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危険な森で目指せ快適異世界生活!  作者: ハラーマル
第6章:龍族の王女

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第320話:緊張を返してほしい

〜カイト視点〜


コトハお姉ちゃんの代理として、クルセイル大公領の代表として、今回の難民受け入れに関する交渉をダン殿下とラムスさんとするぞ、とかそれなりに力が入っていたのだけど、馬車から降りた際のダン殿下とラムスさんの表情を見て、また2人を守る騎士たちがうちのゴーレムや馬車、馬たちをひどく警戒している様子を見て、なんだか緊張が和らいだ。

・・・・・・キアラをエスコートしたことで、別の緊張はしたのだけど。いや、これは別の話。


少し気持ちが落ち着くと、ふと周りの視線を感じるようになった。

普段、森の中では周囲の視線には一際注意していることを考えると、自分が思っていたよりも緊張していたことを実感する。気を引き締め直さないと・・・


感じた視線の多くは、集まっていた貴族やその従者のもの。

どうしてここに多くの貴族がいるのかはよく分からないけれど、せっかくダン殿下やラムスさんが王都から来ているから会おうと思ったのかも。

そういえば、2人はコトハお姉ちゃんだけでなくいろいろな人と面会する予定だと聞いた気がする。


そんな貴族たちに見覚えはない、と思う。一部、王都での式典やラムスさんに誘われて参加したパーティーで挨拶を交わした貴族がいるような気もするけど・・・・・・、思い出せない。

コトハお姉ちゃんのように興味のない貴族の顔や名前を記憶から消したりはしてないんだけどなぁ・・・


ただ、一部の貴族やその従者から感じる視線には、どこか不快なものを感じた。

こちらに害意を持っているわけでも、敵対しているというわけでもないとは思うのだけど、あまりいい気分はしない感じ。

まあ、これは僕が気にする必要はない。

日頃、森の中で狩りに明け暮れているうちの騎士たち。彼らが、このあからさまな視線に気づかないわけがない。

マーカスや何人かの騎士が視線の主を確認しているようなので、大丈夫だと思う。



 ♢ ♢ ♢



部屋に通されると、早速2人との交渉が始まる・・・かと思ったが、そうではなかった。

まずは、


「改めてカイト殿。久しぶりだな」


ダンさんが会話の口火を切ると、一通りの近況報告を行った。

僕としては、フォブスやグリンが元気にしていることを確認できてよかった。2人とも、学院に向けて勉強や訓練に励んでいるらしい。今は残念ながら王都にいるらしく、会うことは出来ないけれど、また会える日が楽しみだ。


そして、


「それで、コトハ殿は・・・」


当然、コトハお姉ちゃんではなく僕が来た理由に話が進む。


「実は、領都の南で新たな魔獣に遭遇しまして・・・」


今回、コトハお姉ちゃんではなく僕が来た本当の理由は『ワールフ族』の件。

けれど、どこまで彼らのことを伝えるか、検討している余裕がなかった。

そこで、クライスの大森林としては違和感のない作り話。新たな魔獣が出現した。コトハお姉ちゃんは対処するために残り代理として僕が来ることになった。このストーリーを伝えることにした。


「・・・コトハ殿が残らないと危険な魔獣、ということですか?」


ラムスさんが少し深刻に捉えている。

確かに、場合によってはガッドまで出てくることも考えてしまうよね・・・


「念のためです。ほぼ間違いなく、うちの騎士団で対処可能です。ですが、うちの領の方針として、新種の魔獣・魔物については、その詳細が判明するまでは、最高戦力である姉が基本的には待機することにしていまして。失礼ながら、僕が代理として参りました」


ここまで説明すると、本当に念のための措置だと分かってもらえたらしく、それ以上追求されることはなかった。

嘘をついたのは心苦しいところもあるけれど、オプスたちのことをどう説明するかは慎重に考えるべき事柄だし、今回その時間は無かった。


「それにしてもカイト。今日のクルセイル大公領の騎士団は圧巻でしたね」


コトハお姉ちゃんの話が終わったかと思えば、次は騎士団の話になった。

とはいえ、これは想定通りというか、狙い通り。


「物々しくてすいません」

「いえ。大公弟の護衛として違和感はないですよ。まあ、カイトにあれだけの警護が必要なのかは、正直疑問ですけどね・・・」


何やら窺う様子のラムスさん。


「そうだな・・・。あれだけの護衛。うちの親父のよりも仰々しかった気がするな」


ダン殿下も続く。

まあ、お二人とも僕のことは知っているわけで、疑問に思って当然といえば当然なのだけど。


「僕にあの護衛が必要というよりは、今回はせっかくの機会なので、いろいろ試した感じですね」

「ほう・・・」


食いついた様子のお二人に対し、用意しておいた説明を続けていく。


「ご存じの通り、うちでは日々、新たなゴーレムの開発が進んでいまして・・・」

「以前、砦や王都で見せていただいたものと比べてもですか?」


すぐさま、突っ込みが入った。やはり、騎士ゴーレムに関する話題には興味が大きいらしい。

そういえば、ラムスさんは、クライス砦でうちの騎士団やゴーレムとバイズ公爵領の騎士団が模擬戦を行った場にいたはず。


「はい。ゴーレムの詳細は、その、領の秘密ですが・・・。性能が日々向上していることは事実です。少し前に、騎士団の再編を行い、今回は新制騎士団の中でも僕たち大公家を守る部隊の実地訓練も兼ねていました」


そういいながら、僕の後ろに控えるマーカスの方に視線を向ける。

現在ここにはマーカスともう一人。残りの一部の騎士や騎士ゴーレムは、部屋の前や廊下に待機し、それ以外は馬車の近くにいる。さすがに大丈夫だとは思うが、馬車や軍馬たちに余所の人を近づけるわけにはいかない。


騎士団の配置、陣形、動きなどは、コトハお姉ちゃんとヒロヤのアイデアを出発点にしている。この二人が出す様々なアイデアを元に、騎士団の装備、戦術、編成は大きな変化を迎えている。

今回の護衛も、コトハお姉ちゃんとヒロヤの元いた世界で王様のような人を守る際に使われていた戦術を参考にしているらしい。なんでも、馬車から降りて、建物に入る前に矢や魔法で狙われた場合を想定しているらしいけど・・・

まあ、要するに、クルセイル大公家の警護を担う第1中隊の騎士ゴーレムは、日々、守ることに特化し続けている。


「確かに、見たことのない陣形だったな」


ダン殿下は元々近衛騎士だったらしいし、今は近衛騎士に守られる立場になっている。うちの騎士や騎士ゴーレムはもちろん、あの陣形やうちの隊列の動きを見て、何か思ったことがあるのかもしれない。

僕の見た限りでは、コトハお姉ちゃんとヒロヤの提案した陣形や戦術はカーラルド王国では用いられていないものが多いしね。


「僕も詳しいことは分からないのですが・・・。我が領の騎士ゴーレムと優秀な騎士が、僕たちを守る最適な戦術を日々模索してくれています」

「ふむ」


騎士ゴーレムについては、僕では分からないことも多いし、話せないことも多い。最近では、キアラもコトハお姉ちゃんに次いで、ゴーレム制作に貢献しているらしいが、いずれにせよ機密だ。

聞いた話では、護衛にあたる騎士ゴーレムは、俊敏性やいざというときの頑丈さなどに重きをおいた設計になっているらしい。確か、一緒にいた騎士ゴーレムはいくつかの種類があったので、用途ごとに作りが違うのだと思うのだけど、詳しいことは分からない。そもそも、分かっていても教えられないし・・・



その後、ようやく本題に入ったかと思えば、受け入れる難民はこちらで選びたいこと、そのために人員を派遣したいこと、ジャームル王国のルメンにいるというドランドの友人を助け出して欲しいことを要望したところ、二つ返事で了承された。

正直、拍子抜けだった。

僕の緊張を返してほしい・・・


僕が肩肘張って、ガチガチに緊張していた交渉は、その大半をコトハお姉ちゃんや領、そして騎士ゴーレムについての質問攻めを躱すだけで終わったのだった。

本題の交渉は、こちらの言い分がそのまま通った形。僕が交渉の場に出るのは、少し早かったらしい。


そんな交渉の場の最後に、


「カイト。可能であれば、頼みたいことがあるのですが・・・」


と、ラムスさんが再び切り出した。


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