平凡な異世界召喚(なお翻訳はフルサポートされていないものとする)
俺は今、非常に困っている。
「わーい!どういう意味ですか!」
「説明する!」
状況を整理しよう。
つい数分前、俺は高校の教室にいた。
いつも通り授業を受けていた。
しかし、急に床が光りだし、中世ヨーロッパ風———風、というのがミソだ———の城に放り出されたのだ。
ここまではまだいい。十分驚くべきことだが、まあラノベとかではよくあることだ。
さて、異世界召喚ものとかだと、召喚後には何が最初に起こるだろうか。
そう、説明フェーズである。
なぜあなた達を呼んだのか、何をどうして欲しいのか、等を一方的に話される時間である。
この異世界でも、当然説明フェーズが始まった。
しかし。
俺の耳に入ってきたのはこんな言葉だった。
「ごめんなさい、英雄の皆さん、突然の電話に当惑したでしょうね。私は弊社の国の王女ラリアットです。」
俺は困惑した。
何せ、明らかに中世ヨーロッパ風の世界、いわゆるナーロッパだ。電話なんてものがあるとは思えない。というか電話なんてかかってきていない。
俺の混乱を尻目に、話は続く。
「なんて言えばいいのか分からないけど、勇者全員で北の魔王を倒したいと思っています、私は」
俺は察した。
あ、これ翻訳スキルがGo◯gle製だ———と。
そして、クラスメイトたちも混乱から戻ってきている頃合いだ。
きっとクラスメイトたちもこの自動翻訳めいた言葉に困惑しているだろう———とこの時の俺は思っていた。
数秒後、俺はその考えが甘かったと知る。
「わーい!どういう意味ですか!」
俺はさらに困惑した。
同郷の、日本語を使っているはずのクラスメイトですら、発言が奇妙なことになっているのだ。
何がわーいだ。喜んでんのか。それにしては„どういう意味ですか“って言い方が喜んでなさそうだが。
さて、俺がそんなことを考えている内にも話は進んでいく。
文法が崩壊し、敬語と口語が入り乱れた奇妙な説明を聞き続けていると、それは起こった。
———カ・ブーーーーム!!!
そんな音とともに、謁見の間的な場所の壁が爆発した。というか効果音も翻訳されて聞こえるのかよ。
崩れた壁だったものがもうもうと煙を立てる。
煙の中から出てきたのは———一人の少女だった。
俺はさらに混乱した。
というかよく見たらなんか角生えてる。ドラゴンめいたアトモスフィアを感じさせる尻尾もついてる。
俺はまたも察した———これあれだ、ラノベにありがちな„のじゃロリ魔王様系ヒロイン“だ、と。
「あなた!何もない!」
「お名前を教えてください!」
「ここが玉座の間だということを知っていますか?」
衛兵が騒いでいる。あ、ここって玉座の間って名前だったのね。
さて、暫定魔王が口を開いた。
「— —— ————— ——— — ———」
俺は困惑した。本日三度目だ。
何せ、目の前の少女の言葉が全く聞き取れなかったのだ。
おいなんでだよ翻訳スキル的な奴。性能がお粗末ならせめて全言語サポートしろよ。
「あれは!」
「王は悪魔だ!?」
「さて、終わりました!」
しかもお前らには通じんのかよ。というかなんか一人達観してるやつおらん? あと王様悪魔だったん?
「—— —— ——— ——— ———— — ————— ———— ——— ——————————— ——————————— ————— —— —————— — —————— —— ——————— ————」
なんか長文喋りながら暫定魔王がこっちにきた。
え? 死ぬの? 俺殺される感じ!?
「— ——— ————— ————— ——————— —— ————— ————」
あ、なんかお姫様抱っこされた。いい匂いする。
なんか飛んだ。よく見たらドラゴンっぽい羽あんじゃん。すげー。かっけー。
「— ———— ————— —— ——————— —— ———————— —— —— ——————— ————?」
優しい感じで語り掛けられても困るんですよねー! 言葉通じて無いんですよねー!
これから俺、どうなっちゃうのー(棒)!?
ちなみにこの後魔王城に連行され、色々あって魔王様とゴールインする予定。