第325話:狙うは頭?
私の発言に、みんなの表情が引き締まる。
ダーバルド帝国。
この迷惑な国家に悩まされてどのくらいになるか・・・
度重なる部隊の派遣に、魔人や改造された魔獣の放出。サイル伯爵領が襲われたのはよく覚えている。
そして召喚された4人。彼らは間違いなく、かの国の被害者だ。そういえば、アレも召喚されたらしいが・・・。まだ生きているのだろうか? できれば既に死んでいてくれるとありがたい。
さらに、『ワーロフ族』の里を襲撃した件。
「これ以上、ダーバルド帝国に好きにさせておくのもさ。さっきの新しい場所を探す話も、カイトとキアラが学院に行く話も、後は商会だっけ、を作るって話も。やること多いのに、あんな迷惑なのが近くにいるのはね」
そんな私の言葉を受けアーロンが、
「つまりダーバルド帝国を滅ぼす、と? 焼き払うわけですか?」
と、思ってた数倍過激なことを言い出した。
・・・・・・へ?
「なるほど・・・。新しい土地も手に入りますし・・・」
レーノまでも、そんなことを言い出す始末。
待て待て待て!
いつからそんな過激な話をするように!? まさか、私がそのつもりだからってことで、話を合わせてるの?
「ストップ!」
あらぬ方向に進みそうな話を急いで止める。
一番の驚きは、カイトやキアラまでも、この方針に違和感を抱いていなさそうってところ・・・
「そこまでは考えてなかったんだけど!? というか、ダーバルド帝国の領土を手に入れても、そこに住んでる人たちいるでしょ。ごりっごりに差別を植え込まれた人たちが。そんなところに、『人間』の割合の方が少ないうちが移住できるわけないでしょ」
「・・・ですから、すべてを」
皆殺しって?
んなことするか!
「しないからね? ちょっと私の評価について聞きたい気がするけど・・・、いいか。確かに、ダーバルド帝国がこの先混乱していく中で、市民が困ることや、あるいは戦乱に巻き込まれて死ぬことはあると思う。それは、まあ、ダーバルド帝国の上層部をのさばらせていたツケを払うだけだから、気にしない。まあ、彼らに罪があるのかは知らないけどね。でも、不必要に皆殺しにするとかは考えてないよ」
分かってくれただろうか?
まあ、綺麗事を含んでいることは否定しないけど・・・
それに植え付けられた価値観は簡単には変わらない。ダーバルド帝国で暮らしてきた人たちにとって、『人間』こそ至上の種で、それ以外の人が他種を虐げることに何ら違和感を覚えないのかもしれない。
けれど、それをなくすために骨を折る気も、大雑把に消し去る気もない。そこまで、ダーバルド帝国に関わる気がないのだから。
「考えていたのは、皇帝というか、帝都の中心を潰すこと。後は、例の『魔人』を作り出しているという研究所や軍事施設を破壊することかな。頭と、手足を潰す感じ」
実際、これが、うちが単独でできる限界だと思う。
「失礼いたしました」
アーロンとレーノが頭を下げようとするのを手で制し、
「で、どう? 私の考えていたことって、可能? それと意味はある?」
と、確認する。
私も手伝うというかやるつもりだが、メインは騎士団。それに、費用対効果が芳しくなければ、別の策がいる。
まずはアーロンが、
「いくつか検討が必要ですが、可能です。今般、新たに領民となった4つの種族の中で、元は戦士や狩人であったものたちも加えることができれば、より戦いやすくなるかと」
ん?
「彼らも加えるの?」
なんか、受け入れてすぐに戦闘に駆り出すのって・・・
「コトハ様のお気持ちは分かりますが、ここは出すべきかと」
レーノだ。
「コトハ様は彼らを受け入れ、庇護をお与えになる。その対価として、彼らのできることを求める。自然であり当然のことです。もちろん、できないことを無理強いしたり、肉壁にするようなことは論外ですが、彼らの能力を確認、見極め、適材適所で運用することは、むしろ望ましいことかと」
・・・確かに。
領民として受けいれる以上、他の領民と同様に、扱うのが筋か。
続いてオプスが、
「我々『ワーロフ族』は、コトハ様に忠誠をお誓いしております。コトハ様の命のもと、コトハ様と領のため、尽くす所存です」
・・・そっか。これは、私の考えが間違ってたな。
「ありがとう。私が間違ってたね。・・・アーロン、新しい人たちの戦力というか、得意なことは把握できそう?」
「はい。種族は4。それぞれ得手不得手があるようですので、元々は戦いや狩りに従事していた者を中心に、確認を進めさせております」
「そっか。お願いね」
「はっ」
「それでさ、どの程度効果があると思う? ダーバルド帝国への攻撃は」
今度はレーノに問う。
「どの程度行うかにはよりますが、まずは皇帝を始末する方法。これは効果が読めません。ダーバルド帝国の皇帝の情報がなく、跡継ぎや他の有力貴族の情報も不足しています。そのため、皇帝を始末したとしても、ダーバルド帝国の動きが変わるかは不明です。もっとも、確実に混乱はしますので、動きが鈍るのは間違いないかと」
「なるほどねー・・・。まあ、皇帝消しても、ダーバルド帝国の基本方針が大きく変わる見込みは薄いか」
「はい。次に研究所や軍事施設への攻撃ですが、こちらの方が直接的な効果が出ると思われます。ダーバルド帝国軍が使用している各種の軍事用の魔道具や『魔人』といった生物兵器の供給が止まれば、それだけで大幅な戦力ダウンです。加えて、ただでさえ戦力不足に直面している中、軍事施設とともに多くの兵士が散れば、より足が鈍るかと。ただ、反面で、奴隷狩りに躍起になる可能性があります。また、占領下にあるジャームル王国の西側から戦力を強制的に補給する可能性や、我が国での人攫いが増加する可能性もあるかと」
・・・奴隷狩り、か。
ジャームル王国からの難民を装ってカーラルド王国に侵入し、盗賊の振りや、ときには盗賊を支配下に納める、襲撃を繰り返し、人を攫う。
カイトのおかげで、その目論見が明かされ、各領の騎士団が躍起になって、盗賊の根城を潰して回っているらしい。
「人攫いに関しては、国の方でも動くらしいし、危険は周知してる。後は、それぞれの領主や国が、どこまで本腰を入れられるかかな。カイトに聞いた話だと、ジャームル王国からの難民対策はかなり本気でやってるみたいだし、期待だね」
「はい」
「それで、とりあえずは、王都ではなくて、帝都か。帝都の中心。帝城とやらを吹き飛ばそうかと思って」
まずは頭を。帝城を吹き飛ばすことで皇帝を消せるかは不明だが、大打撃にはなるだろう。
その混乱に乗じて、分かっているところから、ダーバルド帝国軍の基地や施設を潰していく。
そうすることで、頭を、手足を捥いでいくわけだ。
「・・・吹き飛ばす、というのは?」
カイトが若干、引き気味に聞いてくるので、
「いくつか考えている魔法があるんだよね。研究所もだけど、再利用されないように更地にした方がいいかなって。帝城はどっちでもいいけど、その方がインパクトあるでしょ? とにかく、皇帝だか、その腰巾着だかに、これ以上カーラルド王国に関わるのはヤバいって思わせたいのよ」
一瞬で。
帝城が、一瞬で吹き飛び、跡形もなく消え去れば、与える衝撃はいかほどになるか。
それこそ、差別をしてきたことに神が怒ったとでも噂を流せば、信じる者はある程度いるだろう。
現実的な話では、そんなふざけた攻撃をしてくる相手と戦争したいとは思えないのではないだろうか。
「どんな魔法なんですか、それ・・・」
キアラが興味深そうに、戸惑いながらも聞いてくる。
そういえば、キアラも少し変わった気がする。なんというか前よりも強くなった感じ?
目標でもできたのか、前よりも騎士団との訓練や、ドランドの工房での作業に積極的な感じ。真面目なのは変わらずだけどね。
「うーん、なんていうの? 簡単にいうと、『火魔法』で作り出した炎を、『水魔法』で作り出した水球の中に入れておいて、その境目を取っ払うことで、水球を一瞬で蒸発させる感じ?」
要するに水蒸気爆発、だ。
まだ構想と、わずかな量での実験しかしていないが、それなりに上手くいきそうだ。
肝となるのは、水を一瞬で蒸発させること。その際の体積の急激な増加を利用するのだから、ゆっくりではだめ。
『火魔法』でマグマを作り出すのは無理そうなので、どうにかして、とにかく温度の高い炎を作り出せないか試行錯誤しているところだ。
キアラはあまり分からなかったようなので、また今度と伝えておく。
「じゃあ、ひとまずはこの方針でいいかな。アーロンは4種族の騎士団への合流の検討と、同時に森の中で空いてる場所知らないかも聞いといて。それから、帝都を含めて、攻める場合のシミュレーションなんかも」
「お任せください」
「レーノは、カイトと一緒に商会の話ね。それと、ダーバルド帝国を攻撃するとして、ハールさんたちにどこまで伝えるかも考えといて」
「はっ」
「じゃあ、よろしく!」
みんなが一斉に頭を下げる中、細かな検討はお任せした。
自分でも思っていたより、ダーバルド帝国に腹が立っていたことを実感する。今日の話し合い、私の中で、攻撃しないという結論は用意されていたのだろうか?
とりあえず、できると豪語した魔法の準備でもしながら、頭を冷やすことにしよう。




