普通に焦がれた妹と特別を望んだ姉
「お姉ちゃん、まって!」
「ふふ、梨名ったらいつまで経っても甘えん坊ね」
「うん。だってりな、ゆずきお姉ちゃんのことが大好きだから!」
そんな最悪な夢にうなされ目を覚ましたのは、いつもと変わらないどんよりと曇った日のことだった。
「なんで、今更こんな夢……」
幼い頃、私はお姉ちゃんにべったりで、それこそ何をするにも後ろをついてまわっていた。運動も上手で頭も良くて、それなのに誰にも気さくで優しくて、いつでも多くの人に囲まれていた。
そして何より、病弱で引きこもりがちな私のことを、一番に大切にしてくれる自慢で憧れのお姉ちゃんだった。そんなお姉ちゃんと一緒にいるのが大好きで、いつかお姉ちゃんのようになりたかった。
それが苦痛へと変わったのは、いつからだっただろうか。
「梨名、起きてる? 入ってもいい?」
そうやって遠慮がちに、けれど懲りずに毎日様子を見に来るお姉ちゃんが大嫌いだ。
「起きてる。柚希のほうが忙しいんだし、毎日来なくていいって言ってるでしょ」
「柚希じゃなくてお姉ちゃんでしょ。まったくもう」
毎日、もう飽きるほどに繰り返されたセリフを今日も投げかける。けれど、姉が懲りることはきっとこれからもない。寂しそうな、それでいてどこか嬉しそうな顔を浮かべながらも私に会いに来ることをやめない。それはきっと私が妹で、「普通」じゃないからだ。
私はもうほとんど部屋から出ることがない。小学生まではたまに体調を崩しながらも、なんとか学校に通っていた。中学生になっても、しんどくて対して楽しくもないながらも、普通の生活を送れているつもりだった。普通に。
けれど、それもすぐに限界を迎えた。倒れた私の体は病魔に蝕まれつくしていた。
先天性、生まれたときから抱えている病。今の医学では治ることはなくて、いずれは歩くことすらままならなくなって、寝たきりになって、そして……。
それがいつになるのかは誰にもわからない。天寿を全うできるのかもしれないし、そうでないのかもしれない。けれど、私が欲しかった、「普通」はもう二度と手に入ることはない。
そんな私だけど、まだ完全に「普通」を諦めきれずに、たまに調子の良い日にはもはや意地のように登校することで足掻いていた。
「今日は学校行けると思う。着替えるから出て行って」
「本当に大丈夫? いつも言ってるけど、無理だけはしないでね」
「わかってる。私が行きたいから行くの」
私のわがままのようなセリフに困った顔で、けれど意を決したように優しく応えてきた。
「じゃあ途中までだけど、昔みたいに一緒に行こうよ」
「嫌だ」
「なんでそんなこというの」
「柚希のことが嫌いだから。いつも言ってるでしょ」
少し悲しそうな表情を浮かべながらも首を振った。
「だめ。一緒じゃないと行かせない」
「なにそれ」
本当に、昔から変わらない。いつも勝手に決めてしまって、いつも私の手を引いていく。私を離さないように、傷つけないように、失わないように。
ああ、やっぱりお姉ちゃんなんて大嫌いだ。
◇
抵抗虚しく、一緒に登校させられることになってしまった。お姉ちゃんは何が楽しいのか隣で他愛もない話をしているだけなのに、すごく嬉しそうで、どこか普段と違って浮かれている。
「こういうの、懐かしくて楽しいね」
「別に楽しくない」
「またまたー。そんなこと言っても頬緩んでるよ」
緩んでない。
「お姉ちゃんって呼んでくれてもいいんだよー」
呼ばない。
「けど本当に懐かしいね。いつからか、梨名私のこと避けるようになったし」
「別に避けてたつもりじゃ……」
「そんなことないでしょ。嫌いだなんて言われるようになったし、ちょっとはお姉ちゃんも傷ついてるんだからね」
わかってる。お姉ちゃんは優しいから。ちょっとやそっと傷つけられたって私のことを嫌いにならない。だから、もっと、もっと傷つけないとだめなのに。
「なんてね。梨名が本心から言ってないのなんて丸わかりだから、全然傷ついてなんかないよ。むしろ、そんな嘘ついて、優しい梨名が傷ついていないか心配かな」
「は。柚希のことなんか本当に嫌いだし。私、優しくなんてないし。都合の良い妄想しないでよ」
「そっか。けど、私にとって梨名は『特別』なんだ。だから、どんなに嫌われたって、私は梨名のことが大好きだよ」
嫌われないといけないのに、どうしてうまくいかないんだろう。うまくいかないのに、どうしてこんなにも嬉しいんだろう。どうしてこんなにも心を揺さぶられるんだろう。
ああ、やっぱりお姉ちゃんなんて大嫌いだ。
◇
教室に私の席はあるけれど、私の居場所はない。別にいじめられているとか、無視されているとかそういった訳では無い。
近くの席のクラスメイトに挨拶をすれば、同じように挨拶を返してくれる。
けれど、会話の中で生まれる一瞬の間が私に対する遠慮や同情を否応なしに感じさせられ、腫れ物のように扱われていることを肌で感じてしまう。
そのことに不満はない。むしろ当然だとすら思う。たまにしか登校してこない病弱なクラスメイト相手だ。優しくて良い人と呼ばれるような人ほど、話題についていけてるだろうか、そもそも会話が負担になっていないだろうか、授業の内容に追いつけてるのだろうか、なんて普通のクラスメイトにはしない気遣いをする。
気遣われることで普通でない自分を再確認させられる苛立ち、100%の善意をそんな僻んだ目でしか見れない自分の矮小さに気付かないふりをする。
向き合ってしまえば、きっと弱い私は惨めさと寂しさと劣等感に潰されてしまう。
だから、いつしか私はクラスでも最低限の挨拶しかしなくなった。そうやって幾度も「普通」のために「普通」を捨ててきた。
それほどまでに、私の「普通」への渇望
は大きく、そして「皆と同じように学校に通う」ということは半ば強迫観念のように染み付いた「普通」の生き方だった。
そのせいか、今日久しぶりに学校に来れた私は、いつになく充実して満足だった。普通に中学校に来て、普通に授業を受けている。それだけで、私の空っぽな心が満たされていく気がする。
だからふと、お姉ちゃんのことを考えてしまう。私の楽しかった思い出には、いつもお姉ちゃんがいる。誰しもが腫れ物のように扱う私に、遠慮することなくずけずけと話しかけてくる。
私を何よりも大切にしてくれているけれど、そこに同情や憐憫なんて感じたことは一度もない。
無償の愛、なんて言葉はキザったらしすぎるけれど、何も返せない普通じゃない私にそんな大きなものを与えてくれる。
今朝は「普通」にお姉ちゃんと並んで歩けた。ちょっと仲は悪いけど、「普通」の姉妹みたいに見えたと思う。そんな、些細なことに頬が緩むのを抑えきれない。諦めたつもりで、けれど諦めきれなくて、みっともなく縋りついてきた「普通」。それを、もしかしたらまだ捨てなくてもいいのかもしれない。お姉ちゃんの荷物にならなくて、迷惑をかけない普通の妹になれるのかもしれない。
もしかしたら、お姉ちゃんのことが大好きでいていいのかもしれない。
そんな、希望を抱いてしまった。だから、これは分相応な願いを抱いた私への罰なんだろう。
◇
「いくらなんでも無理し過ぎだよ?」
目が覚めて初めに聞こえてきた声は、無意識に私の心を溶かす優しい音色をしていた。
「おねえ……ちゃん?」
「うん。お姉ちゃんだよ。熱は下がったんだけど、まだボーっとしてるかな?」
「少しだけ。私、どうなったんだっけ?」
「うーん。簡単に言うと、学校でちょっと熱が出て保健室で寝かせてもらってたんだけど、起きそうにないから母さんと一緒に運んで帰ってきたって感じかな」
なんて困ったように少しおどけながら語るお姉ちゃんを見ていると、朧気ながら記憶が蘇ってくる。
私は自分で保健室になんて行っていない。お昼くらいから辛かったけれど、6限目までならなんとか耐えられると思って、無理をしてしまって、半ば倒れるように運ばれたんだ。自分の体調すら管理できずに、クラスメイトや先生やお母さんや何よりお姉ちゃんに迷惑ばっかりかけて。私なんて最低だ。
なにが「普通」になれるかも、だ。ただ学校に行って、授業を受けて帰ってくる。そんなことすらまともにできない。
私は「普通」じゃない。
「ごめんなさい。」
認めてしまった。少し心が軽く楽になった。けれど、意地とかちっぽけなプライドとか、今まで必死に守ってきたものまで失ってしまった気がした。
けれど、諦めることはできなかった。お姉ちゃんと一緒にいるために。
感情はぐちゃぐちゃで、自分でもなんで泣いてるのかわからなかった。
「梨名は謝るようなことなんて、なにもしてないよ。ただ、ずっと頑張ってきただけでしょ? それが今日はたまたま失敗しちゃっただけ」
「わ、私、頑張れてないよ。なにやっても失敗ばっかりで。今日だって普通じゃなくて迷惑ばっかりか、い、いひゃい」
いきなり頬を抓ってきて、文句の一つも言いたかったけど、お姉ちゃんの悲しそうな顔を見ると言葉が出てこなかった。
「迷惑なんて思ってないけど、それじゃ梨名は納得しないだろうしこれが罰ね。あと、迷惑じゃなくて、心配をかけたことに対してはお姉ちゃん、すっごく怒ってます」
「し、しんひゃい?」
「そ。梨名が頑張るのは応援してきたしこれからもそうだよ。けど、最近は頑張りすぎというか……、やりたいじゃなくてしなくちゃいけない、って無理してる感じがして心配」
抓っていた頬を撫でながら見つめてくるお姉ちゃんから目を逸らすことは、何故かできなかった。
「梨名は何にそんなに怯えてるの?」
いつものように悪態をついてやり過ごすことは許さない、とでも言うような視線が私を絡め取った。
「別に怯えてなんて……。」
それでも、これは、私の「普通」への渇望は絶対に知られたくない。知られる訳にはいかなかった。こんなことを思って生きてきたなんて知られたら、お姉ちゃんは絶対に悲しむ。
なにより、「普通」を諦めきれない理由はお姉ちゃんにしかないから。二つの意味で普通でない私なんて、それこそ普通じゃない。
けれど、誰かに、お姉ちゃんにこそこの気持ちを知ってもらいたいと期待する私もいた。
「普通」
不意の言葉に思わず肩が跳ねる。
「やっぱり。さっきは「普通じゃない」なんて変わった言い回しをするな、なんて思ったけど、それが梨名の怯えてるもの?」
「違う!」
「違わなさそうだけど。大好きなお姉ちゃんに言ってみなさい。」
「だから違うって! お姉ちゃんなんて大嫌いだし!」
「その割に柚希って呼び捨てじゃなくてお姉ちゃんって呼んでくれるんだねー」
うるさいうるさいうるさい。
お姉ちゃんを相手にするといつもこうだ。いつもペースを乱されて、つい感情的になって酷いこと言ってしまうのに、お姉ちゃんはそれが楽しそうで、私もそんなお姉ちゃんを見るのが楽しくて。
「ふざけるのはこのくらいにして。いつもの梨名に戻ったかな」
「……うるさい」
もう大丈夫そうだね、なんて微笑みながら真剣な眼差しを向けてくる。怒っていたはずなのに、それだけで気持ちが絆されていく。
「梨名はまだ話してくれなさそうだから、まずは私の話、聞いてくれる?」
無言で頷く私に語りかける。
「『普通じゃない』なんて聞いて、やっぱりそんなこと思ってたのか、というのが正直な気持ちかな。なんとなくそんな気がしてたからね」
「それだけで、どういう意味かわかったの?」
「わかる、なんて軽々しくは言えないけれどなんとなくはね。私みたいに適当に生きれば楽なのに、梨名は真面目で頑張り屋さんだから、余計にそんなふうに考えちゃうんだろうなって」
なんとなく、なんて言ってるけどきっと全部わかっちゃってるんだろうな。誰より私のことを見てきてくれたお姉ちゃんだから。
「別に真面目なんかじゃないよ。ほかの人よりできないことばっかりだけど、少しでも同じように普通なんだって自分で思いたかっただけだよ」
「それが真面目なんだよ。もちろん、そんな梨名を応援してきたよ。けれど頑張りすぎだから、お姉ちゃんにも荷物を半分分けてくれない?」
カッコつけ過ぎかな? なんて笑うお姉ちゃんを見ていると、もうつまらない意地なんて張らなくていいのかもしれないと思えてくる。甘えたら少しは楽になるのかな。
「私ね、ずっと普通になろうとしてたんだ」
けど、なれそうにないや。それでも、お姉ちゃんと一緒にいていいのかな。
「みんなと同じように学校に行って、一緒になって遊んだりしたかった」
そして、胸を張って自慢のお姉ちゃんの妹だって言えるようになりたかった。
「そっか。そうだよね」
普通ってなんだろうね、なんて悩ましげにしばらく考え込んだかと思ったら、眉をひそめながら消え入りそうな声で囁いた。
「けどね、お姉ちゃんは梨名のこと、普通だなんて思ったことは一度もないよ」
だなんて。
……ああ、やっぱりお姉ちゃんなんて大嫌いだ。
◇
思えば何をするにも一緒の姉妹だった。いつも後ろをついてくる梨名が可愛くて仕方なかった。元々、体が弱かったけれど、それが病によるものだと知らされてからは、お姉ちゃんなんだから梨名は私が守ると幼いながらに誓ったものだ。
それで可愛がり過ぎたせいか、梨名はますますお姉ちゃん子になってしまって、友人よりも私を優先する姿に、心配しつつも悪い気はしていなかった。
そんな幼少期を送りつつも、少しずつ避けられるようになったりはしたけど、やっぱり可愛いがると甘えてくれて、お姉ちゃん離れはまだまだ先だといいな、なんて願ったこともあったっけ。
もちろん梨名の病のことは心配でたまらなくて、家にずっと閉じ込めて安静にしていてほしいくらいだけど、そんなことをしても本人のためにならないことはわかっている。
何より、梨名が「お姉ちゃんみたいになりたい」と同じ習い事をしたり、一緒に学校に行こうとするのを応援したかったし、憧れのお姉ちゃんでいられるように、梨名ほどではないけれど私もそれなりに頑張った。
けれど、現実は残酷で病は梨名の身体を蝕んでいった。中学生になった頃にはもうほとんど登校することもできず、それでも梨名は諦めることはなかった。
その頃から、梨名は私のことを嫌うようになった。いや、正しくは嫌いになろうとするようになった。
初めて、「大嫌いだ」なんて言われた日はショックで寝込んだし、泣きまくったし、正直、梨名の気持ちを考える余裕なんてなかった。
なんで嫌われたんだろう。私だけ自由な身体だからだろうか、それなら梨名と体を交換できたらいいのになんて、優しい梨名を疑うような最低な想像もした。
けれど、その言葉を発する梨名が辛そうで、私に嫌いと言う度に傷付いている様子を見て本心からの言葉じゃないってことはすぐにわかった。きっと、優しい梨名のことだから自分の気持ちに蓋をして、私のことを考えての言葉なんだろうとまでは想像がついたけれど、理由までは分からなかった。
梨名はこれからもそんなふうに、他人の幸せのために生きるんだろうか。
そんな生き方辛いだけだ。馬鹿だとすら思う。けれど何より純粋で綺麗で愛おしいと感じてしまった。
そんな馬鹿な梨名を幸せにしたいと思った。私の中で、梨名はとっくの昔に「特別」な存在になっていたみたいだ。
自分を傷付けて「嫌い」と告げるなら、塗りつぶすくらいの「好き」を贈ろう。
無理やり避けて寂しそうにするなら、嫌気が差すほど構い倒そう。
梨名は私の「特別」だから。
◇
その日は久々に梨名が学校に行くことになった日。無理やり気味だったけど、一緒に登校もできて、梨名も少し楽しげな様子を見せてくれて、私は少し浮かれていた。けれど、私に嫌いと告げる梨名は苦しそうで……。
あんな顔をさせるくらいなら、いっそ本当に嫌いになってくれたほうがマシとさえ思う。どうして私を嫌いになろうとするのか。聞いても答えたがらないだろうけど、それこそ嫌いになられる覚悟で無理にでも聞き出したほうがいいのかもしれない。
梨名に嫌われたって別にいい。良くはないけど仕方ない。それであの子が幸せになれるなら。そう思いながらも、やっぱり嫌われるのが怖くて行動に移すことはなかった。
梨名が倒れたと知らせを受けたのは、そんなことを考えていた矢先だった。
高校を早退して、急いで帰宅すると梨名は熱が出ているものの、それほど大事ではないようだった。
どうも倒れた、というのは少し大げさで、熱が出て教室で朦朧としていたところをクラスメイトが保健室に運んでくれたらしい。熱が出て寝込むのはよくあること、と言いたくはないけど珍しいことではない。
無理をしたというのもあるし、よくあるからって心配じゃないわけじゃないけど私には看病するくらいしかできない。
幸せにするだなんて言っておいて、何もできない無力な自分が嫌になる。けれど、一人にさせないように、せめて寂しくないようにと、小さな手を握りしめる。
◇
「けどね、お姉ちゃんは梨名のこと、普通だなんて思ったことは一度もないよ」
起きたばかりでまだ熱も少しあり、朦朧としているのをいいことに、梨名の心の内を聞き出した。最低な行為だとは思うけれど後悔はしていない。あんな気持ちを一人で抱えさせる訳にはいかない。むしろ、もっと早くなんとかしなかった自分に腹が立つ。
みんなと同じように普通になりたいと思うのは当然だと思う。それが心からの願いであれば叶えさせてあげたい。
けれどそれは難しくて、そしてそれだけでなく、梨名の「普通」への異常とも言える拘りの裏に、まだ本心が隠されているような気がした。
だから、私は梨名を普通になんてさせない。
「梨名は私にとっていちばん大切な人。可愛くて仕方がないたった一人の妹。世界で一番大好きな『特別』な人」
私の言葉に驚いたように、そして泣きそうな顔で応えた。
「わ、私、普通の妹じゃないよ? それなのに、お姉ちゃんのこと、好きでいていいの?」
「何当たり前のこと言ってるの? 梨名がお姉ちゃんのことを昔から大好きなことはちゃーんと知ってるんだから」
「それなら、一緒にいていいの?」
「一緒にいていいかって? 頼まれたって離れてあげないよ」
梨名の「普通」への拘りが垣間見えた。私が原因で、そのことに気付きもしなかったことはお姉ちゃん失格かもしれない。
だからこそ、私が言ってあげないと駄目なんだ。
「それにね、梨名には悪いけど、どれだけ努力したって梨名がなりたかった普通の妹になんて元からなれっこなかったんだよ?」
今にも泣きそう、というか泣いている梨名を壊れ物を扱うかのように大切に、けれど力強く抱きしめる。もう二度と間違えないように。
「だってね、梨名は私にとって、ずっとずっとかけがえのない『特別』な妹だから」
◇
「それにしても、泣き虫なところは昔から変わってないね」
「泣いてないし」
「そういえば好きでいていいの? なんて聞かれたけど、まだ好きって言われてないなー」
「そんなこと言わない」
「えー。お姉ちゃんは梨名のことをこんなにも大好きなのに寂しいよ」
「ああ、もう! やっぱりお姉ちゃんなんて大嫌いだ!」




