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危険な森で目指せ快適異世界生活!  作者: ハラーマル
第6章:龍族の王女

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第317話:それぞれの思い

〜オプス視点〜


ただ、悔しかった。

俺は何もできなかった。

親父が、里の戦士たちが、そしてコトハさんや彼女の配下の騎士たちが戦うのを見ていることしかできなかった。


里の女や子どもには怪我人は出たが犠牲者は出なかった。そのことを褒めてくれるが、俺は何にもしていない。

命を懸けてみんなを逃したのは親父や戦士たち、コトハさんに助けを求めに行ったのはベイル、そして敵を倒したのはコトハさんたちだ。


コトハさんのおかげで、親父たちを厳かに見送ることができた。コトハさんやホムラさん、騎士の皆さんといった武人に見送られて、親父たちは光栄だったと思う。前にコトハさんのことを話した時は、「手合わせを願ってみたい」と話していたし・・・


敵を排除し、親父たちを見送った。

俺のすべきこと、それは分かりきっている。里の仲間たち。みんなを守ることだ。

だが、これまでみんなを守っていた戦士の半数が命を落とし、生き延びた中にも大怪我を負った戦士が多い。デステイを筆頭に経験豊富な戦士を失った。

俺やベイルたちの力不足は明らか。再びあのイカれた姿の敵が襲撃してきたら、俺たちになす術はない。

里の仲間たちに相談したら、みんな同じ意見だった。いや、これ以上の迷惑をかけられないという意見もあったが、結局、みんなを守るには縋るしかない。



「コトハさん。いえ、カーラルド王国大公、コトハ・フォン・マーシャグ・クルセイル殿下。我々『ワーロフ族』を、貴方様の保護下においてはいただけないでしょうか?」


必死に頭を下げた。

俺の後ろにいたみんなも、次々に。

コトハさんの返事を待つのが怖かった。今回のことですら、コトハさんやみなさんの好意に甘えている。今回の援軍に対して、俺たちは何にも差し出せない。ただ、頭を下げるしかできない。それなのに、更なるお願い。それも、どう考えても負担しかない、そんなお願い。



コトハさんの返事を待っていた時間がどれほどだったのかは分からない。数秒か数分か。数十分ということはないと思うが、それくらいにも感じた。


「いいよ」


そんな声が聞こえた。

頭を上げ、コトハさんの方を見る。聞き間違いだったらどうしよう。冷静に考えれば考えるほど、コトハさんに俺の願いを聞き入れる理由がないのだ。


だが、


「細かいことは後にするけど、『ワーロフ族』を受け入れる。オプスが、デロスさんが、戦士の皆さんが守ろうとした人たちを守るのに、手を貸すよ」


聞き間違いではなく、確かにそう聞こえた。

その瞬間、身体の力がスゥーッと抜けていくのを感じた。そして目の前がぼやけてくる。よく分からないまま、そこで記憶が途絶えた。



 ♢ ♢ ♢



「うぁぁっ!?」


何だ!? どうなった!?

敵は!? 人間は!? バケモノは!? 里のみんなは!?


あたりを見渡すと、そこが自分の家だと気づく。所々に穴が空き、壊れたものが散乱しているが、間違いない。生まれてらかずっと住んでいる家だ。


「おい! オプス! 大丈夫か!?」


そんな声に驚き見ると、よく見知った顔があった。


「ベイル・・・」


ベッドの脇に座るベイルを見て、ようやく頭が整理されてきた。

ベイルだけじゃない。物心ついた時から一緒にいた仲間たちが皆一様に心配した表情で俺の方を見ていた。


「悪い。大丈夫だ・・・。えっと、俺は寝てた、のか?」


気持ちを落ち着けるように問いかけると、


「うん。丸一日くらいね。いきなりコトハさんの前で倒れて・・・」


そうだ・・・。俺はコトハさんに、里のみんなを受け入れてほしいと頼み、それが叶った。

その後、急に視界がぼやけて・・・


「コトハさんは?」

「帰ったよ」

「え?」

「ホムラさんと2人でね。騎士団の皆さんは残ってて、元気な戦士と狩りをしたり、ボロボロの建物の撤去を手伝ったりしてくれてるよ」

「そうか・・・」


俺はコトハさんにちゃんとお礼を言えたのだろうか?

コトハさんの答えを聞いて安心して、そのまま意識が途切れた気がする。多分、近くにいた連中が代わりに言ってくれているとは思うが、俺の口から言わなければならないのに・・・


「そんなに落ち込まなくても、少ししたらまた来てくれるらしいよ?」

「は?」

「いや、オプスが頼んだんでしょ? 俺たちをコトハさんの下にって。それには賛成というか、ありがたい話なんだけどさ。コトハさんはコトハさんで、準備だったり用があるんだって。今回も、元々の用事を代わってもらって来てくれたみたいだったし」

「そうか・・・。本当に迷惑ばかりかけたんだな」

「うん・・・。今思えば、最初にオプスがコトハさんの部下に助けてもらったところから、恩ばかり受けてるよね・・・」

「ああ。とにかく、騎士の皆さんと話をしないと・・・」


そう思い、ベッドを抜けて騎士団の人たちが集まるところに向かった。

コトハさんは俺たちを助けると言ってくれた。今後、恩返しをしていかないといけないし、そんな義務感ではなく心から恩を返したい。だが今は、騎士団の皆さんとうちの里の仲間たちが良い関係を築けるように尽くす。うちの里の連中はいい奴ばかりだが、外の世界を知らない。俺も含めて。だから、悲しい行き違いが起こることだけは何としても避けないといけない。


まあ、これは杞憂に終わった。元来強者には敬意を払う俺たち。ここに来てくれた騎士は皆、強者ばかりだ。それぞれが、騎士の方々と打ち解け談笑している姿を見て、コトハさんに願ったのは正しかったのだと実感した。



 ♢ ♢ ♢

〜ヤリス視点〜


「ガタガタ」と音を立てながら進む馬車の中、難しい顔をしたカイト様とそれを心配そうに見るキアラを眺める。


カイト様の表情が硬いのは、コトハ様の代理を務めることへの緊張感かしら?

カイト様が心配されるのも分からないではない。コトハ様は、他の誰とも違う存在。相手はコトハ様と交渉するつもりで出向いているのだから、その代理となるカイト様が緊張するのも仕方がないのかもしれない。

けれど、カイト様はカイト様で唯一無二。不敬ながら、コトハ様よりは遥かに貴族らしく、領主に向いているお方。ご本人もコトハ様の後を継ぐつもりであり、コトハ様自身もそれを望んでおられる。

そんなカイト様は、今回のような交渉ごとにおいては、コトハ様の代理を十二分に務めることができる。これは、領に住みお二人を知る者の総意。

レーノ様も、そこまで言っても大丈夫なの?というくらいに、コトハ様よりカイト様の方が交渉ごとには向いていると励ましていたのよね。


・・・とはいえ、そもそも今回の件、交渉にすらならないと思われる。

今回の件は、コトハ様が僅かであろうと難民を受け入れると判断した時点で勝ち。後は、こちらが欲しい人材だけ、必要な人数だけ受け入れればいい。どのように選定するか、領まではどのように運ぶかなどの細かなことは問題ではない。


私とレーノ様の予想では、今回ガッドに軍務卿である第三王子殿下と次期当主のラムス様がお越しになるのは、別の目的。それがコトハ様に会う、というのはおそらく違う。むしろ、「コトハ様と交渉した」ことを、利用する心づもりなのだろう。

そうすると、カイト様が代理となっていることは、思惑から外れることになる。とはいえ、クルセイル大公の代理であり、こちらも次期当主。さほど、問題はない。


このような話を、カイト様はもちろん、キアラも気づいてくれるといいのだけど・・・


まあ、キアラがそれをカイト様に話すのは難しそうね。

最近の2人は、そばで見ている方が焦れったい感じだもの・・・


カイト様とキアラが両思いなのは、端から見ていれば明らか。普段の訓練から、お屋敷の中での様子、勉強中の雰囲気などなど。亡き旦那との楽しかった日々を思い出すようで・・・・・・

けれど、どちらも踏み込んだアクションを起こさない。


男なのだから、カイト様がキアラに気持ちを伝えればいいと思うのだけど、カイト様はそういった素振りを見せない。キアラの思いが自分に向いていることに気づいていないとは思えないのだが、何か線引きしている様子なのよね。

キアラもまた同じ。キアラの性格もあるのだろうけれど、他にも何か。やはり、カイト様の立場?

キアラの過去の件は、対カイト様という意味では関係が無いとは思うのだけど・・・、いや、本人が考えていることなど、分かるものではないわね。


うーん・・・

にしても焦れったい。

コトハ様は、カイト様とポーラ様のご結婚に関与するつもりは無いようだし、うちの領に限ってはその必要性もない。

どの角度から見ても、繋がりを求められることはあっても、こちらから求める必要はない。まあ、レーノ様によれば、ご機嫌伺いを装った縁談の申し込みは定期的に届くそうだけど。


領に住む者としては、カイト様とキアラ、2人の幸せを願っている。もちろん、2人が結ばれればこれ以上ないが、そうでなくても2人には幸せになってもらいたい。

まあ、後でキアラの背中を押すくらいはしてもいいかもしれないわ。無理強いすることはないけど、今後、王都で学院に通われることを考えると、決めるなら早いほうがいいと思うし。


そんなことを勝手に考えていると、馬車はガッドの大きな門をくぐり抜け、中央にある大きな屋敷の前に到着した。



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