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危険な森で目指せ快適異世界生活!  作者: ハラーマル
第6章:龍族の王女

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第318話:嫌な交渉

〜ラムス・フォン・バイズ視点〜


王都キャバンとバイズ公爵領の領都ガッド。

これまでは王都キャバンから領都ガッドへ帰ってきたときには、ホッとしたのですが・・・・・・

今回は、そうもいかない。むしろ、王都から出るのが億劫でした。



「ラムス。顔が死んでるぞ?」


夕食時、ダンからそんなことを言われました。


「それはそうでしょう。どの領主も身勝手な条件で交渉してくるのですから・・・」


今回、シャジバル辺境伯領とフーバー辺境伯領に押し寄せている難民を、影響の少ない東部や南部の領に受け入れてもらうべく、宰相である父に代わり各領主との交渉を行っていました。

ですが、どの領主も受け入れを渋り、コトハ殿の件を持ち出せば渋々受け入れることには応じるものの、種々条件を提示してくるのです。


「どんなことを要求された?」


面白そうに聞いてくるダンに少し苛立ちを覚えながら答えます。


「多かったのは、コトハ殿との顔つなぎですかね」

「ああ・・・」

「後は、王立騎士団や王立魔法師団の派遣要請や自分の息のかかった者を取り立てて欲しいであったり、王立学院の教師に親戚をねじ込みたいだの・・・。単純に金を要求されたのが、一番楽そうだったのは皮肉ですね」

「はは・・・」

「そちらはどうでした?」


ダンは軍事力に富んだ領主や、物資が豊富な領主に対して、対ダーバルド帝国対策として派兵や補給を求めていたはずです。


「ん? ああ・・・。こっちも似た感じだな。物資の方は金で済むんだが・・・。私兵を投入することに関しては難色を示すケースが多かったな。王立騎士団や有事の際には王立騎士団に組み込まれる領兵で足りないのかと詰められた」

「まあ、そちらは備えですから」

「ああ。本当に困ったときには、王都や周辺の治安維持に協力することは約束を取り付けた」

「まあ、それが落としどころでしょうね」


なんだかんだ、妥協ラインは死守できたみたいです。

こちらも、かなり骨は折れましたが、どうにか難民の対処の目処は立ちそうです。これも、コトハ殿が受け入れてくれたこと、そしてそのことを交渉時に使うことを認めてくれたことによるのでしょう。本当に頭が下がります。


「まあ、1つ目はクリアか。明日は、2つ目。いや、本番か」

「ええ。元を絶たないことには、どうしても後手に回りますからね」


明日の交渉は、我が国に逃げてくる難民の発生自体を絶つための交渉です。



 ♢ ♢ ♢



翌朝、早々に朝食や打ち合わせを済ませた私とダンは、我が家の最も格式の高い応接室で、人を待っていました。

そして、


「ダン殿下、ラムス様。ご到着されました。ご案内いたします」


グレイがそう告げてきました。

頷いて応じる私とダン。


そうして、グレイの案内で2人の男性と、その護衛と思われる4人の騎士が部屋に入ってきました。

こちらも、主にダンの護衛として近衛が背後に控えていますので、どうも物々しい雰囲気になってしまいます。


「お初にお目にかかる。私は、メスト・フォン・ラシャール。ジャームル王国がラシャール領領主、ラシャール侯爵である。そしてこのお方が、我がジャームル王国国王が第3子、オクリド・フォン・ジャムール第3王子殿下であらせられる」


入ってきたうち年長の、たっぷりと白い髭を蓄えた男がそう告げる。同じく真っ白な髪を整え、その身体は歴戦の勇士のようです。どこか、我が父に似ているでしょうか?

そして、そんなラシャール侯爵が紹介した男性は、打って変わってまだ若く線の細い男性。いえ、私が言えたことではないのですが。

それにしても、フォブスよりは年長でしょうが、横にいるダンよりは明らかに若いですね。ダンが確か25かそこらだったと思うのですが、ダンよりも確実に若いですね。


「こちらこそ、お初にお目にかかります。私は、ラムス・フォン・バイズ。カーラルド王国バイズ公爵領が領主、及びカーラルド王国宰相のアーマス・フォン・バイズが嫡男にございます。そしてこちらが、カーラルド王国国王が子息、軍務卿のダン・フォン・カーラルド第3王子殿下であらせられます」


こうして、互いに第3王子、そして現侯爵と次期公爵。

そんな4者の会談が始まりました。



事の発端は、コトハ殿の配下であるホムラ殿が王都を訪れた直後。

シャジバル辺境伯から、緊急の連絡が入ったことでした。


「ジャームル王国の第3王子と第2の都市ルメンを領都に持つジャムールの大貴族ラシャール侯爵が、シャジバル辺境伯に面会を求めてきました」


との一報でした。

そして、彼らが求めたのは、今後のカーラルド王国とジャームル王国の関係に関する話し合いの場を持つことでした。


既に王宮では、ダーバルド帝国へ対抗し、またジャームル王国の港湾都市カリファを手に入れるため、軍を派遣することが確定路線となっています。

そんな中での会談要請。


王宮では、これまでのジャームル王国の振る舞いから信用できないとして会談自体を拒否するべきとの意見、いずれにせよ話だけはしておくべきとの意見、どうせなら有利な条件での介入を認めさせるべきとの意見など、様々な意見が出ました。

私も先の騒乱時、どさくさに紛れてというか、ラシアール王国に敵対していた勢力と組んで混乱を招き、東部に進出したジャームル王国が信用に値するとは思えません。

しかし、今後を見据えて、相手の心づもりだけでも確認しておくのは有用でしょう。

陛下もそうお考えになったようで、ダンを代理として、ガッドで会談するようにと命じられました。



独特の重苦しい雰囲気が部屋を包む中、ラシャール侯爵が口火を切りました。


「まず始めに、過去の我が国の過ちに関して、申し開きをするつもりはございません」


開口一番、驚くような謝罪が始まりました。

彼が言う「過ち」とは、ラシアール王国の最後に繋がった件でしょう。ランダル公爵の反乱に手を貸し、結果、東部を一時占領するに至った件の。

コトハ殿の噂に恐れをなして手を引いたと思うのですが・・。


「言い訳をするつもりはないですが、あれは貴族の暴走を止めることのできなかった国王の落ち度。そして主導した貴族に責任の大部分は帰属します」


続いて、初めて口を開いた第3王子の言葉は、なんとも驚きのものでした。


「なるほど・・・。父である国王を非難するか?」


驚いた様子のダンが聞き返すのに対して、


「現国王に国を治める力が無いことは明らか。なのに優秀な宰相までも更迭する始末。今王宮に残っているのは、どれも無能なクズばかりです」

「・・・殿下、でよろしいのですよね?」

「はい」

「・・・あなたがそのようなことを、我々に話す意図を掴みかねますが・・・」

「ダン殿下。ラムス殿。聡明なお二人であれば、私がここに来た理由も、王宮や父である現国王でさえもこき下ろす理由がおわかりになるでしょう。少し前に、起こったことです」

「・・・・・・・・・・・・」


ふぅ・・・

どうしましょうか? そもそも、どうしてこうなったのでしょうか?

ジャームル王国の本流ではない大物が来たと聞いたときには、嫌な予感はしていたのですが・・・


「私、オクリド・フォン・ジャムールは、ジャームル王国の第3王子として、ジャームル王国を破滅に導く現国王とその取り巻きを討つ所存です。そして、我が国を内から蝕む害虫を駆除した後は、外から襲う敵を排除する。貴国には、その助力を願いたい」


立ち上がり、堂々と宣言する第3王子。

その姿は、上手くいけば肖像画として語り継がれること間違いなしといった感じでしょうか・・・?

ですが、


「お言葉ですが、我が国が貴国、いえ、貴殿の野望に手を貸す道理はない。そもそも、貴殿は我が国に対して先の過ちを犯した国王の子、王族です。どうして貴殿に協力できましょうか?」


いち早く立ち直ったダンがそう問いかけるが、


「仰るように、我が国は過ちを犯した。形式上は手打ちにしたとはいえ、まだ日も浅い。ですが、貴国も、我が国がダーバルド帝国に飲まれることは望まないのでは? また、片付いた暁には、貴国に港湾都市カリファを譲るつもりです。それでも足りなければ、我が妹を差し出す所存」


・・・意図が分かりません。

港湾都市カリファはジャームル王国の重要な都市の1つ。加えて妹君を差し出す、つまり我が国の王族や貴族に嫁がせると?

この話の流れはまるで、


「・・・そこまで、そこまで貴国の内情は逼迫してるのですか?」


思わず出てしまった問いかけに、オクリド第3王子だけでなく、ラシャール侯爵も神妙な面持ちで、深く頷きました。



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