掴まれた。
肝島だった。
「あ〜、やっと二人きりになれたね、美那子チャン。嬉しいでしょ? ボクもだよ〜」
「!? …肝島さん!?」
肝島に体の向きを変えられ、向かいあう形で押し倒された。肝島が覆いかぶさる。美那子はゾッとした。
「や…、やだ! どいて! 離して!!」
だが肝島は逆に興奮したようだ。
「も〜、テレちゃってカワイイな〜。たっぷり可愛がってあげるからね〜」
肝島の手が、美那子のシャツの下から脇腹に滑り込んできた。美那子は鳥肌が立った。
(嫌だ嫌だ嫌だ、気持ち悪い気持ち悪い!)
「…っ、誰か…!」
その時。ドカーーーン!! と壁が爆発した。と同時に誰かが入ってきた。
「大丈夫か!?」
美那子の知らない男の声だった。




