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危険な森で目指せ快適異世界生活!  作者: ハラーマル
第2章:異世界の人々との出会い

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第58話:クライスの大森林への侵攻2

〜軍務卿ラッドヴィン侯爵視点〜


私たちの行く手を阻んだ1体の魔獣。

身体の大きさが、私たちの数倍ともなる、巨大な虎。

牙を剥きだし、うなり声を上げている。

王城や自領の屋敷にある資料で見たことのある虎、フォレストタイガーだ。


クライスの大森林に生息する、虎型の魔獣。過去に何度か、森から王国内へ侵入したことがあり、甚大な被害を出したと伝わっている。

その際も、決して撃退できたわけではなく、自ら森へ帰るのを待つだけだった。


そんな勝つ見込みがまるでない、魔獣が明らかにこちらを威嚇している。

その視線の先には、魔除けの魔道具を担当している兵士の姿があった。

・・・魔除けの魔道具が効いていないわけではないのか?



フォレストタイガーが襲いかかってくるのは時間の問題と思われた。

であるのならば、こちらから仕掛けるしかない。

現在、フォレストタイガーと相対しているのは、大きな盾を装備した兵士と、スレイドホースに騎乗している騎士が数名だ。

その後方には大勢の兵士がいる。


まずは、向こうが逃げていってくれることを期待してみよう。

魔除けの魔道具を持つ兵士の前方に、盾を持つ兵士を配置して、塊となってフォレストタイガーへと近づいていく。

フォレストタイガーが明らかに嫌そうに魔除けの魔道具の方向を見つめながら、うなり声を上げ続けている。



そしてある程度近づいたときに、フォレストタイガーが数歩、後ずさった。

よし! このままフォレストタイガーが立ち去ってくれるのでは?と、期待を抱いたその時だった・・・・・・





フォレストタイガーが一度、身体を縮こませてから、大きく前方へジャンプした。

そのまま、魔除けの魔道具を持つ兵士の前で、構えられていた大盾めがけて、体当たりをかましてきたのだ。


フォレストタイガーの体当たりの威力は凄まじく、盾を装備した兵士と、魔除けの魔道具を持つ兵士は、まとめて後ろへ吹き飛ばされた。

フォレストタイガーはそのまま、倒れ込んでいる魔除けの魔道具を持つ兵士へ近づいた。

・・・いかん!


「おい! 逃げろ!」


そう、叫んだのと同時に、魔除けの魔道具を持つ兵士にフォレストタイガーの大きな手が振り下ろされた。

その直後、真っ赤な液体が辺り一面に飛び散った。

・・・・・・フォレストタイガーの身体の向こうには、身体がめちゃくちゃに引き裂かれた、魔除けの魔道具を持つ兵士の姿があった。





その光景を見て、隊はパニックに陥った。

そもそもこの遠征は、魔除けの魔道具によりクライスの大森林の魔獣との戦闘を回避できることが前提であった。

魔除けの魔道具が実際、どの程度の効果を発揮していたのかは分からない。

ここまでは魔獣に襲われなかったことは事実であるし、フォレストタイガーが嫌そうにしていたのも事実だ。

しかし、目の前で、そんな魔除けの魔道具を持っていた兵士が惨殺されたのもまた、事実であった。


当然ながら兵士は、一般市民よりも、敵の強さに敏感だ。

ここにいる者はすべて、目の前のフォレストタイガーと戦って、勝ち目がないことを理解している。

そうなると、選択肢は逃げることしか無かった。


命令も指揮系統も規律も無くなった隊は、散り散りになりながら、各々が逃げ出していく。

そこにあるのは、ただ、逃げなければ殺されるという本能的な感覚のみ。

フォレストタイガーは、そんな私たちを嘲笑うかのごとく、飛びかかって殺し、爪で裂いて殺し、魔法で土のようなものを発射して殺していく。



私は隊のトップとして、危機的状況こそ皆をまとめ、協力してフォレストタイガーを退ける策を講じる責任があった。

しかし、目の前で起こった惨劇と、その後の隊のパニックに呆然とし、義務を果たすことができなかった。

騎士の騎乗していたスレイドホースも、逃げ出してしまっている。


・・・結果的に私は、数名の騎士や兵士とともに、命からがら逃げ出せたのみであった。







 ♢ ♢ ♢


〜レンロー侯爵視点〜


順調だ。

魔除けの魔道具は想定通りの効果を発揮し、クライスの大森林に進軍して3日目になるが、未だに魔獣に襲われてはいない。


唯一不安があるとすれば、殿下がかなり調子に乗っていることか。

この遠征は、ラシアール王国の危機を救うと同時に、私の地位を高め、莫大な富を得る足がかりとなる予定である。

そのためにも、ラシアール王国の王子であるロップス殿下を大将に据えることが必要であった。


この男は、簡単に言えば頭が悪い。

将来のことを考え、自分の娘を嫁がせたが、娘には申し訳ないことをしたと思っているくらいだ。

まあ、この遠征の成果をひっさげて、次期国王となってくれれば、それに越したことはないが、この男が在位している期間はできる限り短くあってほしいものだ。



そんな調子に乗りまくっている殿下は、このままクライスの大森林全域を制覇すると、息巻いている。

ラッドヴィン侯爵やバイズ辺境伯は、クライスの大森林の扱いについて慎重になりすぎであると思うが、殿下は舐めすぎであろう。

いくら魔除けの魔道具があるとはいえ、気を抜けば、すぐに死に繋がる。

ここはそんな危険な森である。

それに、クライスの大森林がどれほどの広さなのかは、正確にはよく分からないが、この程度の戦力で制圧することは到底不可能であろう。





そう思いながら、進軍を続けていると、木の生えていない、開けた場所へたどり着いた。

ここは拠点に使うことができる。

クライスの大森林に生えている木々は、どれも硬く強い。

一般的な斧やノコギリでは、全く歯が立たない。

それになぜか、もの凄く燃えにくい。

そのため、野営する場所を見つけるのも大変であった。





今日はここで野営をし、そのまま前線基地とすることができないかと考えていると、私たちの反対側から、1体の魔獣が姿を現した。



もの凄く大きな身体。

赤い怖い目に大きな牙の生えた口。全身を黒い毛に覆われており、腕の太さは兵士数人分とも思える。

見たことも聞いたこともない魔獣である。


「な、なんだ、あれは!」


殿下がそう叫びながら、後ろへと走ってきた。


「お、おい。レンロー侯爵! すぐに魔除けの魔道具を!」


そう言われ、私が頷くと、隊の魔除けの魔道具を担当している兵士が魔獣へと近づき・・・・・・





魔獣が、兵士の頭の上に手を叩き下ろした。


「なっ!?」

「ひっっぃ!」


そう、私と殿下の声が重なる。

魔獣が振り下ろした手を上げると、そこには、原型が分からなくなった兵士の亡骸が地面にめり込んでいた。


「おおお、おい! レンロー。あいつを殺せ! 私を守れ!」


殿下がそう叫ぶのと同時に、隊の騎士や兵士が、魔獣を囲み、槍や剣で攻撃を開始した。


しかし、魔獣は気にした様子もなく、腕を振り回して、兵士達を振り払っていく。

魔獣はそれほど力を込めているようには見えないが、吹き飛ばされた兵士達は、身につけている鎧はひしゃげ、剣はへし折れており、ほとんどが死亡していた。





・・・・・・まずい。このままでは全滅する。

殿下を連れて・・・

いや、あれは足手まといになるだけだな。

乗ってきていたスレイドホースも逃げ出しているし、無駄に豪華な鎧を着け、足の遅い殿下をお連れすることはできないな。


私は、そう判断すると、側近の者達に合図をして、静かにその場から逃げ出した。

太陽の位置から方角を割り出し、東へ進む。

進軍速度は概ね同じであろうし、東へ進めば、別働隊と合流できるであろう。



そう思い、走り出したのと同時に、背後の魔獣が大きな声で叫んだ。


「まさか誰かアレを倒したのか?」


そう思い、後ろを振り返ると、白い光が迫ってくるのが見えた・・・・・・





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