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苦手な方はご注意ください。

シリーズ 【パラレル・フラクタル・オムニバス】

読み切り短編集 『星屑に坐す(3)』~魔王遊戯~

作者: nanasino






 巨人の館かと思えるほどに巨大な柱が立ち並ぶ。


 巨人の館かと思えるほどに巨大な階段が続いている。


 尺度のめちゃくちゃな建物の空間の吹き抜けの一角に瀟洒しょうしゃな小部屋があり、小窓に面したロッキングチェアーに腰掛けてゆらゆらしている人影がある。頭の左右に小さな巻き角のある長髪の男だ。


 男は薄化粧の顔に顎肘ついて窓の外の光景を見ていた。その禍々しいアイシャドーに縁取られた死んだ魚のように感情の見えない目に睥睨されているのは戦場である。殺し合いの舞台は血煙と泥に塗れた凄惨な様相を呈していた。

 それなのに男は言う。




「━━━━━実に生産的だよね」


「にゃ、せいさんてき?」


「うん」


「?」




 巻角の男の所感に相槌をうった猫人の少年は居心地が悪そうである。あちこちキョロキョロ見ていて落ち着きがない。

 巻角の男は全裸だったが、猫人の獣人が居心地悪そうにしているのとは多分関係がないだろう。この猫人はまだ子供で、部屋をウロウロしたりあちこち触ったり調度品をあれこれ手に取って眺めたりするのは子供の無遠慮のそれなのだ。今は高い天井から下がった豪奢な幔幕に自ら巻かれて一人隠れんぼをしている。


 戦争を見下ろす巻角の男も猫人の少年も緊張感がまるでなく、外で殺し合う人々の残した死屍累々の死臭が上階に登ってくるのも気にする風でない。戦地にいて、その居城が攻められているというのに、逃げるでもなく戦うでもないのだ。自分たちに戦禍が及ぶことなんて全然考えていないかのようにくつろいでいる。


 巻角の男は窓の外から目を離すと幔幕の膨らみを足裏で突き飛ばした。幕裾から転げ出たネコミミの少年は耳を伏せて鋭く息を吐いたが、転がりながら威嚇するその様は滑稽で巻角の男は歯を見せて笑ってしまった。




「ッハハwwあーメメンくんさー、よくきたね。まあゆっくりしてってよ。うん。ところでさあ、皆んな界界の外へ散った?」


「そうですねぇ。もうお城には部下の方はいませんよぉ。皆さん外へ出て人草達と交戦中ですねぇ」


「あーじゃあ見たまんまか。でもまだ遠くへ行けそうにないな皆…連合軍の包囲陣形、9層もあるでしょあれ?あんなに遠くまで陣を敷かれちゃうとなぁ…」


「魔王様は一人になっちゃっていいんですかぁ?」


「うん。巻き添えになっちゃうからな、皆…。あ、メメンくん、これ食べて。フフッww魔石を使って取り寄せた物でさぁ、まぁ憲法違反なんだけど…ww…”幸せ回帰”ってお菓子なんだって」


「わぁー!粉がおいしい!」


「ファーッww」




 引き笑いである。この巻角の男は魔王だが品のいい顔立ちを保てず一瞬で笑みに崩れてしまった。

 というのも、巻角の男は皿に盛った楕円形の平べったい菓子を猫人の子に勧めたが、猫人の子は菓子を差し出された時点でもう手にとって口に入れたのである。巻角の男が「食べて」と言った頃には猫人はもう咀嚼していた。それはなんだか巻角の男にとって嬉しかったのだ。


 猫人のメメンは粉がおいしいと言って未だに口の周りや指についた菓子の粉をザラザラした舌でペロペロしている。お菓子はまだ山盛りあるのだから食べればいいのに。巻角の男にとってはそれら全部が見ていて愛おしかった。

 人類種の連合軍に城を攻め込まれる魔王軍の戦況が芳しくないのは魔王にとって”約束”どおりの流れなのだが、今までの魔王活動もこれで終幕かと思うと一抹の寂しさは拭えない。まだ彼にはいろいろな仕事が残っているとはいえ、魔王の顛末というのは伝統で決まっているのだから。

 



「あーあ、メメンくん呼んでマジでよかったわ。もう開票会場設営できたし、この戦況が落ち着いて冥界から投票結果が届いたら、あとは他の魔王の入城を待つだけなんだよね。英雄アファンヌが来てからが大変になるんだけど、それはまだまだ最後のことだし、下の皆んなが避難するまではほんと暇だから」


「…にゃ、そうですけど、結局たくさん殺しますよね。お仲間も…」


「うん。皆、弱いからな。…それに、パーティーだから…な」


「魔王様が異常なんですよぉ」


「だって仕方ないやろー?そういうアレやもん。魂たくさん喰わないとさ…上納できんもん。先輩の魔王とか大魔王様とかめっちゃ怖いんやぞ」


「あ、ゲゲリエさんお亡くなりになりましたよ」


「━━━え?…え?……えちょ……早すぎ…嘘でしょ?………一緒に頑張ろうって言ったのに……ゲゲリエ先輩…」




 猫人から訃報を受けた巻角の魔王は意外そうな顔で驚き、席を立った。

 魔王ベニベニの先輩である魔王ゲゲリエは共に魔王戦を盛り上げる仲間として協力してくれた数少ない魔王仲間。そして、ウダツの上がらない魔貴族達から因果を吸い上げる目的で作り上げた”魔王になる会”の立ち上げにも尽力してくれた尊敬すべき先輩である。大魔王ポッポロに目をかけてもらい、やがて出し抜くために手を組んだ仲間━━━━━。


 立ち尽くす魔王ベニベニの脳裏にゲゲリエとの楽い思い出が鮮やかに蘇る。

 一緒に人間界に遊びに降りて安宿に寝泊まりし、廃墟巡りをしては廃れた祭壇に左遷した眷属を配置するなどして遊び歩き、人間達こだわりの風習とその歴史の変遷に納得がゆかず激論を交わした日々。

 魔石肥料の品種改良結果の観測に各地の露店で味付けの濃いファストフードを食い歩き、その二度と再現できない味と機会の一期一会に別れを告げる辛い日々。

 地形に剥き出した断層から魔石を採集したり、新たな植石による魔界因子頒布研究の結果から魔族の将来を危惧して肩を落としたやり切れない日々。

 山奥にある野盗の根城を巡ったり、犯罪組織の賭場を渡り歩いたり、風俗街や下町の劇場を見て回ったり、海賊船を求めて大海原を旅して、道中で出会う幼気な健康優良不良少年少女に快楽と魔力を与え魔族にスカウトした日々。

 好みのサキュバスを愛するあまりガバガバに壊してしまったり、エルフやドワーフを騙して機密情報を探り出し裏宇宙界界裁判にかけられた鉄火場を共に生き抜いた。

 ”あがり”の大きな魔領に喧嘩をふっかけては奪うのを繰り返し魔王に昇格する手順マニュアルを一緒に作った。

 地表人類社会の滑稽かつ表面的分離性を有する性格性を作った天眷達の考えに違和感を感じて共著で質問状を送ったりした。

 古代の人草達が残した遺跡を盗掘して呪物や神宝をパクったりした。気に入らない眷族の干渉する人草の政治家達の黒歴史を巷に流しまくって政権交代させた。

 そして一緒にバンドを組んでいてベース担当の仲間。何より、この世界の禁忌の紹介制会報誌『異世界☆通信』の存在を教えてくれた、その先輩が━━━━━。




「━━━━━…」




 やがて歩き出した魔王は椅子に掛けてあるマントを羽織ると棚へ向かい、あちこち引き戸を開けたり閉めたりして何やらゴソゴソしている。そして額縁に入った一枚の絵画を取り出してきた。先輩とも言える同僚の親しき仲間、魔王ゲゲリエを描いた肖像である。




「なんで先に逝っちゃうかなぁ…うまく逃げてくれれば…」


「にゃ、もうお写真飾るんですかぁ?」


「うん。魔王軍大本営の伝統やもん」


「うわぁ!そっくり!」


「うん。これはね、ルマリカ公国で有名な人草の画家を呼んで描かせたんだ。オルスチャン・ナッスンて奴。知らん?」


「わからないです」


「w」




 実際には画家オルスチャン・ナッスンが山裾の原野にキャンバスを立てているくせにイルカとか場違いな絵を描いていたところへ「怪しからん」と因縁をつけ魔王城へ拉致して描かせた肖像画なのだが、魔王の中ではそれは歴とした招致らしい。なんせこういう場合に言う怪しからんは魔族にとって大抵は褒め言葉なのだ。


 巻角の魔王はゲゲリエの肖像画を居室の壁に飾った。ゲゲリエも面長で鼻筋の通ったイケメンだが、微妙な表情である。ニヒルな笑顔が悲しげに見えた。こうなることを前提に描かれているからだろうか。

 壁には他の魔王の肖像画が270点掛けられており、それらは現世の不在を意味している。巻角の魔王は腰に手を当てて絵画を見渡し、ゆっくりと歩き、無言で頷いた。どういう感情だろう。


 猫人のメメンはというと、そういう巻角の魔王の表情や仕草を見ていても気持ちが分からないでいるが、なんだか写真を飾るのが楽しそうに見えているらしくて魔王のあとをチョロチョロついてきている。




「…へ〜……。あれ?でも生き返りますよねぇ…皆さん」


「ゲゲリエさんの場合は〜、あ〜たぶん200年は後かな…せっかく仲良くなったのに。バンド組もうって練習してさ…ライブの予定も……まあギターが足りないから無理だったんだけど。あ〜なんで皆もっと協力してくれないかなぁ…魔王仲悪すぎ……こんなに大きな渦が出来そうなのに…」


「渦ですか?」


「うん。戦場は今、死の渦だろ?ああやって渦を作るとね…たくさん収穫できるからね。因果の巡りも良くなるから、魔石とかももっとたくさん取れるよ」


「……にゃ、僕もう行きますね」


「おお、うん。バイチャ……見つけてきてね、いい奴。あー、あと月の子によろしく言っといて」


「は〜い」




 巻角の魔王は存外、ゲゲリエの死を悼んでいる。魔王とはいえ仲間と会えなくなるのは寂しいものなのかもしれない。

 巻角の魔王は魔王達と共同で何をするつもりだったのだろう。猫人のメメンには測るべくもないが、魔王の語る収穫など仕事の話になると眠そうな顔をしているから関心が薄そうである。


 そうして2人は歓談を楽しんでいたが、部屋の隅に倒れ伏すもう一人の客人の意識が戻ったため人見知りのメメンはさっさと場を辞した。もっとも、その客人を魔王の居室へ案内したのは彼なのだが。

 客人は未だ床に伏したままで巻き角の魔王を探るような目付きで見上げている。




「あーめっちゃ楽しみ…英雄アファンヌが来る前になんとか……って、君は名前なんて言ったっけ? …勇者…?…」


「…フッ……」


「…? お? なになに? 何笑ってんの??」


「貴様…魔王にしては小物だな。……俺の知る魔王はもっと━━━」


「言いたいことはわかるよ? でも魔王にもいろいろあるんだよ。お前らにもあるだろ? 家業とかそういう事情…ッウェーイ!!!」


「ぅッぐ! ゲッホ!! クソが…………」


「うん。じゃあ余のプランを聞いてもらっていいですか」


「…?」




 気丈にも魔王を侮辱した勇者何某ゆうしゃなにがしだったが直後に腹を蹴られて呻きを漏らした。それでも心が折れることのない様子でいるが、魔王の態度が急に改まったのを見て眉を潜めている。

 勇者が困惑するのも無理はない。魔族とか魔王とかいうのは突拍子もない事柄を提示して人類に選択を迫るのが常であり、それに翻弄されるのが人類なのだから。

 蹲る勇者は根性でなんとか膝をついて立ち上がったが、魔王が何を言い出すかは不安であった。




「あのねーー。まずさーウチさー、これから人草共にテコ入れするんだよ。いやまあずっとテコ入れしてるけども。」


「………」


「人草共は気づいてない奴多いと思うけどさー、もうすぐ星が飛んでくるんだよね。この星のすぐ側を流星が。」


「……………」


「毎日降ってる星とは全然違う星なんだよそれ。で、まあその星は受け入れるらしいんだけど…でもあれ星っていうか…? ……あーいいわ。これ一旦そういうことにしといて。うん。」


「…………………」


「でー、そうすると新しい要因がこの星の色んな事に少しづつ組み込まれて更新されていくから。それがさ、人草共の間で流行ってた病気? とか薬とか動植物…生物のウンタラカンタラがいろいろアレして、最終的に人草共がこう、グア〜っと変化していくのね。時間ってやつを使って。で、星も変わると。極端に言えばね。人草には思いもよらんだろうけど」


「………………………」


「なんだけどー、それ余がもらっちゃおうかなーって思うんだよね。すごくない?」


「……………………………………」


「あ、思い出した。勇者ソニー・ツィゴネル・ポローだ。じゃあソニーくんで。」


「……………………………………………………」




 勇者ソニーには巻角の魔王の言いたいことがわからない。わからないが、魔族の、その上の魔公爵達を束ねる魔王達というのは人類達には解らない知識があり、世の中の影でなんやかんやと悪巧みしているものであることは承知している。それが魔族にとっては悪巧みではなく、魔族が生きるために必要な生産活動であることも。彼らは人類とは価値観が多分に逆転していた。

 だから人類の勇者の一人であるソニーには、魔王のすることがなんであれ、その価値観は承服できないはずである。




「でさ、そうするとさー、たぶんさー、余の眷属めちゃくちゃ増えると思うんだよね。そしたら魔石とか因果の収穫もヤバイ事になるし、魔界での階位がスゴイ事になるからさー。もしかしたら権限とかも…聞いてる?ソニーくん。」


「………………………………………………………………………俺をどうするつもりだ。魔王ベニベニ…!!」


「うん。あのねー、君も魔王にならない? …魔界の籍に就いてしばらくは、使徒として走り回ってもらう事になるけど。魔石の生産ライン確保とかさ。インフラとか重要なポジションにいきなりはあれだけど。でも君の場合は勇者からの魔界入りなんでー、いきなり魔貴族だね。そーだな〜魔侯爵の一段目からかな。で、功績に応じて階位がトントン上がっていくから。ゆくゆくは魔王だね。あ、持ち込みの因果があればそれなりのポストの用意もできるよ? そうすれば魔王の地位に就くのもグッと早まるからね。うん。」


「こ…」


「まずは簡単な仕事から回すから。とりあえずさー、まず樹海に集まった奴等を煽って欲しいんだよね。皇帝の顔に泥塗って犯罪者に仕立ててよ。企画部がもうプラン立ててるからそれに沿って動いてくれればいいから。でさ、仕事終わったら一旦あの〜東の大陸に渡って隠れててくれる?この大陸は極点を移乗するから、もう人類は避難しないとね。あ!この後ちょっと選挙結果とか出るからそろそろお客さんも揃うし余そっち行かなきゃなんで予定押してて悪いんだけど、ソニー君は手続き済んだらすぐ動いて欲しいのね。」


「こと…」


「ぶっちゃけさ、君が死んで後の世にまた勇者として転生してもさ、人類が魔界発の魔法企画に頼ってる限りこの星の地表人類たちの因果の巡りは大して変わらないんだよね。勇者がなんか魔王討伐とかって頑張っても掌の上だから。正神界との共同企画だから神々の眷属神達も俺たちの取引先なんだよ本当は。虚しくない?本当の意味で世界に変化を起こしたいよね?だったら一度、魔族になって魔王を目指した方が建設的だよね」


「ことわ━━」


「あ、あのね、魔籍に入るっていってもそんなに構える事ないよ…うちの派閥はあの〜魔王の余がこんな接客みたいな事してるくらいだから部下たちもそんなに忙しくないし…皆けっこう休みも多いよ。寿命長くなるからね、フフッw! あ、これ、僕んとこの魔神様との契約書です。ここに血判と、その血でいみなを…それから悪魔三唱と意気込みの宣誓を…」


「━━━断る」




 一方的に捲し立てる魔王ベニベニを前に勇者ソニーは言下に断った。

 魔王は意外そうな顔をしている。まるで断られるとは全く思っていなかったかのようなキョトンとした顔で目を丸くして口をすぼめている。目鼻立ちの整った彫刻のような顔立ちがちょっとひょうきんに見えた。ビジュアル系ロックバンドみたいな化粧が余計におもしろい。お笑い担当の人みたいだ。


 勇者ソニーは魔王ベニベニからスカウトされるなんて思いもよらなかったし、魔王が言うような世界の様式は知らない。

 勇者の知る世界の様式は魔王と勇者は殺しあうものというこの一事である。いつ抜き放ったのか片手青眼に構えるその手には軽やかに宝剣が握られていた。

 細身の剣だが、神々の祝福を受けて幾多もの強敵を貫いた曇り無き刃の威圧はただ事ではない。魔王にはその剣の煌めきが見えていないのだろうか。魔王ベニベニが手に持つ契約書は既に両断されて床に舞い落ちている。




「……え?…え?…………あのー……じゃあ君はさー、何のためにここ来たの?」


「……冥府へぶち込んでやる!かかってこい!!!」


「えッ!? ……」


「━━━!!…………」


「………じゃあサッカーしますか。知ってる?サッカー」


「…………?」


「お前ボールなッ!!!!!」


「ぐっぅ!!!…ゴぶッ!!!!!!」


「ッゴール!!!ッッッゴーーールルルッッ!!!!!ああ゛っ!?どうすんだ!!! 断ってどうすんだよッッ!!! ぁあ"ーッ!!?? 余がこんッなに頼んでんだろぉがッ!!!! 謝れよ!!!!! ああ”ッ!!!?? テメ勇者だろうがッッ!!! 誠意見せろやッッッ!!!!!」






△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼






 勇者ソニーは寿命の短い人草の身の上で地表各地の大陸を渡り歩き、各所の魔王戦を三度戦ったほどに強豪なのだが、魔王ベニベニの前では為す術もなかったのだ。”サッカー”なる魔王の遊戯で”ゴール”らしき腹ばかりを散々に蹴られたソニーはその勇ましい撃剣を見せることなく気を失った。


 無理もない。他の魔王ならばいざ知らず、魔王ベニベニは出生からして毛色が違うのだ。元は魔神と真正魔女の密会でできた分霊でな。それで生まれつきの魔神にも関わらず冥界から三界の八潮路にあるサンズ河へと星流しにされたのだが、それを舟遊びしていた女神アルテモーエが拾い上げてしまったのだ。その縁組故に彼は正神界へのパイプがあり、営業力、企画力があり、仕事も早く、人気もある。その上、裏宇宙からの入力である流星を奪おうとする野心まで持っている。いずれは大魔王候補に名の上がる逸材と言っていいだろう。とはいえそれはまだまだ先の話だが。


 しかし実際に彼の牽引する企画は因果の収穫量で群を抜いていて、魔界では新進気鋭の若者である。今回の魔王戦でも魔石と生贄と契約の三奉さんぽうを駆使して多くの因果を巻き込んだ。魔王ベニベニの指揮により直参の魔公爵達は難なく魔界のノルマを達成しただろう。他の魔王共が足を引っ張る画策をも引き離してな。


 言い忘れたが、魔王達にとってこの魔王戦は選挙戦でな、新規の魔王を輩出するための魔界の企画なのだ。それで魔王達が後援する魔公爵共が張り切っておる。つまり今日はその投票日というわけだな。ちなみに投票所は”あの世”だ。


 さて、猫人のメメンのようなフラフラしている野良猫が魔王と懇意であるらしいのは意外に思えるが、それがそうでもない。メメンは眷属業をほぼ放逐されており、誰の派閥でもなく働きもしない人畜無害な穀潰しだが、それが故に可愛がられる一面もあるのだ。

 魔王ベニベニがメメンの無遠慮なところを単純に気に入っているように、似たような理由で気を置かない歓談を求めるもの達に招かれて、あっちへフラフラ、こっちへフラフラと、ちょっとした小間使いをしては菓子だのジュースだのと頂戴するのだ。それで腹と気分を満たしておる。これらは裏宇宙では貴重な…まあそれはいい。


 というわけでだな、人草のまれびと達よ。ブブゼラスである儂は地球と呼ばれている星に住む人草達にわかるように、こうして日本語訳で物語ってみたわけだが、うまく伝わっただろうか。

 これはこのバベルステルニャの星に保管されているレコードの一部でな。先日こちらに遷移してきた人草の個体、あれがウロウロしていた廃城に籠城していた、かの魔王ベニベニの気まぐれをちょっとだけ覗いてみたところを紹介してみたのだ。

 特に意味はない。



挿絵(By みてみん)



この短編は本編幕間の挿話です


<――魔王を倒してサヨウナラ――>

https://ncode.syosetu.com/n9595hc/


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