第324話:増えた・・・
つ、疲れたぁ・・・
いやーほんとに、怒涛の1週間だったなぁ・・・
結果的には、作戦は成功だとは思う。こちらの被害はゴーレム数体に、傷んだ武具がそれなりに。人的被害としては、怪我人が何人かは出てしまったけど、魔法薬と休養により回復済み。まあ、実質的にはゼロに近い。怪我人が出てしまったことは検証と作戦の改善を検討はさせているが、言ってしまえば戦闘だ。誰一人怪我をしないなんて、理想論を超えて夢物語ですらある。もちろん、被害の少ない選択肢を模索するのを怠りはしないが、腹を括る必要は別にある。
対して、戦果は大きい。
『ワーロフ族』の里を襲ったダーバルド帝国兵はおそらくほとんど取り逃がしなく押さえた。仮に生き残りがいても・・・・・・、まあね。彼らの行く末を気にするのは時間の無駄だが、まあ解決。『ワーロフ族』を助けるという目的自体は、私たちが関与し始めた時点からを考えれば、無事達成した。
多くの戦士を、そして族長であるオプスの父を失った『ワーロフ族』には試練の時だが、どういうわけか私の保護下に。いや、理由は分かっているけど・・・
まあ、領民が増えた。ただ、こうなるといよいよ、現在の領都では土地が足りない気がしてきた。
他にも、新生騎士団の各部隊は、新しい運用の実戦経験を積むことができた。遭遇しないに越したことはないが、今後も対人戦の可能性があることを考えると、今の段階で組織的な相手と戦闘経験を積めたのは大きいと思う。魔人が暴れる横でチョロチョロしていたダーバルド帝国軍の部隊を組織的な相手と表現していいかは疑問だが。
そして、カイトたち。
ダンさんたちとの交渉は心配していなかったが、いろいろと予想外のお土産があった。
盗賊の使っていた根城を拠点にするとか、ダーバルド帝国もなりふり構わない感じか。足りない兵力は、盗賊やジャームル王国の冒険者を脅して賄うとか・・・
この件は、ダンさんやラムスさんを通して、国の方で動くみたいだから、これ以上は関わらない。というか、国内にそんなもんがあるんだとしたら、最優先案件だよね。
うちとしては、近所にそういった場所がないのか、騎士団の巡回を強化するに留めている。この森の中にも敵の拠点があるかもしれない。すでに把握している洞窟や洞穴の類には定期的に巡回に向かうように指示し、可能な限りで巡回範囲を広げることで、より一層警戒する。
そんなわけで、今回のゴタゴタは解決した、と思いたいのだけど・・・
「ごめん、もう一度確認するよ?」
私の前に跪く4組の獣人。
見覚えのあるのは1組だけ。そもそも、今日はこの1組と会う予定だったはず。
「こっちから、『ランサー族』、『ライ族』、『ヤリュシャ族』?」
とりあえず、オプスに聞く。オプスが連れてきたんだから、説明を求めるよ?
「は、はい。その通りです、コトハ様」
うん。とりあえず、種族名は把握できた。大きな一歩。
『ランサー族』は、黒い丸耳と同じく黒く細長い尻尾が特徴的な種族、獣人。おそらく黒豹かな。
『ライ族』は、ウサ耳。尻尾は見えなかったけど、想像通りならズボンの下に隠れているんだろう。もちろんウサギ。
『ヤリュシャ族』は翼。真ん中にいる男性は茶色っぽい翼で、後ろにいる2人の女性はそれぞれ白と黒。色はバラバラかな? 前の2つの種族と違って明確なものはわかんないけど、まあ鳥だろうか。
「ええっと? もしかしなくても、この3つの種族も・・・?」
「はい。どうか、コトハ様の庇護下に置いてはいただけないでしょうか」
オプスに続き、各種族の面々が頭を下げる。それぞれ3人ずつだ。
・・・うん。
助けを求めてカイトの方を見たが、視線を合わせてはくれない。いや、何やら考えているみたいだから、彼らを受け入れた後のことを考えているのだろうとは思うけど・・・、けど!
とりあえず、受け入れるかどうかの議論は? いや、理由はなんとなくわかる中で、断るってのが難しいのは理解してるんだけどさぁー・・・
♢ ♢ ♢
それぞれ話を聞いてはみたが、理由は同じ。
『ワーロフ族』は、森に住む獣人たちの中では、武に秀でた種族として認識されていた。そんな種族が、人間に襲われ、里が壊滅した。いや、壊滅はしていないが、助けを求めざるを得ない状況にまで追い詰められた。『ワーロフ族』は、この3種族にも助けを求めたらしいが、彼らとしては『ワーロフ族』で勝てないものに勝てるわけはないと、『ワーロフ族』の里から逃げてきたり、避難の際に逸れてしまったりした子どもを保護することしかできなかった。
そんな折、うちがあっという間に『ワーロフ族』を救い、その上で『ワーロフ族』を庇護下に置いた。
まあ、こんな感じか。
その後、内部で議論して、『ワーロフ族』を通して今回の話を打診した、と。
うーん。気持ちは分かるんだけど、これ以上人が増えるのはなぁー・・・
私のキャパの話については、カイトに投げるし、レーノたちもいる。あんまり、気にしてはない。生活もできるとは思う。
ただ、最大の問題がね!? どこに住むの? 庇護下ってことは、領都? さすがに無理でしょ。
ひとまず、現在領都にいる各種族の皆さんには寝る場所を割り振り、しばらく待つように伝えた。今回うちに来ていたのは、それぞれの里長の名代とその護衛たち。名代といってもバラバラで、里長の子もいれば、血縁関係はない者もいた。護衛たちは、見たところあんまり強そうには感じなかったけれど、そもそもが戦う力がないって理由でここに来てるのか。それでも、この森で生きていく力はあるわけだし、見かけによらない強さもあるのだろう。
そんな風に彼らの状況は一通り聞いたところで、
「さぁ、どうする?」
会議室に集まった面々を前に、開口一番問題を丸投げした。
そもそも今日は、他にも相談したいことが多々あったわけだし、出鼻をくじかれたんだから仕方がない。
「・・・どうする、とは? 新たに訪れた3種族のことでしょうか?」
諦めたように口を開くレーノ。
「それも一つ。ただ、まあ、それ自体というかさ・・・。アーロン。場所は足りそう?」
ひとまず、現在彼らを受け入れ、そして今後も受け入れることになる騎士団に確認する。
「はっ。スペース自体は問題なく。寝る場所も、領民がノウハウを蓄積しており、問題なく用意できそうです。しかし、恒久的にというのは。訓練も難しくなりますし・・・」
「そうだよね・・・。前々から話してたけど、やっぱり広いところ探すしかないよねー・・・」
私の言葉には、基本的にみんな同意する様子。
代表してレーノが、
「仰るとおりかと。この場所は、コトハ様方にとっては思い入れの深い場所であることは承知しておりますが、物理的な広さが足りません。加えて、バイズ公爵領との境界にも近い。今後の発展を考えると、もう少し南に本拠を移し、その地で都市を大きくするべきかと」
都市って・・・・・・
確かに、私とかここで“生まれた”わけだし。それ以来住んでるから思い入れもあるといえば、ある。
とはいえ、一緒にいるみんなが窮屈な思いをするのは本意でないし、もっと広い場所で好き勝手したい感もある。ドランドと2人で迷惑を考えない実験、とか。
「となると、森を調べないとか。前の洞窟の調査もあるし・・・って、そうか」
そうじゃん。森に詳しい人。
「聞けばいいのか。私たちより、みんな南に住んでたわけだし。狩りとかしてるんだろうから、地理にも明るいでしょ」
というわけで、『ワーロフ族』を含めた4種族に、森の中で開けた場所、新たな街を作るのに適した場所を聞いてみることになった。
「じゃあ、この話は進めといてね。で、ここからが本題、というか、元々話したかったこと」
私がそう言うと、みんなの表情が引き締まった。
まあ、なんとなく察しは付いているのだろう。
「いい加減、ダーバルド帝国どうにかしよっか。さすがに、これ以上は迷惑過ぎるし」




